閑話・女子会?4
「うん、中々うまいじゃないか」
こうして文字の練習をする。
何度も紙に文字を書いてひたすらに慣れていく。
名前を書くぐらいならそんなに難しいことでもない。
ひとまず名前は書けるようになったけれどタとケは自分たちの文字に納得していないようで上手く書けるまで何回でもチャレンジする。
「ちょっと疲れましたね……晩御飯前ですけどおやつ食べましょうか」
「えっ、やったー!」
「わーい!」
集中して文字の練習をすると頭が疲れる。
2人の文字にもヨレが見えてきて疲れているのが分かった。
このまま練習を無理して続けても上達しない。
結構練習したので休憩することにした。
休憩といえば甘いもの。
ちょっとお高めの生っぽいものは料理場に渡してしまったけれど焼き菓子のようなものは部屋に持ってきていた。
紅茶を淹れてもらってティータイムにする。
「フィオスの分もありますよ」
リンデランはフィオスの前に焼き菓子を置く。
「フィオス?」
まず焼き菓子に飛びつくだろうとリンデランは想像していた。
けれどフィオスは焼き菓子に向かわずリンデランの方にスススって寄ってきた。
「何でしょうか……?」
「フィオスはお茶も飲むよ」
「だからお茶欲しいんだと思う」
ここはいつも家にいるタとケが気づく。
フィオスはリンデランではなくリンデランの前に置かれた紅茶に寄っていていた。
日頃からジと熱いお茶を飲んでいるフィオス。
タとケはジの淹れる苦いお茶が得意ではないけどフィオスは好んでいるように見えた。
そのために紅茶が欲しいのではないかと思ったのだ。
「こちらですか?」
リンデランがフィオスの方にカップを差し出す。
「どーなってんだ、これ?」
カップに覆いかぶさるフィオス。
半透明の体の下に白いカップが見えて少しずつ入れてある紅茶が減っていく。
本当に少しずつ減っているのだ。
言うなれば飲んでいる。
「おっ……お菓子は食べるのは早いな」
そして紅茶を半分ほど飲んだところでフィオスは移動する。
今度はお菓子の皿に覆いかぶさってお菓子を食べる。
みんなフィオスの様子をジッと見てしまう。
器用なことにまたお菓子の半分だけを食べている。
お菓子を溶かす早さは早くて瞬く間に溶けてしまう。
そしてまた紅茶に戻る。
「なんかキレー……」
「すごーい……」
今度はシュルルと紅茶がフィオスの体の中に上がっていく。
不思議な光景で幻想的、に見えないこともない。
「おかわりいりますか?」
「いる、ってんのかな?」
紅茶をちょっと残しつつお菓子を食べるフィオスにティーポットを見せながら声をかけるとフィオスがピョンピョンと跳ねた。
まるでおかわりがいると肯定しているようだ。
カップに紅茶を注いであげるとまたカップに覆いかぶさって紅茶を少し吸い上げて体の中をぐるぐると回しているフィオス。
「熱かないのかね?」
「ああやって冷ましているんじゃ?」
「体の中に入れたら冷ますも何もないだろ」
「確かにそうですね……」
「おいっ、なんか震えてるぞ?
だ、大丈夫なのか!?
やっぱ熱かったんじゃ」
途端にプルプルと震え出すフィオス。
ウルシュナとリンデランはそれをみて何事かと焦り出す。
「これはねー」
「喜んでるんだよ」
「喜んでる……これが?」
「うん」
「フィオスは嬉しいことがあるとプルプル〜って震えるんだよ!」
これはジから教えてもらったこと。
タとケも最初は震えるフィオスに驚いたものだけどそれが喜んでいるためだと教えてもらって以来どうにかフィオスを震えさせられないかとチャレンジしていたりする。
「お菓子が美味しかったのかな?」
「フィオスお茶が好きだからお茶が良かったのかも?」
「なんだか知らないフィオスの一面がたくさん出てくるな」
「……てことはですよ」
「なに?」
「お魚……あまり喜んではいなかったんでしょうか?」
「あっ」
先ほどの食事風景を思い出してみる。
結構好んでお魚食べていたと思っていたけれどフィオスは震えていなかった。
食べたけどお魚は好みじゃなかったのだろうか。
「んーとねフィオスが震えるのはすっごい嬉しい時」
「でも震えてなくても嬉しいって思ってるよ、ってジ兄は言ってた!」
「ふーん……じゃあ、魚は震えるほどには好きじゃないってことか」
「お茶とお菓子のどっちか。
もしかしたらその組み合わせがお気に召したのでしょうか?」
「だとしたら私よりよっぽどお嬢様だな」
紅茶とお菓子を楽しむ。
ウルシュナはジュースが良い。
本当にどちらも楽しんでいて喜んでいるのだとしたらフィオスの方が淑女であると言えるかもしれない。
フィオスはまた紅茶のおかわりをもらいながらみんなもティータイムを楽しむ。
途中タがカップを倒してしまったがフィオスが素早く紅茶を吸い取ってくれたので全く大事に至ることもなかったなんてこともあった。
文字の練習も疲れたので晩御飯までの間は刺繍をすることにした。
誕生日プレゼントのエプロンに刺繍をしてくれたのがタとケであることは知っていたのでちょっとハンカチに簡単な刺繍でもと貴族の女の子らしい遊びをする。
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