食うか、食われるか8
ライナスがゴブリンの腕を切り落とす。
続いて首をと思って刃を返したライナスは次の瞬間ぶっ飛んだ。
「ライナス!」
非常に気持ちの悪い感触と衝撃。
ゴブリンは切られた腕でそのままライナスを殴りつけたのであった。
切り飛ばされた腕の断面の湿った肉で殴りつけられてゴロゴロと転がっていく。
「くっ……私だって!」
狙われているのは分かっていたから大人しくしていたエ。
余計な注意を浴びてもいいことなどないので我慢していたが大人しくしているのも限界だった。
人を治すだけがエの力じゃない。
オロネアに師事して魔法の使い方について学んだ。
誰かを守るためにエも力を磨いてきた。
「消し飛べ!」
炎の竜巻。
高く巻き上がる炎の渦がエに迫るゴブリンに襲いかかった。
真っ赤な炎に包まれてゴブリンの姿が見えなくなる。
「おお……」
純粋な火力で言えば王国の魔法師団の実力者にも劣らない。
顔に焼けるような熱気を感じてキャラッグは思わず感嘆の声を漏らした。
将来有望な子供たちで今現在でもかなり使えると護衛につけられていた。
共にモンスターパニックの討伐にも当たっていたので実力は分かっていたと思ったが見えていたのはその一端だった。
「エ!」
ただゴブリンは死んでいない。
魔物に対して火を使うのは常套手段。
特にモンスターパニックでは虫が発生していて広い範囲を処理するためにもよく火の魔法が使われていた。
ゴブリンも何度燃やされたことか。
エの魔法は熱く、体が焼けていく。
渦巻くの炎の中でゴブリンは耐えた。
エの魔法による破壊とゴブリンの再生がぶつかり合う。
もっとエの魔法の威力が高かったならもしかしたらゴブリンを再生する間も無く倒し切れたのかもしれない。
しかしある時ゴブリンは熱さを感じなくなった。
炎のダメージが少なくなり再生が炎のダメージを上回る。
炎の隙間から一瞬エの姿が見えた。
足を踏み出すゴブリン。
身を焼かれながら前に出る。
再生に使った魔力はあの人間を食らって回復してやると一気に走り出した。
「危ない!」
炎の渦を維持するのに意識を持っていかれているエ。
ゴブリンは中から出てこず倒したのかと周りは期待した。
渦巻く魔力にゴブリンの魔力をジも感知出来ていないでいた。
けれど炎の渦を注意深く見ていたらわずかに炎が揺れた気がした。
魔法を維持することに集中してエは完全に反応が遅れている。
ジはエに覆いかぶさってゴブリンから守ろうとした。
「ジ、ダメ!」
ゴブリンが迫り、口を大きく開いて噛みついた。
直前に割り込んだジの肩を噛んだがゴブリンの狂気に満ちた目はただエの方だけを見ていた。
「ダメ……ジから離れて!」
ゴブリンの噛み付く力が異常なことは分かっている。
大人ですら簡単に食いちぎられているのに子供のジがそれに耐えられるわけがない。
自分が出しゃばったから。
エはパニックになって泣きそうになる。
「……大丈夫」
「ジ?」
しかしジは痛みに顔を歪ませるどころか柔らかく笑う。
「ユディット!
首を切り落とせ!」
「は、はい!」
何があっても動じるな、自分の指示を待てと言われていたユディット。
だから戦いたい気持ちを抑えて一歩下がっていた。
ジがゴブリンに噛みつかれた瞬間も怒りに駆られてゴブリンを切りかかりそうになったが堪えた。
ゴブリンの歯は確かにジを噛んでいたのに食いちぎることは出来なかった。
表面の服だけが噛みちぎられて中が見える。
何かの金属がジの体を覆っている。
ユディットがジの指示に反応して剣を振る。
ユディットの持つ剣も魔剣であり、ユディット自身もそれなりに実力がある。
胴体に比べて細い首ぐらいならスパッと刎ねてしまえる。
「フィオス」
破れた服から金属がシュルシュルと動いて出てくる。
ゴブリンの噛みつきを防いだ金属の正体、それはフィオスであった。
これまで家の前にブッ刺された失敗作を溶かしてアダマンタイトを摂取してきたフィオス。
世界でもトップクラスに硬い金属であるアダマンタイトの特徴をマネしてアダマンタイトのように固くなることができるようになったフィオス。
胴体に巻き付いていたので肩に噛みつかれる時も肩に移動するのが間に合うか微妙だったけど上手く移動してアダマンタイトになって噛みつきを防ぐことに成功した。
硬い金属質が柔らかそうに動いて丸くまとまる。
そしてスーッと半透明の青いスライムの姿に戻ってジの手の上に着地する。
「さて、どっちが食べることに関して上か決めようぜ」
ジはフィオスを投げる。
空中をクルクルと舞っているゴブリンの頭にフィオスがぶつかって体の中に頭を取り込んだ。
「ジ、大丈夫なの!?」
後ろにいたエがジの肩をペタペタと触って無事を確かめる。
服が破けているだけで皮膚は滑らかで傷一つない。
意外に筋肉がついていて良い体……なことは今は気にしている場合ではない。
「俺は大丈夫だ。
ライナスの方を見てやってくれ」
「わ、分かった……」
エがライナスの方に駆けていく。
瞬間的に体を引いたライナス。
見た目派手に吹っ飛んだが見た目よりもダメージは少なく頬をはらして起き上がっていた。
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