過去との再会1

「長かったなぁ」


「家を出るときにはこんなことになるなんて思っていませんでしたね」


 駐屯地で任された分と売った分の食料を下ろしてようやく着いたスキムットの町。

 美味しい根菜が名産であるスキムットは周りの農村の産出物が集まるために流通の場として発展した中規模程度の都市である。


 都会すぎず、かと言って田舎というにも大きな町だけどしっかりと区画も整備されていて住みやすそう。

 まずは冒険者ギルドに向かう。


 何も依頼を受けようなんてつもりはない。

 この町にいるはずであるリアーネと合流するためだ。


 冒険者ギルドでバッタリ出くわすことが出来るのが理想的であるがそのような奇跡にも期待はしていない。


「ちょっと見てくるから待っててくれ」


 ジは馬車を降りて冒険者ギルドに入る。

 子供であるジに視線が集まるけれど突っかかって追い出すこともないのですぐに自分の行動に戻っていく。


 ジが向かうのは冒険者ギルドに設けられている掲示板。

 離れた人への連絡手段は手紙ぐらいしかない。


 けれども互いにどこにいるのかも分からない相手とは手紙でも連絡を取ることは難しい。

 そんな時に活用されるのが冒険者ギルドの掲示板である。


 自分の居場所や連絡を取りたい旨などを簡単に紙に書いて貼っておいてくれる掲示板が冒険者ギルドにはある。

 依頼から戻ったら連絡くれとか今度飲もうなんて貼っている中からリアーネのメッセージを探す。


「あった。


 サマーテって宿に泊まってるのか」

 

 冒険者であるリアーネもちゃんとそうした使い方を分かっている。

 リアーネからのメッセージを見つけたジ。


 どうやらリアーネはサマーテという宿に劇団の人と宿泊しているようだった。

 ギルドの人にサマーテの場所を聞いてそこに向かう。


「スカスカですね」


「しょうがない……物流も止まっているだろうからな」


 途中で市場を通っていくが並んでいる商品は少ない。

 むしろ食料を売ってくれなんて札を出している店まである。


 スキムットは周辺にモンスターパニックの魔物が多く流れてきたので完全に封鎖されてしまった。

 今はまだギリギリ持っているけど町の人も限界なようだ。


 でも化け物だったゴブリンは倒されたしモンスターパニックもだいぶ追い込んでもうちょっとで収束するとパージヴェルは言っていた。

 すぐに元通りとはいかなくても外に出られるようになればマシにはなるはずだ。


「サマーテ……あそこだな」


 看板が見えてきた。

 町の中心部にも程近い高級宿がサマーテだった。


「ちょっと待っててくれ」


 町中では馬車をそのまま停めて離れられない。

 ジはユディットを馬車に残してサマーテに入る。


「いらっしゃいませ。


 ご宿泊ですか?」


「ええと、まず知り合いがこちらに宿泊しているはずなんですが」


 サマーテに入ると若い女性の従業員が出迎えてくれる。


「お知り合いですか?


 ……あっ!

 お伺いしております。


 えっと……ジ様でいらっしゃいますね?


 303室のリアーネ様より来客があると聞いております」


「303ですね」


 ちゃんとここにリアーネがいるようだ。

 ならばとそのままここに部屋を取る。


 空き部屋もあるようだし宿の裏には馬車や馬を繋いで置けるところもあるという。


「平時はお食事もお出ししているのですが食料品などが入ってこないためにサービスを休止しております」


 その代わり宿代はいくらか値引きしてくれた。

 ユディットに馬車を停めさせて荷物を持ってジたちはリアーネのところに向かう。


「リアーネ、俺だ。


 ジだ」


「ジ!?


 マジか!


 やっと来たのか!」


 部屋のドアをノックして声をかける。

 ドタドタと音がしてバンとドアが開いた。


「……リアーネ」


「わ、私は見ていません!」


「はぁっ…………はっ!


 ばっ!

 み、見んな!」


 中から出てきたリアーネはなんと下着姿だった。

 顔を真っ赤にしてユディットが顔をそらして、遅れてリアーネも自分の格好に気がつく。


 ドアが激しく閉められてまた慌ただしく中から音がする。


「リアーネ?」


 そして静かになって、ゆっくりとドアが開いた。

 しかしリアーネの姿は見えない。


「入ってくれ……」


 部屋の中に入る。

 ドアの後ろで顔を真っ赤にして隠れているリアーネがいた。


「か、勘違いしないでくれ!


 いつもあんなふうに下着姿でいるわけじゃないし、いつもはもっと可愛いの履いてるんだ!


 外だし、動きやすい下着で……ああもう!

 何言ってんだ!」


「分かってる……俺たちゃ何も見てない。


 な、ユディット?」


「はは、はい!」


 明らかに動揺しているユディットだが話の流れは汲んでくれる。

 まあ見ましたなんてストレートに言えるはずもない。


「や、雇い主が、見たいってなら……まあ、見せてやんないこともぉ、ないけど……」


「いやいや、下着見せろなんて悪徳貴族みたいなことしないから。


 とりあえず元気そうで何よりだよ」


 下着の件はともかく、こんな風にドタバタできるなら元気であることは確かである。


「うぅ……元気です」


「ひとまずほれ、干し肉でも食べろよ」


 ジは干し肉が入った袋をリアーネに渡す。

 意識しても意識しないようしてもリアーネの割れた綺麗な腹筋を思い出してしまうので会話で頭の中から追い出すように努力する。

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