初めての海水浴1
なんだかウルシュナまでソワソワしたりと落ち着かなくなって次の日を迎えた。
ニヤニヤとするサーシャのことは気になるけどあまり気にしすぎてもいけないとスルーした。
そして朝食をしっかり食べて海に向かった。
リンデランもウルシュナもなんだか暗い。
ちょっと頬を赤く染めたり落ち着かない感じで不機嫌というわけじゃなさそう。
ジと目が合うとすぐさま逸されてしまう。
浜まで馬車でやってきて、海で遊べば態度も柔らかくなるだろうと思って出来るだけ海を視界に入れないようにしながら準備をした。
「海だぁ!」
買った水着に着替えてジとユディットは女子たちに先駆けて一足先に砂浜に出てきた。
どこまでも広がっている海。
目の前にするとその壮大さに感動する。
少し沈み込むような砂の感触、頬を撫でる潮風、心地よく一定のリズムを刻む海の音。
話だけでは分からない海を全身で感じていた。
うっすらと感じていた潮の香りを思い切り吸い込んでみる。
「珍しい姿だな」
無邪気なジの姿にグルゼイも思わず優しい顔になる。
よほど海が近いところの出身か、広く旅でもしていないと海に来る機会などない。
グルゼイも海には行ったことがあるが悪魔を追いかける最中で心に余裕がなかった。
改めて見るとキラキラと光を反射させる海は美しさもあった。
ただ普段は見られない弟子の姿の方がグルゼイにとっては微笑ましいものである。
同時に砂浜は足腰を鍛えるのにも良さそうだなんてことも頭の隅では考えていた。
海にはグルゼイやヘレンゼールも来ている。
遊びにではない。
みんなの護衛のためにである。
もし仮にリンデランや双子に手を出そうとする者がいるならこの美しき浜辺は血に染まることになるだろう。
「にしても時間がかかっていますね」
肌を晒したまま長い時間日の下にいるのも良くない。
男性陣で簡易的なテントを砂浜に張って荷物なんかもそこに置くようにする。
海に入ってみたい衝動を堪えてみんなを待つ。
「女の子って時間がかかるものだ」
グルゼイは女性であるセランの護衛であった。
当然身だしなみの準備に時間がかかることも多く、そこに関して諦めにも似た悟りがあった。
そして特に今はジがいる。
女の子たちは準備にも念を入れるだろうなと思っている。
「ジ兄!」
「ジ兄ちゃん!」
「グオッ!」
ボーッと待っているとジがぶっ飛んで砂浜に転がっていく。
何事かと思ったらタとケが弾丸の如くジに抱きついていたのである。
「のーさつされちゃった!」
「えへへぇ〜」
ジも我ながら最近マシな体つきになってきたと思う。
ムッキムキになるまで鍛えるつもりはないけど見ていて見苦しくないぐらいにはなりたい。
意外と引き締まってきているジの体に手を回してタとケは嬉しそうに笑っている。
双子の襲撃は意外と大きな衝撃だったが地面が砂だったおかげで痛みはそんなにない。
「こら、危ないだろ」
3人とも砂まみれになってしまった。
まだ濡れてもないので軽く払えば落ちるけど若干口に入ってしまった。
「ぺっぺっ……」
「お、お待たせ……」
「お待たせしました……」
「おっ、2人とも……どうした?」
口に入った砂を取っているとサーシャを先頭にしてその後ろに隠れるようにしてリンデランとウルシュナも来た。
スタイルの良いサーシャは上手く水着を着こなし、堂々と歩いている。
本当に子持ちのお母さんなのかと疑いたくなるほどのスタイルの良さである。
黒い水着もよく似合っていて非常に艶やかで護衛についている騎士も思わず視線を向けてしまっている。
それに対してリンデランとウルシュナは1枚上に羽織っていてなんだか自信がなさそう。
きっと中は水着なのだろうとは思う。
「ほーら!
そのままじゃ泳げないでしょ?」
サーシャは2人を前に押し出す。
「わ、笑うなよ?」
「笑わないよ」
「あ、あんまり見ないでくださいね……」
リンデランが暗い顔していた理由、それは水着になるのが恥ずかしかったから。
その時はウルシュナは全く気づいていなかったがリンデランはジの前で水着になるということに気づいてしまって暗く、というか恥ずかしさでふさぎ込むようになってしまっていたのだ。
いざ水着を買う時になってウルシュナもそのことに気がついた。
水着なるぐらいなんてことはないと思っていたのにリンデランに言われて、リンデランが緊張していると自分まで緊張してきてしまった。
パサリと上着を脱ぐ。
「ど、どうだ?」
笑うなとは言ったけどリアクションがなくてもそれはそれで不安になる。
胴体全身を覆うぴっちりとした水着を身につけているウルシュナ。
水の抵抗が少なく泳ぎやすい水着なのだけど体のラインが出てしまい、今更ながらとても恥ずかしい。
「似合ってるよ。
ウルシュナらしくてとても綺麗だよ」
ファッションタイプな水着ではないのでちょっと言葉に困るけど手足がシュッとして長いウルシュナにはとても合っている。
可愛らしいというより綺麗である。
女性を褒める時には素直に言葉に出すように。
過去でどこかのオヤジが言っていた。
酒に酔っていて前歯しか無いようなオッサンのアドバイスだったけど何も言わないよりは遥かにいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます