初めての海水浴2
「ん……ありがと」
照れ臭そうに体をくねらせるウルシュナの声は小さい。
素直に褒めてあげるのが正解だったようで内心でホッと安心する。
「リンデランは……とても可愛らしいね」
今度はリンデランに目を向ける。
ちゃんとみんなを褒めるのを忘れない。
リンデランが着ているのは上下分かれているタイプの水着。
白くてフリルの付いた水着はよりリンデランの白い肌を際立たせてくれる。
リンデランにしては大胆なようにも見えるけどこちらもまた似合っている。
顔のみならず首筋まで真っ赤になっているリンデランは褒められてへにゃりと笑う。
女の子を褒める言葉を知らないのでどストレートに褒めるしかない。
下手に言葉を並べ立てたり、何も言えない奴よりよっぽどタチが悪いとサーシャはジのことを見ている。
しかし娘が嬉しそうにしているので何も言うまい。
少なくとも冷たくして悲しませることはしないだろうから。
みんな揃ったので海で遊ぶ。
基本的には浅いところでバシャバシャと楽しみ、あまり深い所には行かないようにする。
「手、手を離さないでくださいね!」
海に来たことがないリンデランや双子は泳げない。
一通り浅いところで遊んでみるとちょっと深いところにも行ってみたくなるので自然と泳ぎの練習が始まった。
そこで判明したのは実はジが泳げるということ。
そんなに上手くもないけどジは問題ないほどには泳ぐことができた。
最初は海に慣れなかったけど泳いでいるうちに海に慣れてくるとみんなに教える側に回れた。
なぜ泳げるのか。
それはジには過去があるから。
色々なものを処分する仕事をしていたジは汚れることも多かった。
その汚れや体を川で洗い流すことがあったのだけどその時に溺れて死にかけたことがあった。
だからせめて岸にたどり着けるぐらいには泳げねばならないと泳ぎを覚えたのである。
リンデランに付き添って泳ぎを教える。
手を取って軽く引いてやり、リンデランが足を動かして体を浮かせながら前に進もうとしている。
「うん、上手いじゃないか」
運動神経の面ではやや鈍い方のリンデラン。
1日では泳ぎをマスターすることは難しそうだが水に浮くこともできなかった最初に比べると良くなった。
一方で運動神経もいいタとケはウルシュナに泳ぎを習ってある程度泳げるようになっていた。
泳げる、だけど立てば足のつくぐらいの深さのところで泳ぎ始めている。
「手を離すぞ……」
「ひゃ!
だ、ダメです!」
ジがそっと手を離すと途端にバランスを崩してしまうリンデラン。
慌てて足を動かしてジの腰にしがみつく。
けど冷静になれば浅くて簡単に足のつく場所だ。
「ご、ごめんなさい……」
「いいって。
慣れないと怖いよな」
溺れる恐怖はジも分かっている。
「とうっ!」
「とーうっ!」
「2人でいちゃついてんのずるいぞー!」
タとケとウルシュナがジとリンデランを襲撃する。
「きゃー!
ウーちゃん、溺れちゃうじゃないですか!」
「こんなところじゃ溺れないって!」
3人が飛び込んできてバランスを崩す。
ジが倒れたものだからジにしがみついていたリンデランも水の中に倒れ込む。
だけどジとリンデランがいるところは腰までの深さしかない。
溺れることなんてまずあり得ない。
プンプンと怒るリンデランにウルシュナは大笑いして抱きつく。
泳ぐのは結構体力を使う。
砂浜でもボールを使ったり、砂でちょっとお城を作ったり遊ぶ。
「師匠すげえ……」
手先が器用で凝り性なグルゼイは砂で大きな城を作り上げていた。
「一本どうかしら?」
「ありがとうございます……ってあれ?」
遊びっぱなしじゃなく休憩も取る。
テント横の砂の上でボーッと座っていると目の前に串に刺された腸詰めにされた肉が差し出された。
何の考えもなく受け取ってしまったが差し出した相手を見るとリアイがいた。
ナーズバインと書かれたエプロンを身につけて手の指の間には串を挟んで持っている。
もちろんリアイのことは今回の海遊びに呼んでいない。
「何でここに?」
「私たちは食料も扱ってるからね。
ここで食堂とか出店みたいな感じでお店もやってるのよ。
海のお店」
少し離れた砂浜にいくつか建物があった。
そこで食べ物や飲み物を買えるとサーシャが言っていて、今サーシャはそこにウルシュナとヘレンゼールを連れて買いに行っていた。
そのお店もナーズバイン商会のお店であったのだ。
リアイがいたのは偶然じゃない。
前日に水着を買いに来たのだから次の日にどうするかなど予想がつく。
お店の様子を見に来るついでに会いに来ていたのである。
「うちの姪っ子はどう?」
「ウルシュナですか?
すごい良い子だし、こんな俺でも仲良くしてくれるので助かってますよ」
「ふーん……」
もうちょっと色気のある返事を期待していたリアイはちょっとつまらなそうな顔をする。
まだ色恋沙汰には若すぎるかと思って、色気より食気だろうと食べてもないのにもう一本串をジに渡す。
「そうだなぁ……素敵な話と怖い話、どっちが好き?」
テントの中で休んでいたタとケにも串を渡してそのまま居座るリアイ。
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