みんなで海に4

「くっ……フィオスお前もか……」


 そんな景色に感動していたのにみんなからつつかれるジ。

 なぜなのかフィオスも体を伸ばしてツンツンとジをつついていた。


 馬車の中にワッと笑いが起きる。


「楽しそうねぇ」


「そうね。


 あの子が来てからリンデランが明るくなったわ」


 ジたちが乗る馬車の1つ前の馬車にはウルシュナの母であるサーシャとリンデランの祖母であるリンディアが乗っていた。

 この2人も仲が良い。


 サーシャは自由奔放な性格であるが大きな貴族であるが故に目をつけられることも多かった。

 いわゆる陰湿なイジメのようなことがあった。


 そんな時にリンディアはそのようなことをする貴族をはしたないと一蹴して今は亡きリンデランの母親と共にサーシャと仲良くしていたのである。

 後ろの馬車からワイワイと聞こえる声にサーシャが笑う。


 楽しそうで、自分も楽しくなってくる。

 なんだかんだと行く人が多くなってしまったけれど多い方が楽しくて良い。


「パージヴェルさんも来れたらよかったのにね」


「先日の事件のせいであまり離れることができないのよ」


「ええ、面倒ですよね」


 魔神崇拝者王城襲撃事件でパージヴェルは魔神崇拝者であるクーリーと戦って倒した。

 そこまでは良かったのだけどクーリーとパージヴェルが顔見知りであったことが異端審問官に知られてしまった。


 リンデラン誘拐事件の犯人も魔神崇拝者でありパージヴェルが倒した。

 倒している以上は仲間ではない。


 そうではあるのだけど幸か不幸か微妙に繋がってしまっている。

 そのためにパージヴェルには首都から出ないように異端審問官から制限が出されていた。


 なのでお留守番させられている。

 孫娘と海に行きたいとワガママを言っただろうなとサーシャは思う。


 いい歳したデカい爺さんがワガママを言う姿はなかなか面白そうだとクスリとする。


「サーシャ」


「あら、どうしたのかしら?」


 馬車の外からルシウスが声をかけてきた。

 サーシャが窓を開けると馬に乗ったルシウスが馬車の横につけていた。


「もうボージェナルに着く。


 私たちは今回の任務を統括する領主のところに一度向かうから先に別荘の方に向かってくれ」


「分かったわ」


「何人か騎士は付けておく」


「いってらっしゃい」


「いってくる」


 直接キスはできないので指を唇に当てて投げキッスをルシウスにするサーシャ。

 ルシウスは軽く微笑んでそれを受け取ると馬を走らせて前の方に向かっていった。


 ルシウス率いる騎士たちが離れていって程なくしてジたちもボージェナルの町に到着した。

 活気に溢れていて首都とはまた違った雰囲気がある。


 街を歩く人にはこの国の人じゃなさそうな人も多い。

 首都ではあまり生の魚を見ることもないが海のすぐそばにあるボージェナルでは魚を売っている店も見られる。


 大きな湾を港としているボージェナルには大きな砂浜もある。

 そして別荘地はその砂浜から程よく離れたところにあった。


「でっけぇ……」


「首都のお宅よりも大きいかもしれませんね?」


「へへん!


 どうだ、すごいだろ!」


 ようやく着いた別荘。

 首都にある本邸も十分に大きいのだけど別荘はそれにも負けず劣らず大きかった。


「長旅ご苦労様でした、奥様」


 着くと別荘地を管理していくれている使用人の人たちが迎えてくれる。

 サーシャやウルシュナと同じような褐色肌の使用人が多い。


「お部屋の清掃はすでに済んでおります。


 お荷物お運びいたします」


「私のはいいわ。


 子供たちのをお願い」


「分かりました」


 なんとこの別荘には騎士用の屋敷もある。

 それほど大規模じゃないので連れてきた騎士全員が泊まるには足りないので本邸の方にもいくらか泊まるけどやはり規模が違う。


 それぞれに一部屋与えてもらえる形になった。

 タとケは1人ずつより2人一緒の方がいいので同じ部屋となった。


 屋敷の中はピカピカでよく手入れがされている。

 使用人のメイドさんも非常に丁寧で良く出来ている人たちである。


 ベッドも大きく、慣れない環境にユディットは緊張し通しであった。


「ジ、買い物行くわよ!」


 揺れないと言っても流石に長時間馬車に乗れば疲れる。

 広いベッドに体を投げ出していたらノックもせずにウルシュナが部屋に入ってきた。


「買い物ぉ?」


 着いていきなり何を買いに行きたいのだ。


「水着だよ!


 女の子に言わせんな!」


 怪訝そうな顔をするジにむくれたような顔をするウルシュナ。

 その後ろにはリンデランたちもいた。


 水着。

 つまりは水に入る用の服。


 首都では水に入ることなんてまずない。

 なのでジはもちろんタとケ、リンデランも水着は持っていない。


 ウルシュナは一応持っているけれど以前に別荘に来た時のものなのでサイズ的に心配。

 なら海で遊ぶには水着が必要だろうということになった。


 まだ夕方になるにも時間がある。

 遊ぶには厳しいけど水着を買いに行くぐらいならちょうどいい。


「なるほどね」


 そういうことならとジもベッドから降りる。


「ほんじゃ、いこーか」


「やったー!」


「ジ兄大好き!」


 中には服のまんま入るような人もいるらしいけどどうせならちゃんとした格好で海に入りたい。

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