みんなでワイワイと

「なんで怒ってんだよ?」


「知らない知らない知らなーい!」


 唇を尖らせてムッとしているミュコ。

 訳が分からず困惑するジ。


「えいっ」


「むー!


 そーいうんじゃなーい!」


 膨れた頬をつつくと空気が抜ける。

 プンスカと怒るミュコと怒られるジは今町に繰り出していた。


 王城での公演は1回だけ。

 だから終わってしまえばあとは時間がある。


 そこでジはミュコを建国祭に誘った。

 実はミュコのお願いも一緒に建国祭に行ってほしいというものでジの方から言ってくれたことに大喜びだったのだった。


 けれど蓋を開けてみるとちょっとだけ想定とは違った。


「次はあっちー!」


「あれ食べたい!」


「んじゃ行こっか」


 なぜならジは他の人も誘っていたからである。

 お馴染みの子供メンバーたち。


 エ、リンデラン、ウルシュナ、アユイン、ユダリカ、キーケック、タとケ、ヒスまでいる。

 護衛としてユディットやなぜなのかヘレンゼールとグルゼイも保護者代わりにいた。


 場所が場所だし、メンバーがメンバーだけに私服に偽装した騎士もひっそりと護衛として近くにいる。

 そこそこ人数の集まってしまった。


 ライナスは仕事の都合で来れなかった。

 残念ながらお仕事優先。


 そうしてお祭りを楽しんでいるのだけどミュコの想定ではジと2人でお祭りを回るつもりだった。


「……みんなと一緒じゃ嫌か?」


「嫌じゃないけど」


 むしろ友達みんなとワイワイ出来るなんて良いことだろう。

 なのになぜこんなにモヤモヤしているのかミュコ自身にも不思議だった。


「ほれ、食べーよ」


「……うん、ありがと」


 果物を刺した串。

 軽く火で炙ってあり、とても甘くて美味しい。


「口に付いてますよ」


「ん、ありがとう」


 ヒスがハンカチでキーケックの口を拭いてあげている。

 魔物実験のお手伝いもするのでキーケックとヒスは仲良くなっていた。


 独特な話し方をするキーケックだけどちゃんと話を聞けば別に普通の話し方と大きく違ったものじゃない。

 付き合ってみれば良いやつでヒスとは気が合うようだった。


「ほんっと凄かったよ!」


「うんうん、正直暇な演劇ってあるんですが全然飽きませんでした」


「ほんと?


 ならよかった!」


「私もあれほどまでに綺麗な踊りは初めて見ました!」


「むーちゃむちゃきれいだったな!」


「うへへ……みんなありがとう」


 エ、リンデラン、ウルシュナ、アユインがミュコを褒めちぎる。

 あの感動を本人に伝えたくてみんなたまらないようだ。


「そんな凄かったのか?」


「ああ、凄かったよ」


「そうなんか……観にいきゃよかったな」


 ユダリカはあまり演劇なんかに興味はない。

 平民街での公演の日にはやることもあった。


「ミュコお姉ちゃん凄かったよ!」


「キラキラして、ヒラヒラして、クルクルして……何回見てもわぁーってなる!」


 タとケもミュコのファンになっている。


「ふーん……」


「お前もこういうの知ってかないとな?」


「なんでだよ?」


「昨日はヒディとお祭り回ったんだろ?」


 ピキンとユダリカの動きが止まった。


「なななな、なんでそれを」


 ユダリカが公演を観にこなかった理由はヒディとデートしていたから。

 昨日は平民街で公演があって人が集まりすぎて劇場の仕事をジも手伝っていた。


 ただまあ子供だし人の整理は結構疲れるのでこっそり休憩していた。

 そんな時にユダリカを目撃していた。


 ヒディに引きずられるようにしてお祭りの人の波に消えていくその姿を。


「ち、違っ……くないけど。


 あれはヒディがどうしてもって言うから!


 こないだ授業で助けてもらったから付き合えって……」


「いいじゃーん」


「そのニヤけ顔やめてくれー!」


 なんだかんだヒディとユダリカは仲が良くなっていた。

 授業が重なることも多く、割と授業に対して真面目な2人は口では多少の文句を言いながらも波長は合っていた。


 戦略的な授業ではユダリカは正面から挑んでいくことを好む性格なのだけどヒディはしっかりと状況を見て変則的な手も考える。

 互いに互いのやり方は認めていて、時に議論を交わすこともあった。


 建国祭の前にたまたま授業の課題に関してユダリカはヒディに助けてもらった。

 だからヒディの誘いに応じてお祭りに一緒に行っていたのだ。


 耳が赤くなっているユダリカをツンツンとつつくジ。

 もしかしたら全くの余計なお節介に終わるかと思って心配していたけど、やっぱりユダリカとヒディは過去でも心から惹かれあっていたのだ。


 恋は尊く素晴らしい。

 過去では自分に恋の話がなかったからジは幸せな恋の話が好きだった。


 今だって嫌いじゃない。

 身の回りにそうした恋をしている人がいるなら是非とも応援したい。


「なーに話してんの?」


「ユダリカがな……」


「わーわーわー!


 べべ、別にそんなんじゃねえって!」


「ふーん。


 ジ、口開けて」


「ん?


 あー」


「ほい」


「ん、なにふぉれ?」


 腕に抱きついてきたエがジの口に何かを放り込んだ。

 口の中でほろほろと溶けて甘さが広がる。


「お菓子。


 美味しかったから食べさせてあげようと思って」


「あっ、じゃあこっちもどうぞ!」


「んー、これも食うか?」


「ま、まあ順番にな」


 人の恋路は応援するが自分はどうか。

 お返しにからかってやろうにも口を出すだけ返り討ちにあいそうだとユダリカは踏みとどまる。


「ジ兄これも」


「ジお兄ちゃんこんなのもあるよ〜」


「むむむむむ……むー!」


 女の子に囲まれるジ。

 どの子も悪かないけどどの子も一筋縄でいかない強さがある子ばかり。


「ジ……苦労すんな」


 自分のことは棚に上げてユダリカは生温かい目でジの困り顔を眺めていたのであった。

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