みんなで海に8
「これが……スタンダードなんですか?」
とてもじゃないがこの水着は着られない。
こんなの着て泳がなきゃいけないなら服のまま泳いでやる。
「いえ、こちらはやや特殊なお方しか身につけません」
「何で勧めたんですか!」
「お似合いになられるかと」
「似合いません!」
そうですかと特に残念そうでもなくナソニは水着を戻す。
「ではこちらを……」
「ほぼ変わってません!」
ナソニが取り出したのはまた紐。
さっきのはパンツのように着けるものだったが今度のは紐が長くて肩に紐をかけるようにして着ける形のもの。
どちらの水着にしても股間をわずかに隠す程度の効果しかないことは変わらない。
「ユディット……」
「絶対に嫌ですよ!」
「だよな……」
「そうですか。
では違うのを」
「もっと布面積大きいのお願いします……」
ナソニが穏やかに笑いながら接客するものだから本気でやっているのか、冗談で和ませようとしてくれているのか分からない。
その後はぴっちりとしたものから緩めのズボンのようなものまで色々と見せてもらった。
ジもユディットもゆるく履ける水着を選んだ。
「あんなもの誰が着るのでしょうね?」
紐水着を思い出してユディットが苦い顔をする。
着る自分を想像してみたけど自分で自分の腹を切り裂いてしまいそうな恥ずかしさというか、嫌悪感みたいなもので背中がゾワゾワする。
ジはあの水着がどんな人に似合いそうか考えてみる。
失礼ながら知り合いの中で考えてみるけれどなかなか似合いそうな人はいない。
ギリギリのところでパージヴェルだろうか。
筋肉的な意味で体格の良い人なら似合いそうだと思った。
少なくとも一般的な体格で紐水着を着用するのはただのバカとしか言いようがない。
「まあ、俺たちじゃないよな」
ユディットは身長も高くて体格はいいので紐よりもちょっと布面積の大きなぴっちりタイプならギリギリ見栄えがするかもしれない。
「君がジ君だね?」
「えっ?
ああ、はい」
「いくよー、おいで!」
「ちょっと……引っ張らなくてもいきますよー」
こういう時の買い物は男子が圧倒的に早いのはしょうがない。
紐水着勧められるのも嫌なのでさっさと決めてしまったことも早さには関わっている。
なので女子の水着選びが終わるまで暇を持て余していた。
ユディットと会話していて気づかなかったが横にリアイが立っていた。
満面の笑みを浮かべるリアイに手を引かれて店の奥に連れていかれる。
店の奥には試着室があって何をするんだと聞く暇もなくそこに連れ込まれる。
「あっ、ジ兄!」
「ジお兄ちゃん!」
「ええっ!?
ジ、ジ君!?」
「うそっ!
なんで来てんだよ!」
部屋に入るとそこにタとケがいた。
声が聞こえたけどリンデランとウルシュナの姿は見えない。
どうやらカーテンで仕切られている向こう側にいるようだった。
下がスカートのようになっているワンピースタイプの水着を身につけた2人がジに駆け寄ってクルリと一回転する。
そしてどう?と上目遣いに見つめる。
2人の様子にジも思わず笑顔になる。
「可愛いよ。
よく似合ってる」
「本当?」
「ジ兄のこと、のーさつできる?」
ジを挟み込むように2人で腕に抱きつく。
まだまだタとケも幼いから悩殺されはしない。
でももう少し大きくなって大人びてくると分からないかもしれない。
女の子の成長は早い。
すでに美人の片鱗を見せているタとケが大人になって悩殺してきたら枯れていたと思った青春への思いが動き出してもおかしくはない。
「悩殺されちゃうかもな」
いや、実際今だって2人は眩しいぐらいだ。
こんな風に腕を絡んだことなんて過去には一度たりともなかった。
そう考えるとなかなか感慨深いものもあるな。
「じゃあのーさつしちゃう」
「水着は女の魅力を倍増させてくれるってサーシャさんが言ってたんだ」
確かに普段と違う少し露出の多い格好。
ドキリとしないと言えば嘘になってしまう。
「じゃあ俺も水着で2人を悩殺しちゃおうかな?」
「えへへっ、ジ兄になら」
「もうのーさつされちゃってるかも?」
頬を赤らめてはにかんだタとケ。
そこに愛おしさを感じる時点でジも悩殺されてしまっているのかもしれない。
「そいでリンデランとウルシュナは?」
もうなんとなくいるのは分かっている。
というかカーテンの隙間から目が見えている。
「グッ……絶対ダメ!」
「こ、心の準備ができていません!」
「いいじゃないの……って力強いわね!」
何かあったのだろうかと心配するジをよそにジを覗き込んでいた2人が引っ込みドタバタと聞こえてくる。
リンデランとウルシュナを押して仕切りの外に押し出そうとしたサーシャの動きを察したウルシュナが振り返って抱きつくようにして抵抗した。
リンデランも同じく抵抗し、サーシャは子供たちの思わぬ力に意外と困惑していた。
「どうせ海に行けば見せることになるじゃないの!」
「で、でもぉ!」
「今はダメなんです!」
「観念なさい!」
「お母さんこそ無理矢理はよくないよ!」
とりあえず会話は丸聞こえ。
事情を察したジはそっと試着室を出ることにした。
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