草の一本も残っていない5

「もちろんタダでなんて言いません。


 多少手加減はしていただけると助かりますが食料不足による価格高騰も加味してお支払いします」


「一部でよければ融通します」


「それだけじゃありません。


 馬車でいらっしゃったようなのでここからも支援物資を出すので輸送もお願いしたいのです。


 こちらの方も手間賃は払いますし護衛もお付けしましょう」


「どのぐらいの量をお望みで?」


「出来るだけ多い方がいいですがそちらにも事情がおありですのでご負担にならない程度に。


 うちの担当の者とご相談いただけますか?


 その間にこちらで護衛につく部隊を編成しておきます」


「分かりました。


 ありがとうございます」


「こちらこそ無理なご相談聞いていただきましてありがとうございます」


 再び握手を交わすジとエンクラット。

 まるで熟練した商人を前にしたような気分。


 エンクラットはこの戦いが終わったらこの不思議な少年と少しでも縁を繋ぐために興味はなかった馬車でも買ってみようかと思った。


「……本当に良かったんですか?」


「金は払ってくれるというしアレは上手いやり方だよ」


「どういうことですか?」


 不思議そうな顔をしているユディット。

 せっかく持ってきた食料を売ってしまうなんて。


 持てるだけ持ってきたから量はあるけどこの状況では余っていると言えるか怪しい。

 高値で買ってくれるならと商人っぽくはあるけれどここには商売に来たのではない。


「スキムットに行く理由を作ってくれたんだ」


 エンクラットはジの話を聞いて巧みに解決方法を瞬時に組み立てた。

 ジが貴族と繋がりもあることを知っていてスキムットまで行きたいといっている。


 けれど状況はそれを許さない。

 ジがスキムットまで行くことを許可するにはそれなりの理由というものが必要だ。


 そこでエンクラットは食料問題を建前にした。

 ジが食料を持っていてその輸送手段もある。


 スキムットからの支援要請があるしジの持つ食料をジが運ぶことには無理もない。

 ついでにチュンウェアからの支援物資も運んでもらうことによって騎士の護衛も付けられる。


 あの場で思いついた作戦にしてはよく出来ている。

 ジが移動する合理性も確保しながら安全も守ることができる。


 食料も高値で売れるしスキムットに行けるのだから食料が減ってもそこは受け入れなきゃいけない。


「……考えが至りませんでした」


「エンクラットさんはやり手だ。


 この部隊にいるならエやライナスも安心だな」


「貴族同士の会話ってやつも分からないことが多いですが商人っぽい会話も難しいですね」


「どっちも同じようなもんさ。


 要するにそのまんまの意味じゃないってことが分かってればいいのさ」


 そのあとジは担当の騎士と商談する。

 持ってきた食料はメリッサがリストにしてくれていて、道中食べた物も記録してあったのでどれだけものがどれぐらいあるのか簡単に分かる。


 やはりスキムットまで送ってくれるのが目的のようで要求された食料の量も多くない。

 残念ながら駐屯地に多くのお金も用意はしていないので支払いは後払いすることになった。


 ちゃんと契約書は交わしたからバックれられることはない。

 ありがたいことにスムーズにスキムットまで行くことができそうだった。

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