みんなで海に6
「スリに遭うなんて油断してるな〜?」
「そうだな……まさか別荘から近いところでも盗まれるなんて思ってもなかったよ」
それにジは子供だ。
保護者となるサーシャやヘレンゼールがいて自分がスリに狙われるなんて普通は考えない。
あまり失敗することもないジの珍しい光景にウルシュナがニヤーッと笑う。
「首都とはまた違うな。
あの子も貧民っぽさはないしもしかしたら悪ガキなこともあるから……分かんないよな」
ジも貧民であるし貧民ってなんとなく雰囲気で分かる。
あの少年はあまり貧民っぽさがなかった。
言い訳的になるがごく普通の少年に見えたのだ。
「お小遣い欲しさってこともあるからな」
「もしかしたらあの子がすごい泥棒だってこともあり得るかもね」
手癖の悪い子供など貴族の中にだっている。
遊ぶ金欲しさに手先の器用さを悪用している少年だったのかもしれない。
盗みをするということはお金に困っていると咄嗟に考えたジだったけれど失敗だったかもとちょっとだけ思った。
でもお金を持ってそうと思われたのならちょっと嬉しいなんてことも思っちゃったりするジではあった。
「ここよ」
サーシャの案内で訪れたお店。
ナーズバイン商会と看板が掲げられた大きな建物。
衣料品を扱っているお店のようで中には服が並んでいる。
お客の出入りもあるし繁盛している。
サーシャがドアを開けるとドア上に付けられたベルが鳴って来客を知らせる。
「あら、お嬢様!」
店員が入ってきたサーシャたちを見て嬉しそうに寄ってきた。
「お嬢様はやめてちょうだい。
もう子供じゃないのよ?」
ため息をついて軽く笑うサーシャ。
お嬢様と言われたのはなんとサーシャであった。
この場においてお嬢様と呼ばれるべきは何人かいるのに店員はお嬢様とサーシャのことを呼んだのだ。
「あら、お嬢様はいつまで経ってもお嬢様に違いないじゃないですか」
やや年配の女性店員はにこやかにサーシャと会話をする。
品が良くて話しかけやすそうな雰囲気のある人だ。
サーシャと同じ肌色の人でお嬢様と呼んでいることもあるので知り合いなのは明白である。
「今日は私も含めてこの子たちの水着を買いに来たのよ」
「あら!
ウルシュナ様ですね。
大きくなって……」
女性店員はウルシュナを見て嬉しそうに目を細める。
「えっと……」
「あなたは覚えていないでしょうね」
「ええ、最後にお会いしたのも小さい頃でしたからね」
「こちらはマーシェル。
そしてここは……」
「サーシャ!
サーシャじゃないの!
きゃはー!
久しぶりぃーーーー!」
何かがサーシャに飛んできた。
首に手を回して痛いほどに抱きしめて頬にキスをする。
見た目はサーシャそっくりだった。
サーシャは美しい髪を腰まで伸ばしているがサーシャに抱きついた女性は肩までの短さしかない。
ニコニコとした満面の笑みを浮かべてサーシャとの再会を喜んでいるように見えた。
「リアイ、久しぶりね!」
驚いたような表情を浮かべたサーシャもすぐに笑顔になってリアイを抱きしめる。
「誰だ?」
「ええと……ごめん、分かんない」
知ってるかと思ってウルシュナに聞いてみるけどウルシュナも分からないらしい。
女性店員もウルシュナが小さい頃に会ったきりだと言うししょうがない。
「こっちの子がウルシュナ?
それと……お友達かな?
はじめまして!
私はサーシャの妹……あなたの叔母になるわね」
「あっ、はじめまして!」
「サーシャに似て可愛い子だねー!」
リアイはウルシュナに手を差し出す。
パッと見た最初の印象では瓜二つのサーシャとリアイだったけれど正面からよくみると違いもある。
リアイの瞳はやや茶色っぽく、クールに見えるサーシャに比べて顔つきが柔和で人当たりがいい。
ウルシュナが緊張したようにリアイの握手に応じる。
リアイはウルシュナの手を握るとブンブンと上下に振る。
性格もサーシャより快活そうである。
どちらかと言えばウルシュナとリアイが親子みたいな近さがある。
「ウルシュナのお友達もようこそナーズバイン商会へ」
「ここって……」
「私の実家が持っているお店よ」
実はこのナーズバイン商会はサーシャの実家がやっている商会が持っている支店の1つなのであった。
サーシャの実家はリンデランのヘギウス家のように商売を営んでいるお家であった。
そうした共通点もサーシャとリンディアが仲良くなった理由なのである。
貴族商家で生まれたサーシャは物心つく小さい頃から結婚する前まで商会でも働いていた。
ナソニという年配の女性店員はサーシャがお店のお手伝いをする小さい頃から面倒を見てくれていた人だった。
そしてリアイはサーシャの実の妹。
結婚して家を離れるサーシャとは違って家を継ぐのだとリアイは国に残って経営を学んでいた。
本来は国の方にいるはずのリアイがいる。
サーシャとしてもリアイがいるのは意外なことだった。
手紙でのやりとりはあったが貴族としての勤めやお店の経営などに忙しく直接会うことはなかった。
元気そうな姿を見られて嬉しいけどなぜここにいるのか疑問に思わずにはいられなかった。
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