閑話・フィオスと実験と居場所3

「逆召喚について面白い話があってフィオスならできそう」


 逆召喚は魔物を元いた場所に戻すことである。

 その元いた場所とは何なのか。


 元いた場所という定義は何なのか。


「ある傭兵の話」


 とあるところに傭兵がいた。

 彼は雇われて戦場を渡り歩いていたのだけどそんな彼にも妻と子がいた。


 いない間に妻と子のことが不安だった傭兵は自分の代わりに自分の魔獣を常に家に出しておいた。

 ウルフのような獣型の魔獣で特に問題もなければ家で寝ているばかりであった。


 傭兵は時々家に帰り、魔獣は家を守る生活が続いていたのだが戦場で戦う以上危険な状況になることもある。

 そんな時に傭兵は魔獣を呼び出した。


 どうにかこうにか事なきを得たのだけど自分の魔獣は呼び出してしまった。

 家のことが心配な傭兵は魔獣を逆召喚して急ぎ家に帰った。


 しかし家に帰ってみると家に魔獣がいた。


「魔獣は傭兵の家に逆召喚された」


 実はキーケックはこの話を読んで自分で試してみたことがあった。

 しかし自分の魔獣では上手くいかなかった。


 こうした話には嘘や勘違いなども多いのだが嘘の話である必要がなく、勘違いというには起きた事を説明も出来ない。

 何かの条件があるとキーケックは考えた。


 目をつけたのは常に家に召喚状態であったということ。

 住んでいた場所から呼び出すのが召喚である。


 そして住んでいた場所に戻すのが逆召喚。


「長く召喚していたから家が住んでいるところになったと僕は考えた」


「ほーん……」


「フィオスもずっと出てる。


 だからフィオスなら出来るかもしれない」


「なかなか面白そうだな。


 どうしたらいいんだ?」


「んー、どこか離れたところでフィオス呼んで逆召喚する」


「よし、やってみるか」


 出来ることはやってみる。

 フィオスを部屋に残してジが出ていく。


「ワクワク」


 キーケックはフィオスと一緒に部屋に残った。

 ジは少し離れたところということで別の家にいった。


「消えた」


 シュンとフィオスがキーケックの目の前から消える。


「……戻ってこない?」


 消えた事まではいいのだけれどもいつまで経ってもフィオスは戻ってこない。


「おーい」


「あれ?


 フィオス連れて帰ってきた?」


「いや、実験は半分成功で半分失敗だな」


「どういうこと?」


「実は……」


 自室に戻ってフィオスを召喚したジ。

 即座に逆召喚して送り返してキーケックのところに戻ろうとしたのだけど部屋を出てみるとフィオスがいたのだ。


 家のリビング、よくフィオスがいるクッションの上にフィオスがいた。

 あれっと思ったが間違いなくフィオスだった。


 半分成功。

 つまりフィオスの逆召喚でフィオスが元々住んでいた場所ではなく家の方に召喚することはできた。


 けれども召喚された時にいた場所には戻らなかった。

 だから半分失敗。


「むむむ……」


 フィオスは家に逆召喚された。

 キーケックの言う通りにはなったけどどうしてキーケックの前に帰ってこなかったのか頭を働かせて考える。


 行ったり来たりフィオスを召喚しながら試していく。


「召喚もある程度意識できるみたい」


 その結論として分かったことは逆召喚はある程度のコントロールができるという事だった。

 あんまり意識もしないで逆召喚するとフィオスはクッションに戻る。


 ジが意識して逆召喚するとキーケックの前に戻ってくるようにすることができた。

 さらに意識してみると恐らくだけどフィオスが元々住んでいた場所にも逆召喚ができた。


「つまり家のクッションの上が今のフィオスの居場所なんだな。


 だから逆召喚するとここに戻ってくるんだな」


「興味深い」


 召喚することについてこれまで検証した人は少ない。

 ただ魔獣を呼び出す手段でしかなくそこを突き詰めても何の利益もないからである。


 どうやら魔獣がそこが自分の居場所であると認識するほどに召喚状態の期間がなければならないようだけどどこか居場所となる場所に逆召喚できることが分かった。


「これって例えばもっと別の場所にも呼び出し後にも逆召喚できるのかな?」


「どこかに逆召喚したい?」


「うん、親しい人にフィオスを預けて呼んで返して……とかできるかなって」


「できそう」


「これは活用できるかも?」


 後日更なる実験を繰り返して意外と逆召喚の範囲が広いことが分かったりもした。

 キーケック曰くフィオスの認識としてはそれなりに親しい人がいる場所なら自分の居場所でもあると認識していて、そこから呼び出されたら逆召喚で帰ることができるらしい。


 ジの家に関しては1番強く自分の居場所、帰る場所だと思っているのでどこから呼び出されても家に逆召喚で帰すことができる。

 フィオスがどこにもいなくなる、元いた場所に帰るように帰す逆召喚はかなり強めにそうイメージしないと帰らないのでもはや元いた場所はあまり居場所だと思っていないようだ。


 魔物というのはナワバリ意識が強く、なかなか元いた場所から他の場所が自分の居場所だと思うことに抵抗がある。

 さらに魔獣であるが故に契約者の居場所という認識すらあるのかもしれないとこの話を聞いたクトゥワは言っていた。


 しかしフィオスはもうこの町のいくつか親しい人と会う場所を居場所だと認識していて、逆召喚でフィオスを送ることができるのであった。


「フィオスすごい!


 実は天才!」


 キーケックは他の魔獣とは一線を画しているフィオスを褒め称えていた。


「……この家が居場所、みんながいる場所がお前のいる場所、か……


 お前もそう思ってくれているのか」


 何を考えているのか分かりにくいフィオス。

 でもジの家を帰るべき場所だと思い、みんながいるところを居場所だと思ってくれている。


 そうフィオスが思っていると思うと愛しさすら感じる。


「可愛いやつめ!」


 えいっとフィオスをつつく。

 知れば知るほどスライムは何も感じない、考えない魔物ではなく、考えるし感じるしとても情のある魔物だと分かっていく。


 他のみんなの魔獣にもやってもらったけど今のところこの逆召喚でいくつかの場所に帰せるのはフィオスだけ。

 知れば知るほどフィオスはとても不思議なスライムであった。

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