閑話・悪魔が城に現れた3

「放て!」


 客席の貴族だった化け物にクロッコのシールドが破られた。

 その姿はやや昆虫的で肥大した体はかなり細く虫のようになっている。


 顔以外のところはもう人の姿ではない。

 一斉に兵士たちから魔法が放たれて虫の化け物に当たる。


 貴重な劇場だからと悠長に保護しながら戦えはしない。

 客席が吹き飛ぶ威力の魔法を受けても虫の化け物はダメージを受けた様子もなかった。


「これは……ヤバいねぇ〜」


 残りの化け物ももう出てきそう。

 クロッコはわずかに考えてまずは虫の化け物に向かった。


「みなさんちょっと退けてくださーい!」


 奇妙な雄叫びをあげる虫の化け物の前にクロッコが降り立つ。

 右腕を伸ばして虫の化け物に手のひらを向ける。


 右手に集められた魔力が魔法に変わって光がほとばしった。


「ぶっ飛べー!」


 魔法が爆発して虫の化け物が飛んでいく。

 方向はステージ側。


 虫の化け物は客席にいて比較的避難する人たちと距離が近い。

 避難する人たちとは逆の方向にぶっ飛ばすことで少しでも距離を取らせようとしたのだ。


 魔法を放ったクロッコはステージの上に転がる虫の化け物を冷たい目で見ながら思った。

 硬い、と。


 単なる見た目だけじゃない。

 虫系の魔物にありがちな外骨格的な硬度を魔法の反発から感じ取っていた。


「ふ〜ん……」


 さっさとロイヤルガードでも来てくれないかなと思う。


「ぎゃあああっ!」


 また1つシールドが破られた。

 こちらは形的には人に近い。


 ブヨブヨと肥大した体は分厚い筋肉をまとったようになっていてシールドを破った勢いのまま飛び出して兵士を1人殴り飛ばした。

 藁でできた人形でも殴り飛ばしたように鎧を着た兵士が宙を舞う。


 とてもじゃないが人間のパワーではない。

 そして荒く息をしながら振り向いてクロッコにもそいつの顔が見えた。


 どう変化したらそうなるのか、目が1つになっている。

 片目になったのではなく真ん中に大きな1つの目があるのだ。


 この変化が何によってもたらされたものなのかはクロッコには予想もつかないがとんでもなくヤバそうなことだけは分かる。

 兵士と化け物たちが戦い出す。


 王を守り貴族を守るために集められた兵士たちだから質としてはかなり高いはず。

 しかしそんな兵士たちが一瞬の油断、通じない常識、高い破壊力の前にやられていく。


 硬い外骨格に剣が阻まれて反撃をくらい、魔法にも怯まない。

 それなのに化け物たちの一撃は凄まじく熟練の兵士であっても1発でやられてしまう。


「こっちもいるよ〜。


 バーン」


 クロッコはステージの上まで飛んでいくと虫の化け物の後ろに回り込む。

 ピッと指を伸ばして虫の化け物の背中に向けると指先から火の魔法を放った。


 細く長く、渦巻きながらビームのように打ち出された魔法は少し狙いがズレて虫の化け物の肩に当たった。


「うるさいねぇ……」


 クロッコの魔法は虫の化け物の肩を貫通した。

 人のものとは思えない悲鳴を上げて、その耳障りさに眉をひそめた。


 ただ魔法が通じないものでもなさそう。


「うらぁ!」


「ん?


 あれは……」


 他のシールドも壊れてそれぞれ化け物との戦いが始まる。

 異様とも言える見た目の変貌ぶりと意外な相手の能力の高さに最初は困惑していたがそこは精鋭の兵士たち。


 ロイヤルガードや戦争の英雄ほどでなくても高くて安定した実力をもって、連携を取って戦えば一方的にやられる相手ではない。

 精鋭の中でも頭1つ出た実力を持つ者が中心となって化け物に当たり、最初のような被害者は少なくなっている。


 化け物の中の1人は魚類のような鱗を持った見た目になっていてマーマンにも似たような姿になっていた。

 その化け物と正面切って戦っているのはなんと若い少年であった。


 それはライナス。

 ロイヤルガードではないので直接王様の護衛ではないがこの会場の警備についていた。


「ふっふっふっ、この俺がいたことが運の尽きだな!」


 最初は子供だからと避難させられそうになったけれど混雑した人の中に子供の体格では危険が伴う。

 誘導しようにも子供じゃ言うこと聞いてくれないし、こんな時に逃げていられないとライナスは剣を抜いた。


 懐から取り出したナイフで応戦する魚の化け物は他の化け物に比べるとやや戦力的に弱い。

 しかも魚タイプであるために雷属性の魔法を使えるライナスにとってとても相性が良かった。


 加速して一瞬で魚の化け物の懐に入り込む。

 素早いライナスの斬撃に魚の化け物は反応しきれない。


 鱗も硬く、切れはしないが鱗が散っていく。

 戦っているのはライナスだけではない。


 ライナスの実力が高いことを一瞬で認めた兵士たちはライナスをフォローする様に動いている。

 魚の化け物もライナスの斬撃が自分を切るまでいかないことが分かってそのまま反撃しようとしている。


 ライナスへの注意を分散させるために切りかかったり魔法で攻撃したりと邪魔をする。


「はっ!」


 ライナスの突きが当たり、脇腹の鱗が真っ二つに割れる。

 そのままライナスは剣を通して電撃を魚の化け物に流す。


 わずかに震えて魚の化け物の動きが止まる。

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