食うか、食われるか7

 過去でも魔物との戦闘はジの専門外。

 魔物を倒すいいアイデアなんか浮かばなかったジの頬に何かが触れた。


 柔らかくてほんのり冷たく感じるそれはフィオスだった。


「無限に近く食べ……再生する……」


 見た目は全く違うしあんな速度で再生こそしないがフィオスも似たような能力がある。

 フィオスをあんな凶悪だと感じたことは一度もないが単純な能力の比較で考えるとそんなに見たこともない能力でもないのかもしれない。


 フィオスが何を言いたいのか分からないけどなぜかジにはフィオスにやる気があるように見えた。


「まさか、やらせてくれって?」


 体にまとわりついたフィオスが振動する。

 肯定するような意図がなんとなくジに伝わってくる。


「……ライナス」


「俺は何をしたらいい?」


 なんだかんだこんな時に信用できるのはジだとライナスは思っている。

 他の子供たちは怯えきってしまっている。


 騎士や兵士も余裕がなく倒すことは無理だと考えているのにジだけは諦めずどうにかする方法を頭の中で考え続けている。

 貧民街も楽なところじゃない。


 中には優しくない大人もいて子供が持てるものを奪っていく奴もいる。

 子供じゃ到底叶わない大人でもジは諦めない。


 方法を考え策を巡らせみんなで手を取り大人にも立ち向かう。

 どこまでも熱く意志を宿す目をしている。


 あんな目をしている時どんな無茶でもジは成し遂げてしまう。


「もう一度アイツの首を切ってくれ」


「オッケー、何度だってぶった切ってやるよ」


 多くの説明はいらない。

 細かに説明されても覚えられないしそんな時間もない。


 分かりやすくやるべきことを与えてもらえればそれで十分。


「みなさんも手伝ってください!


 ゴブリンの首を落とすんです!」


「……分かった」


 相手は子供だが今この場にいる誰よりも生きる意思を持った目をしている。

 どうせ何の策もないならジに賭けてみようとキャラッグは思った。


「なんだと!?」


 子供にだけ任せてはいられない。

 せめて子供の盾になると前に出たキャラッグはゴブリンに切りかかる。


 これまでゴブリンは攻撃に対して一切防御的行動を取らなかった。

 かわす必要がないと思っていたからだ。


 だけど何度も腕を切られ頭を落とされて理解した。

 全く何のデメリットもないのではないと。


 再生するたびに人を食らって得られた力が使われている。

 何かを理解して強くなることに使われていた力が再生によってドンドン減っていっていて強くなることに回らない。


 攻撃をただ受けてはダメだとゴブリンは理解した。

 かわせるならかわし、防げるなら防ぐ。


 消耗を避けることも戦いに必要なのだとゴブリンはまた一つ成長してしまっていた。


「キャラッグさん、危ない!」


 キャラッグの剣をゴブリンはかわした。

 わずかに回避が足りなくて浅く傷つけられるがゴブリンにとってそんな傷ないに等しい。


 何回も切りつけられているのでどのように攻撃してくるのかも分かっている。

 まだかわすという経験が浅くてかわしきれなかったが回避することも難しくなさそうだとゴブリンは思った。


 他の兵士や騎士もゴブリンにかかっていってキャラッグをフォローする。


「バラード!」


 どんな攻撃が深く当たって、どんな攻撃が浅く当たるのかゴブリンは経験から瞬時に判断する。

 浅く当たる攻撃は回避しないでそのまま受けながら腕を伸ばして兵士の首を掴んでへし折る。


 一瞬で命を奪われた兵士を引き寄せて無造作に食いちぎる。

 減ってきた力を補充しなければならない。


 これまで他に倒した連中は食べるのを後回しにしてとりあえず戦うことを優先したが今は食べなきゃいけないと本能的に口を動かした。

 兵士の体を乱雑に食い散らかしながらゴブリンは嘲笑うようにみんなの攻撃をかわす。


 適当に食べやすいところを食べた兵士の死体を放り投げたゴブリンは次の獲物を探す。


「狙いはエだ!」


 1番魔力に富んでいて柔らかく美味そう。

 ゴブリンの目にはエがそう映っていた。


 ゴブリンの目がエを見ている。


「行かせるか!」


 キャラッグがエとゴブリンの間に入り込むようにしながら剣を振り下ろす。


「グッ……殴打……だと」


 狙いはざっくりとしている振り下ろし。

 深くはあるが腕が切り落とされたりすることはないとゴブリンは判断した。


 回避をしないで刃をそのまま体で受けたゴブリンはキャラッグの脇腹を殴りつけた。

 真横に吹き飛んでいくキャラッグ。


 予想外の反撃に全く反応ができなかった。

 骨が折れる音が聞こえて大きく転がっていったキャラッグが見たのはエに向かって走っていくゴブリンだった。


「させるかよバケモンが!」


 しかし後ろにもチャンスをうかがってたジやライナスがいる。

 そのまま首を切り落としてしまうぐらいのつもりでライナスがゴブリンの前に飛び出した。


「んなもん食らうかよ!」


 キャラッグは殴るということをゴブリンがするなんて思わないから受けてしまったが殴ると分かっていたら怖くない。

 むしろゴブリンのパンチは非常に大振りで分かりやすいほどであった。

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