食うか、食われるか9
「食うか、食われるかだ!」
始まるフィオスとゴブリンの勝負。
ゴブリンの頭の表面が溶け始める。
しかし同時にゴブリンの体の再生も始まる。
フィオスが溶かすよりもゴブリンの再生の方がはるかに早い。
みるみると再生して体が戻ってしまうゴブリン。
「どんな気分だ?
俺もそうしたことはない」
フィオスはゴブリンを逃さない。
どうやったのかフィオスも大きくなって大きくなったゴブリンを中に閉じ込め続ける。
ものを食べた直後は大きくなるから溶かしたゴブリンを吸収して体を大きくしているのかもしれない。
泳ぐようにフィオスの中で体を動かすゴブリン。
ジもフィオスの中に入ったことはない。
手を突っ込んでみたことはあるが全身丸ごとは試した覚えがない。
苦しそうにもがく。
ご自慢の握力も水を掴むようで何も掴めず、口を開いてもコントロールされたフィオスの体は口の中に入ってくることもない。
ただフィオスは生きているものを溶かすのが得意じゃないから再生速度に全く消化速度が追いつかない。
「どうやらお前の方が再生は早そうだ。
でもお前になくて、フィオスにあるものがある。
なんだと思う?」
フィオスの中でもがくゴブリンに声が聞こえているかは知らない。
聞こえていたってゴブリンが返事をするとも思えないけど。
「それはな、仲間だよ。
フィオスには俺がいる。
ライナスやエもいるし、ここにはいなくてもたくさんの仲間がいる」
ジは剣を振った。
フィオスの体ごとゴブリンの首を切る。
フィオスの体は切られたぐらいではすぐさまくっつくけどゴブリンはそうならない。
肩を切られたぐらいならくっつくけど首や手足を切られた時ゴブリンは切られた部分を捨てて新しく生やす方向で再生していた。
その結果魔力の消耗が激しい。
こうなった時点でゴブリンに反撃の手段はない。
ゴブリンが限界を迎えるか、フィオスが限界を迎えるかの戦いになる。
切られて捨てられたゴブリンの体が急速に溶けていく。
代わりにゴブリンはまた新しく体を生やす。
「どこまでも付き合ってやるよ。
どれだけ再生できるかな?」
呼吸もできない中でバタバタ手を動かすが何も掴めない。
目の前に憎らしく笑うジがいるが前にも進めず手は届かない。
ジが剣を振るたびに首が切り落とされて体が離れていく。
あっという間に溶けてなくなるが体を生やす方が早い。
生やして、切られて、溶かされて、生やして、切られて溶かされて……
「ジ、俺にもやらせてくれよ」
「おう、もう体は大丈夫か?」
「ちょっとぶん殴られただけだよ。
エに治してもらったし平気平気。
遊んでんじゃなきゃ……倒すためにやってんだろ?
ぶん殴られた礼もしたいし俺にも手伝わせてくれよ」
「もちろん、俺も少し疲れてきたからな。
ただあんまり深く切りすぎてフィオスを完全に切断しないでくれよ」
「わーてるよ。
くらえこの馬鹿野郎が!」
ライナスがゴブリンの首を切る。
もう何回切ってフィオスが体を吸収したのか分からない。
ゴブリンがいつまた進化してくるかと緊張を保ちながらなので精神的な疲労が大きい。
「この!」
「いでっ!?
なにすんだよ!」
「また危ないことして!」
「……あれは仕方なかっただろ!」
ジがなんかやってるから我慢してたけどライナスと交代したなら文句言う。
エの杖で頭をぶん殴られたジ。
目の前で星が飛んだようにチカチカする衝撃があった。
エが言っているのはジが身をていしてゴブリンから守った時のことである。
一瞬ゴブリンに食いちぎられるジを想像した。
ゴブリンも怖かったけどジがどうにかなってしまうことの方が怖い。
無茶をするなと言ったのにまた無茶をした。
エは非常にお怒りだった。
「だからって!
だからって……」
「悪かったよ……だからそんな怒んないでくれよ」
助けてもらったのはエだ。
エを助けるために無茶をした。
怒るに怒りきれない。
でもやっぱりなぜだろう、ジが無茶をしてケガをすることがどうしても嫌なのだ。
「英雄殿は女性の尻に敷かれるタイプのようだな……」
残りの部隊はだいぶ減ってしまった。
半数をゴブリンの監視につけて残りの半数を死体の回収に回す。
無惨に首を折られて倒れた騎士の死体を運びながらキャラッグはジの方を見て目を細めた。
まだゴブリンを倒していないがこのまま拘束していることは出来そうだ。
油断はならないけれどゴブリンもこの状況を打破する一手を見つけられずイタズラに再生を繰り返している。
ゴブリンを倒せたり、ゴブリンが倒せなくても時間を稼いで助けが来るまで稼げたのならジは間違いなく英雄であるとキャラッグは思う。
こちらが手の打ちようもない状況だったのに一転してゴブリンの方が何も出来なくなった。
なんの能力ないとも思っていたスライムであんな対抗策を思いつくなんてと感心は尽きない。
ただそんな聡明な子供でも女性には頭が上がらないらしくエに怒られてジは小さくなって謝っている。
「変異体はどこだァァァ!」
「なんだ!」
火が降ってきた。
真っ赤に燃える隕石が突然空から降ってきたのだと思ったらそこに人が立っていた。
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