過去との再会4
「こら、ミュコ!」
「ふーんだ」
「……すいません」
「いえ、いいんですよ」
非常に失礼な態度だけど落ち度はジの方にあるし元気ならそれでいい。
「さすが商会長ともなるとお若くても出来たお方ですね」
「まだまだ未熟者ですよ」
「完璧な人なんておらず、どこかしらでミスはするものです」
「そう言っていただけると。
こちらお詫びではありませんが皆さんでお召し上がりください」
「これは……ありがとうございます」
待っている間手持ち無沙汰だったので持ってきた食材で簡単にサンドイッチを作っておいた。
このような状況ではみんなもお腹が空いているだろうとお詫びも兼ねてのご提供。
実はみんなちらちらと気にしていたサンドイッチが乗ったお皿を渡す。
「1つもらおう」
「私も……」
「じゃあ……」
「ミュコ、これをみんなに持っていってくれるか?」
「はーい!」
「走ると落とすかも……はは、どうにもお転婆で」
「元気なのはいいことですよ」
ジからひったくるようにお皿を受け取ってミュコは部屋から出ていく。
もっとお淑やかなイメージだったのでこんなだったのかと驚きはあるがみんなに早く持っていきたいのだろうと怒りはない。
「食べながらで構いません。
雑談みたいな感じでいきましょ」
堅苦しい挨拶なんてするつもりはない。
部屋に備え付けられている椅子じゃ数は足りないのてベッドに座る。
商談ならマナーは悪いがすでにおおよその話は決まっていて、今は軽い報告で済ますつもり。
ちゃんとした会議室でもないのでいいだろう。
「それじゃあ、この度は公演を引き受けていただきありがとうございます」
「たまたまスケジュールが空いていたのでこちらとしても助かりました」
「このような事態になりまして申し訳ないです」
「モンスターパニックは自然の現象ですからジさんのせいではありませんよ」
ジのせいではなくてもタイミングは悪かった。
「今回こちらまで赴くつもりはなかったのですがリアーネから食料が足りないと連絡を受けてこちらまで来ました。
しばらくは大丈夫だと思います」
「本当ですか。
ありがとうございます、助かりました」
「食料を買おうにもかなり高騰していて厳しかったですからね」
「食料はこれでいいのですがこの事態がいつ終息するのか……」
「それについてもそれほど心配する必要はありません。
近いうちに終わると思います」
「本当ですか?」
「ええ、騎士に聞いた話なので」
むしろモンスターパニックが片付けばしばらくの間魔物は戻ってこないだろうから安全に素早く移動できる。
一度特殊な個体が出てしまったので他にもそうした個体が現れる可能性がある。
だから騎士たちも早急にモンスターパニックを収束させにかかるはずだ。
「それならよかったです」
「建国祭もまだ時間はありますし準備も含めて間に合うでしょう」
「お優しい依頼主で助かりました。
中にこんな状況でも自分でなんとかしろと突き放す人も多いですから」
「無理を言って来てもらったのですからこれぐらい当然ですよ」
本来ならジの依頼は受けないところだった。
誰彼構わず仕事を受ければいいものでもなく、誰かの紹介でもなかった。
ジのいるところに公演に来たこともなくて繋がりも一切ないので怪しいとさえ思った。
ちょっとした事情がなければ受けずに断っていただろう。
しかし護衛や案内としてリアーネを付けてくれたりこうしてわざわざ危険を冒して食料を持ってきてくれたりした。
周りの環境は少し良くないけれど引き受けてみても悪くはない人だとジのことは見ていた。
「1つご質問よろしいですか?」
「なんですか、タニアさん?」
「私たちのことはどこでお知りに?」
テレンシア歌劇団は南方にある諸国で活動していた。
南方の方では多少名が知れてきたかもしれないけどそこまで広く名前が伝わっているとはどうしても思えなかった。
小さい歌劇団なので呼び寄せて何かさせられたりお金を引き出せるものではないので警戒はしていないが気にはなる。
「たまたま知り合いから聞いたんですよ。
名前からお分かりでしょう、私の身分?」
「ええ……まあ」
「貧民となると色々な人がいます。
色々なところから色々な事情を抱えた色々な人が流れてくるんです。
そうした中の1人から聞いたんです」
「なるほど」
テレンシア歌劇団は別に貴族のみが顧客ではない。
平民や貧民から公演依頼がくることはまずないけれども教会から依頼を受けて公演したこともある。
どこで話が伝わるか分からないのでどこかでジが聞いたとしてもおかしい話ではないのだ。
「ですが探すのも楽なことではなかったでしょう。
私たちも色々渡り歩いているので」
「そうですね、リアーネの運が良かったんだと思います」
もちろんリアーネにいくつもの国を探させるなんてことはさせない。
過去で何となく何処にいるかの話を聞いていた。
だからこそリアーネを行かせた。
そこにいなかったら諦めるつもりだった。
結果はそこにいて、リアーネの交渉も成功して今がある。
「それで建国祭では私たちは……」
そうして仕事の内容について少し細かに詰めていく。
リアーネに任せたのは手紙とおおよその内容のなので向こうも聞きたかったことがあるみたいだった。
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