フィオスの特殊な形態変化1

「ゴミありますか?」


「ゴミ?


 ああ……まあたくさんあるよ」


 海にあるお店に行ってみるとリアイが働いていた。

 ピークの時間は過ぎていてだいぶ余裕があるが店員に任せるだけでなく自分でも働くその様は好感が持てる。


 リアイはジが訪ねてきたことを知ると自ら対応してくれた。

 何かお買い物かなと思っていたジが要求したのはゴミだった。


 なぜゴミを必要とするのかリアイは首を傾げたがパッとジがゴミ処理の仕事をしていたことを思い出した。

 公になっている情報ではないがどうやらジが他の人とは違う方法でゴミを処理して仕事しているらしいことまでは掴んでいた。


 今日のお礼にゴミを処理してくれるのかなとリアイは思った。

 リアイは日頃から首都にあるゴミ処理のシステムは素晴らしいと思っている。


 ゴミを処分するのも楽じゃない。

 ジがゴミを処理してくれるならそれはリアイにとってもありがたい。


 店の裏にジを案内する。


「本当なら明日捨てに行く予定だったからそれなりに量があるよ」


「好きにしても?」


「そこら辺に捨てるんじゃなきゃ好きにしてよ。


 どうせゴミだしね」


「ありがとうございます。


 あと、ロープってありません?」


「ロープ?


 何に使うの?


 どんなものがいいかな?」


「太さとかはなんでもいいです。


 それなりに長ければ」


「うーん……ちょっと見てくるね」


「わざわざすいません」


「いいって」


 リアイが出ていき、ジは抱えたフィオスを床に下ろす。

 ポヨンポヨンとフィオスは袋にまとめられたゴミに近づいて体の中に取り込む。


 結構たくさんあるゴミをフィオスは次々と取り込んで消化していく。


「お待たせ〜


 っておおっ!

 すごっ!」


 手に束にまとめられたローブ持ったリアイが戻ってきた。

 たくさんあったゴミが無くなって綺麗になっている。


 ゴミ捨ての面倒を思うと面倒な気分になっていたけれどこれはとてもありがたい。


「……なんだかおっきくなったね?」


 そしてジ抱えているフィオスは明らかに大きくなっていた。

 というかジの顔も透けるフィオス越しに見えているぐらいだった。


「ゴミありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそありがとう。


 これロープだけど持てる?」


「あーと……とりあえず手に…………ありがとうございます」


 落ちないように手とフィオスの間にロープを持たせてもらってジはお店を出る。

 あれがゴミ清掃の秘密かとリアイは1人納得していた。


 フラフラと店を出て砂浜に設置されたテントに戻るジは大きなフィオスを抱えているのでみんなに注目されていた。


「何してんだよ?」


 青いデカいフィオスは遠くからでも目立つ。

 ウルシュナとソコがジのところまで走ってきてくれた。


「ちょっと最後に遊ぼうと思ってな。


 このロープ持ってくんない?」


「いいけど」


 ウルシュナにロープを持ってもらい、テントまで帰ってきた。


「ヘレンゼールさん、ちょっと手伝ってくれませんか?」


「なんですか?」


 ジはみんなを引き連れて海の方に行く。


「おいしょっと」


 ロープの端をヘレンゼールに持ってもらい、逆の端をジの腰に巻く。


「放さないで持っててください。


 くいくいって引っ張ったらロープ引っ張って戻してください」


「……分かりました」


 何がしたいのか見えなくて不思議そうに眉を寄せる。

 ただジだから考えがあるのだろうととりあえず従ってみる。


「みんな集まって」


 みんなを近くに寄せる。


「行くよ」


「何をするんですか?」


「見てて。


 えいっ!」


 肌が触れそうになる程みんなが近寄った。

 そしてジはいまだに大きいままであるフィオスを投げ上げる。


「わっ!」


 するとフィオスの体が大きく広がった。

 弾け飛ぶ水のように広がるフィオスが降り落ちてきてみんなを包み込む。


「な、なにこれ?」


 フィオスに飲み込まれた、というよりもフィオスの膜に包み込まれた感じになった。

 青い半透明の向こう側に驚いた顔をするヘレンゼールが見える。


 過去においてフィオスに出来ることや能力を考察したり試したりすることは多くなかった。

 必要に迫られてそこにフィオスがいて、たまたま何かができそうだと思った時にのみ試してみることがあった。


 しかも試行回数も多くないし、細かく調整して試すこともなかった。

 けれどそんな中で成功したこともごく稀にある。


 その1つがこれであった。

 命名、フィオスドーム。


 溺れかけたジは泳ぐことも練習したが何か水辺で活動するのにいい方法はないかと考えた。

 面白半分でフィオスを川につけてフィオス越しに川の中を見ていたりしていた。


 そこでジはぼんやりと考えた。

 フィオスに頭を覆ってもらえば水中で目を開けたままでいられるのではないかと。


 こうした考えからちょっと試行錯誤した。

 最初はフィオスに取り込まれるような形で頭を覆ってもらったが息ができないとか問題があって、解決方法を探る形で試していった。


 時間だけはあったので試していった中での最終形態がフィオスが薄く膜を張るように包み込む形だったのである。


「なんだかフィオスに食べられたみたいだな」


 ウルシュナがポヨンポヨンとフィオスをつつく。

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