みんなで海に7

「それにしてもなんであなたがここにいるのよ?」


 本来なら国の方の店舗で働いているはずのリアイがどうしてここで働いているのか。

 以前に来た手紙にもそんな内容なかったのにと思い返してみる。


「こっちは商人だから流れに敏いから……っていうとカッコいいけどお父さんだよ」


「お父様が?」


「そう」


「そう……なの」


 サーシャは自分の父親の顔を思い出す。

 最後に会ったのは大分昔。


 他国の貴族と結婚すると言ったらとても憤慨していた。

 このままじゃ無理やり国に連れて帰られそうだったからリアイの助けも借りて家出同然にルシウスのところに転がり込んだ。


 時が経ち、そして娘が生まれてリアイを通じて少しは関係が改善したけれど一度できた溝は大きい。

 もともと厳格な人でもあったので今更態度を柔らかくするのに恥ずかしさがあるのかもしれないと思っていた。


「お父さんはサーシャのことちゃんと気にしてるんだよ。


 だからこの国との貿易も増やしたし姪が生まれた時も贈り物したり……あっ!」


「へえ?


 それは初耳ね?」


「あ、いや、これは……」


「私は受け取った覚えがないわね。


 ということはルーかしら?」


 そういえばウルシュナが産まれた時に見知らぬものがあった。

 ルシウスが気を利かせて買ってきてくれたのだと思っていたが、真面目だけどどこか抜けてて女性の扱いも上手くないルシウスにそんな気が回せるはずもない。

 

 その時は子供が生まれた喜びや忙しさで気づかなかったが今考えるとおかしい。


「あ、あはは……」


 サーシャの父親がこっそりと贈り物をしたことやそれをルシウスに受け取ってもらったことは秘密だった。

 義兄さんごめんとリアイは心の中で謝った。


 ルシウスはサーシャにウソをつけないし、すぐにばれるからと正直に言うように断ったけれど頼み込んで黙っていてもらった。

 どうせばれるだろうと思っていたら意外とばれることがなく今日まで来てしまっていた。


「まあいいわ。


 それでなんであなたがいるのよ?」


 父親のツンデレは分かった。

 それとリアイがここにいることと何の関係があるのか。


「だからお父さんはこの国の動向にも注目してて、危機的状況にあることをいち早くキャッチしたの」


 遠い地にいるために何かが起きたらすぐに伝えるようにと注視していた。

 そうしていると娘と孫が住む国でモンスターパニックが起きて食料危機が起こりそうなことをいち早く察した。


「それで素早い対応のために私が先に送り込まれたのよ」


 今ここは衣料品を扱っているが正面にある店舗もナーズバインの店舗であり、こちらでは食料品も扱っている。

 食料危機になるなら食料を運ばねばならない。


 ついでに素早い対応のためにある程度の裁量権も必要である。

 そこでリアイが先駆けて送り込まれたのである。


「もうすぐ食料を積んだ船も到着するはずなんだ」


 ともあれサーシャを見守っていて動きに気づいてその先手としてリアイがここにいるのであった。

 こっちに来たのならサーシャに挨拶にでも行くつもりだったけれどボージェナルに来ると事前に商会の方に連絡があった。


 なのでサプライズ的に待ち受けていた。


「ふーん」


「ふーんって……サーシャのためでもあるんだよ?」


「私のためでもあるんでしょうけどお父様は一切利益にならないことはしない人よ」


 サーシャの助けにもなるだろうけどこの場合は単純な話で食料を持ってくれば売れる側面も大きい。

 たとえサーシャを助けることになるとしてもそれはついでに助けになるだろうぐらいであるとサーシャは考えていた。


「はーぁ……お父さんもサーシャも素直じゃないんだから……」


「何かしら?」


「なんでもなーい」


 人の腹の内なんて分からないもの。

 リアイは最近の父親を見ていてそんなに利益にのみとらわれた人でもないと感じているが、言葉にも態度にも出さないから会わなきゃ何も分からない。


「とにかく今日は私が接客しちゃう!


 水着でしょ?


 ナソニは男の子の方をお願い」


「分かりました」


 ちょっとジたちは置いてきぼりな姉妹の話を終えて男女に分かれて水着を探す。


「あなたがフィオス商会のジさまですね」


「ええ、そうですが。


 俺のこと知っているんですか?」


「私たちも商会の人間ですからね」


 笑顔でこう述べるナソニにそうなのかとジは納得した。

 実際はウルシュナの動向を気にするうちにウルシュナと仲良くするジを知ったのだ。


 ウルシュナにふさわしいのかチェックする目的でジのことも調べていた。

 貧民であるが才覚あり。


 金銭的な面でウルシュナを困らせることがなさそうというのが評価だったのだけどそれを本人が知ることはない。


「水着ですが男性用の物ですとこちらですね」


 ナソニに連れられて男性用水着のコーナーに来た。


「こちらなんかどうですか?


 水の抵抗も少なく泳ぎやすい水着です」


「えっ、こ……」


 紐じゃないか。

 股間を隠すところにわずかに布地があるだけでそれ以外のところはほとんど紐である。


 こんなもの着ていないのと変わりがない!

 ユディットをみてみるとユディットも同じように水着を見て呆然としていた。

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