過去との再会2

「くそぅ……こんなはずじゃなかったのに」


 想像ではスマートに仕事をしてスマートに報告をしてジに褒められる予定だった。

 なのに久々に会える嬉しさに自分の格好のことを全く忘れていた。


 過酷に行使してきたので完全に消えない傷がある体。

 乱雑な環境な冒険者の中にあっても他の冒険者に必要以上に肌を晒したこともなかった。


 恥ずかしいし、不安だ。

 醜いなんて思われたら。


「……綺麗だったよ」


「え?」


「リアーネは決して油断したり相手を舐めてかかったりしない。


 傷跡はきっと名誉の負傷みたいなものだろう?


 だから醜いとか絶対に思わないよ」


 触れるべきではないかもしれないと思ったけど言わずにはいられなかった。

 恥ずかしさの中でリアーネが何を考えているのかジには分かっていた。


 過去で戦争になった時に度重なる戦いで女性の兵士なども多く動員された。

 ジは前線に出ることはなかったのだけどそうした女性兵士は後方に置かれることも多くて接することもあった。


 戦うことにためらいなんかはなかったけれどもケガが増えたりして女性らしさが損なわれてしまうことに悩んでいる人も中にはいたのである。

 それをバカにする心無い野郎もいたがジは戦えない自分の代わりに戦ってくれる人に対して醜いなどと思わずよく褒める言葉を口にしていた。


 褒めると女性たちは嬉しそうだった。

 時にそうして抱える悩みも聞いたこともあった。


「そ、そうか?


 まあお前がそう言ってくれるなら?」


 リアーネが頬を染めてモジモジとする。

 他の人に何か思われるのは気にならないけどジの意見は気になる。


 他の人がそんなこと言えば疑うけどジが言ってくれるなら素直にそう受け入れられる。


「ウヘヘ……」


「それで劇団の人は?」


「同じ階に宿泊してるよ。


 安く泊まれるし防犯も兼ねてこの階を丸ごと貸し切っているんだ」


 干し肉をかじるリアーネ。

 しばらく食料の節約生活だったから単なる干し肉でも美味い。


「劇団長は305だ。


 今食べちまうからちょっと待ってろ」


「ゆっくり食べてもいいよ。


 どうせ時間はまだたくさんある」


 さっさと話に行ったところでスキムットをすぐに出発できもしない。

 ここまで頑張ってくれたリアーネを先に労ってやろう。


「ユディット」


「はい」


 ユディットは持っていた木箱を床に置く。

 完全に密閉された木箱に剣を差し込んで開ける。


「おっ、意外とまだ冷たいな。


 これも食うといい」


 箱の中にはパン。

 取り出そうと手を入れると箱の中の空気はまだひんやりとしていて冷たい。


 これは内側にパロモリ液を厚めに塗った箱で二重底になっていてしたには氷が詰められている。

 直接氷を詰めてしまってもいいのだけどパロモリ液も完全ではない。


 氷はいつか溶けてしまうので中の物が濡れてしまうので二重底にした。

 どうやら氷は溶けてしまっているようでチャポチャポしているけど冷たさはまだ残っているようだった。


「柔らかい」


 焼き立てパンには劣るけれどパロモリ液を使った保存箱に入れておくとそれなりの期間パンが長持ちする。

 何もしなくても長時間保つ固いパンよりはかなりいいはずだ。


 しかもこのパンは良いパン。

 多少品質が落ちても美味い。


「美味い!


 マジでありがとう!


 このままじゃこんな町中で餓死するかと思ってたわ」


「色々持ってきているからあとで調理するなりしよう」


「最高の雇い主だな!


 抱きしめていいか?」


「いいぞ」


「ええっ?


 あっ、いや、じょ、冗談だよ」


 軽い冗談のつもりで口にした言葉。

 普通に受け入れられてリアーネの方が面を食らう。


「大変だったと思うけどよくやってくれたな」


 抱きしめまではしないけどリアーネの頭に手を置いて撫でる。


「やめろよ……子供じゃねえんだし……」


 とは言いながらもやや腰を落として撫でを受け入れる。

 ちょっとだけ目頭が熱くなる思いがするリアーネ。


 こんなふうに褒められたことなんて子供の時だって少ない。

 これだからジのために頑張ってしまう。


「でもよ、本当に私が護衛する必要なんてあったのか?


 全然そんな必要なかった感じだったけどさ」


「念のためだよ。


 何があるか分からないからね」


 これに関しては本当に念の為である。

 この時期において劇団に何かが起こるとは思っていないけどこんな世の中何が起こるか予想はできない。


 リアーネなら大体の出来事に対処できるので安心だと思った。


「まあ結局こんなことになったしな」


 今回モンスターパニックという事態が起きた。

 モンスターパニックはリアーネにも対処できないけれどもジに素早く連絡を取った。


 リアーネがいなかったら今頃劇団はただ立ち往生して食糧不足に喘いでいたことだろう。


「モンスターパニックもいつ収まることやら……」


「それはきっとそんなに先じゃないさ」


「そうなのか?」


「俺たちもここに来るまでに色々あったんだよ」


 実際モンスターパニックの対処に当たる騎士たちに聞いたのだから収束にもそれほど時間がかからないはずだ。


「あんま食べすぎてもな」


 食料を持ってきてくれているのなら干し肉とパンだけでお腹いっぱいにするのも勿体無い。


「じゃあそろそろ挨拶に向かおうか」


 食料はリアーネだけのものでもない。

 劇団の人にも挨拶をして今後についての話し合いや食事をしようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る