閑話・女子会?5

 ただまあウルシュナは刺繍は上手くない。

 手先は器用だしやらされているはずなのに下手くそなのだ。


 刺繍のセンスがないのだろう。


「それなーに?」


「フィオス……」


「フィ……上手だね」


「くぅ、いいんだよ、そんな気の使い方しなくても」


 綺麗に丸く作るのは案外難しい。

 ウルシュナは白いハンカチに丸くフィオスを作ろうとしたのになんか角張っていて綺麗に丸く縫えてないからシャギシャギしている。


 タとケの優しさがむしろ痛く感じられる。


「上手いもんだな。


 でもぉ、今どき刺繍したハンカチ渡すなんて流行りゃしないしぃ」


「いまだによくありますよ」


「そこまで言うならリーデの見せてもらおうじゃないかぁ!


 あっ、負けた」


 敗北宣言の早いこと。

 負けるのは目に見えていたけどリンデランは刺繍も上手い。


 そりゃ目の前にモチーフがいるのだからみんな同じものを作る。

 リンデランもフィオスを刺繍しているが実に上手である。


 綺麗に丸いがちゃんと地面に設置してやや潰れたところまで表現し、体の中の核や光のハイライトなんかも刺繍してあるのでクオリティが高い。


「お姉ちゃんすごーい!」


「フィオスだぁ!」


「短い時間だったのに良くやるよな。


 こんなだからお母さんにリーデを見習えって言われんだな」


「ふふ、でも私もウルシュナから見習うこといっぱいだよ?」


「好きなだけ見習ってくれ」


 わいのわいのと時間が過ぎ去る。


「ハァッ!?


 ぜっっったいだめ!」


「ええ〜?


 いいじゃないですか」


「ダメダメダメ!


 んなこと分かってたらもっと丁寧にやってたもん!」


「ジ君なら笑いませんよ」


「ほら、笑われるようなもんだって分かってんジャーン!」


 リンデランの提案。

 せっかくだし刺繍したハンカチをジに贈ろうと言うのだ。


 タとケもそれなりに上手くできているので賛成したがウルシュナだけは大反対。

 恥ずかしい、笑われると拒否をする。


 じゃあウルシュナは渡さなきゃいいというと1人だけ渡さないのもおかしいとぶー垂れる。


「大丈夫」


「ウルシュナお姉ちゃんのフィオスも可愛いよ」


「タ……ケ……」


 決して上手ではないが味がある。

 同じものをタとケが作ろうとしてもむしろ作れない。


 ウルシュナだって下手に作ろうとしても作ったのではないからこれでいいじゃないかと思うのだ。


「分かった……でもジが笑ったらみんなであいつの事ボコボコにしてくれ」


「笑ったらジお兄ちゃんが悪いからね!」


「うん、笑ったら私たちも怒る!」


「うぅ……」


「失礼します。


 お食事の準備ができました」


「はぁーい……」


 そうこうしている間に日も落ちていて夜のご飯の時間になった。

 夜はリンデランが買ってきた色々なお肉でお肉料理祭りである。


「はっ……フィオスまさか」


「震えてるー」


「喜んでるね」


 テーブルに乗り切らないほど並べられた肉料理。

 それをみてフィオスがプルプルとしていた。


「やっぱ肉派か」


 魚料理の時よりも反応がいい。

 目に見えて震えているし。


「肉だよな!」


 一口食べてウルシュナが大きくうなずく。

 食べた料理をフォークで刺してフィオスに差し出す。


 受け取って体の中にお肉を収めたフィオスを震えながらお肉を溶かしていく。


「美味しい!」


「ほっぺた落ちちゃう!」


「たくさんあるから好きなだけ食べてくださいね」


「はーい!」


 一流のシェフである料理人が作った料理はどれも絶品。

 材料を持ってきた段階で仕込みを始めていたので煮込み料理もお肉がほろほろだった。


 みんなからお肉料理を貰うフィオスは震えっぱなし。

 このまま爆発してしまいそうなぐらいに震えている。


「さて……これは切り分け……おいっ、フィオス!」


 でかいお肉の塊。

 じっくりと火を通したそれをウルシュナが食べようと切り分ける。


 フィオスにも上げようとしたところまだまだ残っていた大きな肉の塊にフィオスが飛びついた。


「うおっ!?」


「おおお……」


「あはははっ!」


「おもしろ〜い!」


 フィオスが高速でブルブルと震え出す。

 体の中のお肉がブレて見えるほどに激しく揺れている。


 タとケが触ってみると揺れるフィオスの感触がユニークで面白い。


「にしてはお肉が中々減らないな」


「あれですかね、味わってる?」


 フィオスの中でお肉がクルクルと回っている。

 これだけ震えているならお肉を相当喜んでいるはずなのに中々お肉は無くならない。


 気に入ったものは早めに食べていたフィオス。

 見ていると確かに徐々にお肉は小さくなっていっている。


 リンデランはその行動をフィオスがお肉を味わっているのではないかと予想した。

 味が分かるかも分からないフィオスだけど味についての差異を感じていると見ていると分かる。


 そして野菜やお魚、お菓子を食べている様子からもさらに好みもあると言っていい。

 つまりはフィオスには味覚がある。


 好きなものはさっさと食べる人もいるけれど逆に好きなものをじっくりと楽しむ人もいる。


「……ちょっとどけましょうか」


 味わうのはいいけどテーブルの真ん中でブルブルされるとご飯が食べにくい。

 リンデランが持つと体に力が入っていないのか少しテロッと垂れそうになるフィオス。


 ウルシュナと協力してベッド上に置いてあるリンデランが持ってきたクッションにフィオスを乗せる。


「まーだぷるついてらぁ」

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