食うか、食われるか5
切ったそばから再生しているのだ。
剣がゴブリンの体に埋まってしまい抜けなくなる。
ゴブリンは学んだ。
ただひたすらに虫を食い続けて命を繋いでいたが人の肉を、血を食らい、人は虫に比べて柔らかくて魔力に富んでいて美味いと。
人を食うと体に力が満ちていく。
切られたりしてもすぐに回復できるようになるしなんだか体の調子が良くなる。
ゴブリンは学んだ。
最初は噛みついてなかなか剥がせない虫を強く掴むため、そして暴れて手から逃げ出そうとする虫を離さないために強く強く握ることが大事だと思った。
けれど人と出会ってまた強く強く握ることが必要だと思い知る。
飛びついても簡単にかわされる。
逃げられる。
だから捕まえなきゃいけない。
強く強く掴めばどうやっても逃げられない。
「何を……えっ」
騎士の首を掴んだゴブリン。
次の瞬間騎士の視界はグルンと回転した。
とんでもない握力で首を握りつぶしながらへし折ってしまった。
「ぐっ……全員動き続けろ!
あいつの前で動きを止めてはならない!」
一撃必殺ではないが噛みつきにしろ握力にしろ捕らえられると致命的。
今のところゴブリンの動きはあまり速くはないので常に相手の動きに気をつけて距離を取り油断をしなければやられることはない。
仲間の死を悼む時間も怒りに飲まれている余裕もない。
ほんの少しの油断が死に直結する。
ゴブリンを取り囲むが胸に刺さったままの剣が騎士の結末を思い起こさせ、攻撃することをためらわせる。
あんな風に武器を取られては誰でも隙が出来てしまう。
ゴブリンが剣を抜こうと刃を掴んで引っ張る。
しかし後ろから刺されているような形になっているのに前に引き抜くものだからツバが引っかかって抜け切らない。
やはり知能のレベルは低い。
「うげぇ……何だよあいつ」
いくら引っ張っても抜けない。
苛立ちを見せるゴブリンは無理矢理剣を引き抜いた。
胸に穴があいて血が飛んでもゴブリンは気にする様子もない。
そして胸の穴は即座に再生して塞がっていく。
刃を強く握りすぎて自分の指まで切り落としてしまっているがそれも全く意に介せず指ももう生えてきている。
「笑ってやがる……」
それどころか落ちた指を見てゴブリンは笑っていた。
「ヒッ……」
何がおかしいのかひとしきり笑ったゴブリンはキョロキョロと視線をさまよわせてエを見つけた。
サッとエがジの後ろに隠れる。
どうにもエが狙いみたいだ。
「エ兵士のところに行かせるな!
手足を狙え!」
騎士の死体を投げ捨ててゴブリンは走り出す。
再生力が上がっているのは騎士を食らったから。
この中でも魔力が強いエがやられると止められない再生力や力を手に入れることになってしまう。
刃が通り切るのに時間がかかる胴体では先ほどの騎士の二の舞になる。
細い手足ならスッと切ってしまえる。
もし途中で刃が止まってしまってももう一度目の前で見ているからすぐに逃げられる。
エに向かって伸ばされた手を騎士が切り落とす。
それでもゴブリンは止まらない。
兵士がゴブリンの脇腹を切りつけるが剣を取られることを恐れて踏み込みきれなくて傷は浅い。
「エに近づくんじゃねえよ!」
切られても一切ものともしないゴブリンの前にライナスが立ちはだかる。
「ライナス!」
「俺は……」
ライナスが剣を引いて振りかぶる。
ジには分かる。
ライナスの剣に魔力が集中している。
「一筋の雷」
一瞬ライナスが消えたように見えた。
「速い……」
剣を振り下ろした姿のライナスがゴブリンの後ろに現れて、ゴブリンの胴体が斜めに切り裂かれた。
「油断するな、まだそいつは生きている!」
切り飛ばされた上半身がエに向かって飛んでいく。
「大丈夫」
けれどエの前にはジがいる。
翼もないのに宙を舞う相手なんて怖くない。
ジが剣を振り下ろしてゴブリンを縦に真っ二つにする。
「エ、こっちに!」
「う、うん!」
頭ごと半分にしてやったが死んだと言えるか分からない。
ゴブリンの近くにいるのは危険なのでみんなして距離を取る。
「マジで何なんだよ……」
そうなるとジは分かっていた。
戦ってみて首を切り落としても死なないのなら頭も切ってみせることぐらい他の騎士たちだってやる。
それなのにこのゴブリンはピンピンとしてジたちの前に現れた。
ということは。
「化け物なのか」
真っ二つになった上半身の片割れからさらに再生が始まる。
「魔法で燃やすんだ!」
物理攻撃で倒せないなら魔法で消し去るしかない。
キャラッグの指示でエを含めた数人が火を放つ。
真っ赤な炎に包まれるゴブリン。
通常の魔物ならこんな風に切り裂かれて燃やされればオーバーキルである。
けれどこのゴブリンは通常の魔物ではない。
「燃えながら再生してやがる……」
燃えるよりも再生する方が早い。
燃えたひどいニオイをさせながらゴブリンの体はみるみると元に戻っていく。
やがて全て元通りになったゴブリンはゆっくりと立ち上がる。
未だに火がついているゴブリンはうっすらと笑っているように見えた。
「魔法を止めろ!」
このままでは全身に火をまとい、こちらに返ってきてしまう。
「あんなもんどう倒しゃいいんだよ!」
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