第七章
悪魔とグルゼイ1
大規模な食糧不足。
恐れていた事態が起きてしまった。
すでに兆候は表れていたのだがもはやその事態は国全体に影響を及ぼしていた。
モンスターパニックによって虫が大量発生して様々なものを食らい尽くした。
当然その中には農作物も含まれていた。
結果的に国全体が大きな食糧不足となってしまったのである。
ならばなぜ建国祭を敢行したのか。
すでに準備は進んでいて止められないということもあったが国民の視線を逸らす意味や、他国から来ているお偉方と交渉の場を設けるためでもあった。
しかし他の国から食料を買ったとしてもすぐには届かない。
国民の空腹と不満は確実に高まっていた。
「ご飯でーす」
「はーい」
貧民街でも食べ物が足りなくてややピリついた気配は漂っているけれどジには関係ない。
なぜならジは事前に食べ物を溜め込んでいたからだ。
元々冷凍実験のために色々と買い込んであった。
その上リアーネから食料が足りない手紙を受けて、実際に外に出て状況を見ていた。
メリッサに手紙を出してさらに食べ物を貯めておくように指示を出していた。
贅沢するような余裕はないけれど節約しながら食べていけば飢えることなく生きていける。
タとケの料理は節約してても美味い。
あとは商会や工房のみんなにも分けたりしながらジは基本的に相変わらずの生活を送っていた。
国民を見殺しにする王様ではないと分かっているのでそのうち何か動きがあるだろうとのんびり構える。
いざとなればどんな状況でも生き延びてきたのだから泥だってすすって生きてみせる。
そうならないのが1番だけど。
「うんめぇー!」
「お前兵士だからメシは出んだろうよ?」
「おばちゃんが作ってくれるメシも美味いけど双子ちゃんが作ってくれるメシはまた違って美味いんだな、これが」
久々にライナスが遊びに来た。
割と休みのたびに遊びに来てくれていたけど少し時間が空いていた。
元気そうだから病気では無さそうだ。
「しばらく顔出さなかったけど忙しかったのか?」
「ん?
ああ、忙しいっちゃ忙し……かったのかな?」
「なんだよそれ?」
「なんかしてたってわけじゃないんだ。
拘束されてたんだ」
「拘束!?」
「別に手足縛られたりはしないぞ?
兵舎から出ちゃダメだって言われてよー」
「何があったんだ?」
「聞いてくれよ、俺の大活躍!」
そうしてライナスは王城の襲撃について話し始めた。
ジは知らない間にそんなことがあったのかと驚いた。
ライナスの中では化け物の1体を相手取って無傷で見事に倒した事になっていた。
大体ライナスのことだから大袈裟に言っているのは分かっている。
話の大きな内容として魔神崇拝者が襲ってきたらしいことは分かった。
そういえばとジは思った。
リンデランやケが誘拐された事件も魔神崇拝者の仕業だった。
パージヴェルから聞いた話ではその時の魔神崇拝者もまるで魔物のようになってしまったと言っていた気がする。
同一のグループの仕業ではないかと疑念がよぎる。
「んで、俺がバーンってトドメ刺してやったのよ!」
「すごーい!」
「ライナスお兄ちゃんさすがぁ!」
「はっはっはっ!
そーだろー!」
気持ち良く話すライナス。
タとケも純粋に話を聞いてくれるので気分が良くなる。
「まあそこまではよかったんだけどさ。
そっからだよ……」
渋ーい顔をするライナス。
劇場のスタッフや演者のみならず招待客や兵士にまで魔神崇拝者が紛れ込んでいた。
そのために異端審問官主導で調査が行われた。
他に仲間はいないか、手引きをした者や情報を流した者はいないかなど調べられたのである。
ライナスは魔神崇拝者を倒したし、子供であるので比較的早く解放された方で兵士の中にはまだ拘束されている人もいた。
子供でも容赦のない異端審問官の顔を思い出してジもライナスに同情する。
無論ジの時よりもライナスの方が優しく尋問されたろうけどそもそも尋問されるいわれもないのに尋問されるのは精神的にくるものがある。
「都市からは出るなって言われたけどここは都市の外じゃないしな」
「……ライナス」
「どうかしました、グルゼイさん?」
「本当に魔神崇拝者、悪魔が現れたのだな?」
「そ、そう……です」
グルゼイも家にいて黙ってご飯を食べていた。
若い才能の活躍を横で静かに聞いていたのだけどとある単語を聞いて手が止まっていた。
魔神崇拝者という言葉である。
思わず力が入ってグルゼイの手の中でフォークが歪んでいる。
魔神崇拝者、ひいては悪魔にグルゼイは異常な反応を見せていた。
ライナスだけでなくタとケも怖い目をするグルゼイに怯えてジの後ろに隠れる。
「……いや、済まなかった。
頭を冷やしてくる」
みんなの態度を見て自分がどんな顔をしていたかグルゼイは悟った。
申し訳なさそうな笑みを浮かべると歪んだフォークを置いてグルゼイは家を出て行った。
「こ、こえぇぇ……」
そのまま切り殺されるのではないかと思うほどグルゼイは殺気立っていた。
何がグルゼイの逆鱗に触れたのか分からないライナスは視線をさまよわせている。
「悪いな。
2人も大丈夫か?」
「う、うん……」
「おじちゃん、怖かった……」
ちょっと涙を浮かべているタとケ。
あんな本気の殺気を受けたのは初めてだっただろう。
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