未来の舞姫2
「と、友達はねぇ、すごく良い。
楽しいよ」
ミュコは照れたように笑う。
そういえばミュコのこんな顔を最後に見たのはいつだっただろう。
「……楽しいか?」
「うん……旅も楽しいけどこういうのも悪くないかな?」
「そうか」
「相変わらずソリャンお姉さんの踊りは綺麗だね」
「うむ。
この分なら本番も問題はなさそうだ」
ニージャッド自身王族の前で公演することになりましたと聞いた時は度肝を抜かした。
この国で活動していなかったニージャッドはジのウワサも全く知らない。
自分の雇い主が一体何者なのだと考えた時もあったが何者だろうと自分は依頼された通りに公演するだけだ。
「ちょっと待っててね」
ソリャンの踊りが終わった。
ミュコは走っていって演奏の担当に何かを告げている。
そしてそのままステージに上がる。
剣舞を披露をするつもりだ。
ちゃんと練習していたことを示すつもりなんだなとニージャッドは思っていた。
「この曲は」
しかし演奏され始めた曲を聴いてニージャッドは驚きに目を見開いた。
それはいつもの曲と違っている。
ミュコがゆっくりと動き出して剣舞を始める。
「すごい……」
タオルで汗を拭きながら息を整えていたソリャンは思わず流れる汗を拭くことも忘れてステージの上に見入ってしまった。
正直な話まだまだ歌劇団のエースとしての座をミュコに譲ることはないだろうと思っていた。
もっと成長してミュコがより美人に成長して今の技術を伸ばしていけば追い越されることもあるかもしれないけど今はそんなことは起こり得ない。
そう思っていたのにミュコの剣舞を見て息を飲んだ。
まるで魂が引き込まれてしまいそうになるような鋭さと美しさを持った剣舞。
途中で演奏している劇団員まで手を止める。
無音の中にミュコの剣が空気を切り裂き、ステージを蹴る音だけが聞こえる。
ジはミュコに剣舞を教えていた。
過去ミュコに習った剣舞を、今ミュコに教えていたのである。
ミュコがイラついていたのは上手く踊れなかったから。
ミュコが笑顔だったのは上手く踊れたから。
練習に遅れたのもギリギリまで剣舞を練習していたからである。
「シュレイムドールを守る……」
ミュコが踊る剣舞の名前は“シュレイムドールを守る”というもの。
シュレイムドールとは美しき月の神であり月そのものと言われている。
同時に男女の仲を守る存在でもあるとされている。
その場にいる全員が呼吸も忘れて剣舞に見入る。
「す、すごいぞ……」
ミュコがまだ子供であることも忘れるほどの剣舞を披露して踊り終えた。
ミュコがペコリと頭を下げても余韻に浸っていたがニージャッドがハッと正気にかえって拍手を送る。
みんなも拍手を聞いて同じく正気にかえって拍手をし始める。
普段から剣舞や踊りを見ている劇団員のみんなですら魅了してしまう剣舞だった。
惜しみなく送られる拍手にミュコがもう一度照れ臭そうにお辞儀する。
「どういうことだ?」
ニッコリと笑ったミュコがステージから降りてきたのでタオルを渡してやる。
全力で踊ったのでミュコは汗だくになっている。
「あれはお前の母親の……なんで」
「……秘密です!」
舌をペロリと出してウィンクするミュコ。
ジは剣舞を教えることに条件を出した。
それはジに剣舞を知っている理由をこれ以上訊ねないこととジが教えたのだと周りに言わないこと。
秘密にしたってバレるものはバレるものだけど本人が吹聴して回らないのに聞き出すこともできない。
ミュコは剣舞を見て疑問が吹き飛んでしまったけど細かく詰められると誤魔化すにもキツイものがある。
結局ミュコも後々疑問に思うのだけどもう約束して教えてもらったのだからジが剣舞について知っていることは謎のままになることになった。
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