食うか、食われるか4

「これを使ってくれ!」


 キャラッグが腰のポーチから小瓶を取り出してエに投げ渡す。

 それはポーションであった。


「助かります!」


 ポーションはケガの治療にも使われる。

 体力や魔力の回復効果もあって治療魔法で奪われる体力の補助もできてポーションの治療効果が治療魔法を後押ししてくれる。


 ポーションがあるなら助けられるかもしれない。

 瓶の蓋を開けて騎士の口にポーションを流し込む。


「飲んでください!


 飲まなきゃ死にますよ!」


 意識が飛びかけている騎士。

 エの言葉に反応したのか口に入ってきたからとりあえず飲んだのかは知らないがポーションを飲み込んだ。


 エが治療魔法をかけ始めて騎士の体が淡く光出す。


「にしてもあっけないな」


 ライナスが剣に付いた血を拭きながら顔をしかめて騎士の傷を覗き込む。


「うげっ……ひでぇや」


 ライナスが止めなきゃこんなものじゃすまなかった。

 素早い動きと性格無比な一撃で的確に首を切り落としたからまだ助かるかもしれないという境にいられる。


「あれが本当に……」


「うわああっ!」


「なんだ!?」


 例え再生力に優れていても首を切り落とされては無事にはいられない。

 そうみんなが思っていた。


 騎士たちがゴブリンの頭と体を集めて燃やして処理しようとしていた。

 騎士たちは気づいていなかったのだ、まだゴブリンの目が正気を失っていなかったことを。


 火で燃やされながらゴブリンは再生を始めた。

 頭の方から再生を始めたのだけど体の下敷きにされるようにされていたために再生に気づかなかった。


 騎士の1人がまた噛みつかれた。


「頭切ったろ!」


 見るともう上半身が再生している。

 噛みつかれたのは喉。


 肩ですら容易く大きく噛みちぎられたのに喉なんか耐えられるわけがない。


「き、貴様ぁ!」


 生きているうちは治療の可能性があるが死んでしまうともう治療は出来ない。

 キャラッグが怒りの表情を浮かべてゴブリンに切りかかる。


「な、卑怯な!」


 ゴブリンは首を咥えて騎士をキャラッグの方に向ける。

 例え死んでいるとしても仲間を切りつけることなど出来ずに剣を止める。


 ゴブリンは知恵を持つ魔物だ。

 魔物で知恵を持つものは強いことがほとんどなのだけどゴブリンはその肉体的貧弱さにそぐわないほどに知恵を働かせる。


 弱いが故に知恵を働かせるのかもしれない。

 さらにゴブリンは知恵に比べて高い残虐性と人が恐怖したり困ったりする様を楽しむ異常な感性がある。


 キャラッグが手を出せないことにゴブリンはケケケと笑うとさらに騎士の死体を食い漁る。

 食うたびにゴブリンの体は再生する。


 骨も関係なくバリバリと食べていき、駐屯地に人がいなかった理由がようやく分かった。

 簡単に攻撃できる相手。


 しかし異常なまでの再生力。

 仲間を置いて逃げるには判断に迷う相手である。


 仲間が噛みつかれて助けようとする間にやられるを繰り返して気付けば取り返しのつかないところまでやられてしまったのだ。


「キャラッグさん誰か助けを呼びに向かわせてください!」


 倒せるだろうなんて慢心はしない。

 相手の能力が分からない以上逃げられるかも分からないので人の余裕があるうちに助けを呼びにいかねばならない。


 キャラッグは仲間がやられて冷静さを失っている。

 ジに声をかけられてゴブリンに切りかかろうとしていたキャラッグは一度後退する。


「ジェードーマン、お前がスキムットまで馬を走らせろ!」


「分かりました!」


 1番若手で小柄、もし馬がダメになっても足が速い。


「全員で取り囲め!」


 後退したことで少し冷静さを取り戻したキャラッグ。

 もう首をやられた騎士は助からない。


 ここは無理に仇を取るよりも助けを待つかしっかりと隙をついて戦っていくべきだ。

 ライナスたち子供部隊は一歩下がり、大人の騎士や兵士たちがゴブリンを取り囲む。


「エ、危ない!」


「え?


 きゃっ!」


 走り出したゴブリン。

 ある兵士の方に向かい、身構えたがその横を通り過ぎていった。


 狙いはその向こうにいたエ。

 ジが咄嗟にエを抱きかかえて移動させると飛びかかったゴブリンがエのいたところを通り過ぎで地面に激突した。


「なんで……」


「子供だからか、魔力が強いからか……」


「ジ、エを守るぞ!」


「言われなくても!」


 エはゴブリンにとって魅力的だった。

 肉は柔らかそうで魔力も強く感じる。


 本能的にこの場で1番美味そうな相手であると思って襲いかかったのだ。


「フィオス!」


 ジはフィオスを呼び出す。

 魔獣が狙われては厄介な場面なのでぎりぎりまで魔獣は出さずに戦うのが普通だけれどジの魔獣であるフィオスはほとんど狙われることがない。


 そして現在はその戦いのやり方から常時武器のように化けられるので本気の戦闘の時はフィオスも呼んで戦うのがジのスタイルになる。

 シュルリとフィオスがジの服の中に入る。


 プニプニとした感触が胸の付近を覆っていく。


「ビークラロの仇だ!」


 エとその前に立ちはだかるジとライナスに視線を向けたゴブリン。

 その後ろから騎士がゴブリンを切り付けた。


 肩口から剣はゴブリンを切り裂いていったがみるみる勢いは減じていき、胸のところまでで止まってしまった。

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