食うか、食われるか6

 ゴブリンはターゲットを変えた。

 エに手を届かせるためには周りを片付けなければいけないと気づいたのだ。


「はやっ……」


 そしてさらに悟った。

 ただ捕まえて離さないだけではいけない。


 捕まえられる速さが必要なのである。

 ゴブリンは破壊され、再生を繰り返しながら必要だと思った体の能力を進化させていた。


 いつかキーケックが言っていたことを思い出した。


『再生する魔物はとても厄介。


 なぜならすぐに元に戻るだけじゃなくてすぐに体に変化を起こすこともできて変わっていく。


 何回も再生するうちに攻撃に対して耐性を持つこともある。

 だから再生する魔物は再生させずに倒さなきゃダメ』


 フィオスについて色々調べている時に多少フィオスのプルプルボディーが欠損しても元通りになった時に言っていた言葉だった。

 再生力が高い魔物は再生するだけでなく再生する時に体の構造が変化することもある。


 大体の場合その変化とやらは環境や相手に対抗するための変化なのである。

 中途半端ではあるが知恵のある魔物なゴブリン。


 何が必要か考えて、体が再生する時に必要と思われる能力が少しずつ備わっていっている。


「ぐわああっ!」


 一瞬で兵士の目の前に移動したゴブリンは手を伸ばして兵士の手首を掴んだ。

 反応できずに掴まれた手首が異常な握力によって潰される。


 骨が砕ける音がして兵士の顔が苦痛に歪む。


「放しやがれ!」


 キャラッグがゴブリンの腕を切り落とす。

 切り落とされてもゴブリンの手は兵士の手首を強く掴んだまま。


 さらにゴブリンは手を切り飛ばされたのにも関わらず逆の手を兵士に伸ばした。


「ヒイッ……助け」


 避けようとしたが避けきれずに服を掴まれ強く引き寄せられる。

 大きく開けた口が迫ってきて肩から首にかけて噛みちぎられた。


 ゴブリンを止められない。

 生き物にあるはずの痛みに対する反応が一切なく切られても燃やされても平然と動き続ける。


 こちらの攻撃を受けながらの反撃も人なら決死の覚悟の上でやるがゴブリンは怯むことがなく当然のように怪我も痛みも恐れない。

 どんな攻撃が来ても回避も防御も取らずに反撃に出てくるのだ。


 速さそのものは対応できても相手の行動を止められないというのを誰も経験したことがない。

 相手の攻撃に対応しないことによって無駄な全てを削ぎ落とした最速の攻撃。


 ゴブリンの手はすでに生えてきている。

 痛みがないだけでなく攻撃を受けても再生できるから構わないのである。


 まさしく化け物。

 しかもまだ発展してさらに化け物になっていっている。


「同時に腕を切るんだ!」


 片腕だけ切っても止められない。

 なら両腕を同時に切り落とせばわずかな間は止められる。


 少なくとも掴むことはやめさせられる。


「どうすりゃいいんだよ……」


 しかし切られながらゴブリンは突き進む。

 恐ろしい早さで切られた腕を再生しながら突進してくるゴブリンは1人、また1人と騎士たちを食い倒していく。


 こんな時に子供部隊は無力だ。

 特に子供たちは虫を相手するために魔力があって魔法が得意な子を集めているので直接的な闘いが得意でない子も多い。


「ライナス!」


「何か考えがあるのか?」


「腕じゃない、足だ!」


 このままでは全滅するのも時間の問題。

 なんとかしなければ子供だけでは戦えない。


 ジとライナスが走り出す。

 強力な握力で相手を捉えるので腕を切り落とすので腕を切り続けて攻撃を防ごうというのは間違っていないと思う。


 だけど腕がなくてもゴブリンは走り続け、短くなった腕を伸ばし、口を突き出して噛みつこうとしている。

 いつしかゴブリンの動きはより速くなり騎士の動きにもついていけているようにもなっていっている。

 

 奪うべきは機動力の方だ。


「くっ……!」


 回避を続けていたキャラッグだが段々とゴブリンに追いつかれつつあった。

 もう逃げきれない。


 ゴブリンの狂気に満ちた目と異様に白く見える歯が迫ってきて死すら覚悟する。


「キャラッグさん避けて!」


「なっ……」

 

 キャラッグの横をすり抜けてジとライナスがゴブリンに向かう。

 ジが右足を、ライナスが左足を一息に切断する。


 キャラッグが上半身を捻って飛んでくるゴブリンの口をかわした。


「ライナス、首を切ってくれ!」


「ほいよ!」


 腕もまだ再生していないので起き上がれないゴブリン。

 ライナスが素早く体を反転させてゴブリンに接近して首に剣を振り下ろす。


「飛んでけ、クソが!」


 ライナスの鋭い一撃でゴブリンの首が切り落とされる。

 そこにジが駆け寄って大きく脚を振り上げてボールのようにゴブリンの頭を蹴り飛ばした。


 こんな方法では解決にならないけど体勢を整える時間は稼げる。


「助かりました!」


「その言葉はまだ早いですよ!」


 ゴブリンの頭は転がっていく。

 けれど転がりながらも再生が始まっていてそのために転がり方が不規則になる。


「どーすんだよ、ジ!」


「俺に聞くなよバカ!」


 頼られても困る。

 こんなゴブリンが出ていたら過去でも話題になったはずなのに一切聞いたことがない。


 つまり過去にはなかった出来事。

 過去にあったなら対策も聞いていたことあるだろうけど知らないことなのでどうしようもない。


 頭をフル回転させてゴブリンを倒す方法、あるいは誰かが助けに来てくれるまでの時間を稼ぐ方法を考える。


「どうする……どうしたらいい…………ん?」

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