食うか、食われるか3
異様すぎる光景にみんな視線は合わせるが言葉がない。
「申し訳ありません。
ここで休憩を取る予定でしたが急ぎ次の駐屯地に向かいたいと思います」
早急に他に人がいる駐屯地に向かわねばならない。
助けを求めたり状況の報告などをしに行く必要があるのだ。
ジも分かっているので素直にうなずく。
子供部隊や馬を持たない兵士は騎士の馬に同乗してスピードを上げて移動することになった。
ライナスは馬車の御者台に乗ってエは女性騎士の馬に相乗りしていた。
そこそこな速さで馬車を走らせるが揺れは少なくて快適。
こうした平野を走らせるとより性能の良さを感じる。
本来はもう1つ先の駐屯地まで行く予定だったからそれが繰り上がっただけである。
視野を広く持ち周りの状況をよく確認しながら無言で突き進む。
次の駐屯地にも何かがあったらと不安を押し殺す。
「どうかなさいましたか?」
次の駐屯地に人はいた。
見張りの兵士がちゃんといて慌てたように走ってくる一行を見て驚いていた。
人がいたことにみんな安心する。
キャラッグが駐屯地の隊長のところに向かってあったことを説明した。
それで分かったのはこちらの駐屯地でも人のいなくなっていた駐屯地のことは把握していないことと特別に何か警戒すべき情報もないということ。
では駐屯地の人たちはどこに消えたのか。
何かは分からないが何かは起きている。
早めについたが次に移動するにはもう遅い時間であるので一晩ここに留まり、次の日にスキムット近くの駐屯地まで向かうことにして休んだ。
ーーーーー
「異常個体か……」
次の日の朝早くに出発したジたち。
目的の駐屯地まで行けばスキムットまで後少しとなる。
大体半分まで来たところでジたちとは逆の方から走ってくる騎士たちに遭遇した。
伝令のために急いでいてジたちにも情報が伝えられた。
異常個体や変異体、特殊進化種などと言われることもある過酷な外的要因によって特殊な変化を遂げた魔物。
今回のモンスターパニックによってゴブリンの変異体と見られる特殊な個体が出現した。
第10大隊というメインでモンスターパニックを討伐をしている部隊の前に突如現れたゴブリンは脅威的な再生力を持っていて強力な咬合力で噛みついてくる。
情報を持ち帰り共有して討伐を計画している間に小規模駐屯地の人たちが謎の消失を遂げていた。
問題を重く捉えた上層部は早急な情報共有と小規模駐屯地の人員を呼び集めることを決定した。
こうなると引き返すことは危険でスキムットまで行った方が安全だと言われた。
ただ一度戻って駐屯地の人たちと伝令の人たちと一緒に行くか、このままスキムットまで向かってしまうかという問題がある。
「私たちが通ってきたときには何もありませんでした。
このままスキムットに向かわれた方がいいかもしれません」
移動の時間が伸びればそれだけリスクを伴う。
戻っていくよりもスキムットにさっさと行った方がいい。
ということでジたちは伝令とすれ違ってスキムットに向かう。
上手くタイミングが合えば他の小規模駐屯地の部隊と合流できることもある。
漠然とした不安を抱えたまま走る。
「馬……?」
進行方向から馬が走ってきた。
一瞬止めようとしたけれど恐慌状態にあるのか馬は脇目も振らずに走り去ってしまった。
「……前に」
「見えている!」
そしてその後ろから何か黒いものが走ってくる。
人ほどの大きさだが衣類も身につけておらず全身が黒い。
話に聞いていたゴブリンそのまんまとは少し姿は異なっていたがその黒い出立ちに全員が瞬時にそれが異常個体の魔物であると察知した。
馬を止め剣を抜く。
その間にもゴブリンは走り続けて距離を詰め、大きく飛び上がって先頭の騎士に食らいついた。
「うわああああ!」
咄嗟に反応できずに肩の根本を噛みつかれて悲鳴を上げる。
食いちぎられて血が飛ぶ。
「ライナス、ユディット動け!」
止まっては危ない。
ジはレーヴィンを掴むと馬車から出る。
ゴブリンと聞いていたが人丈ほどもある大きさを見ればゴブリンの進化形のホブゴブリンに見えた。
ただ皮膚は漆黒のように黒い。
全身が黒い中で歯だけが白く浮いたように目立っていた。
「た、助け……」
「やめろ!」
ゴブリンは噛みちぎった肉を飲み込むと再び騎士に噛みつこうとした。
ジはそれを止めようと駆け出して剣を突き刺した。
ゴブリンの脇腹に深く差し込まれる剣。
しかしゴブリンの動きは止まらず騎士は大きく肩を抉り取られる。
まるで痛みでも感じていないようにジの攻撃を無視してきたのだ。
「その口を離しやがれ!」
続いて正気に帰ったライナスがゴブリンの首を狙う。
3口目に行かせるわけにはいかない。
ライナスの首を狙った一撃は防がれることもなく首に吸い込まれていった。
切り飛ばされて派手に宙を舞うゴブリンの頭。
「エ、治療を頼む!」
「分かった!」
出血が激しくもう騎士の容体はかなり悪い。
すぐさまエが治療する。
日頃から治療の練習を怠らないエは子供ながらトップクラスの治療魔法使いである。
けれど体の欠損部位の回復は非常に治療される側の体力も使う。
2度の噛みつきで騎士の肩は無くなっているぐらいに持っていかれてしまっている。
エの治療でも厳しいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます