閑話・女子会?3

「えっと……なんでヘレンゼールさんが?」


「たまたまです」


「た、たまたまですか」


「はい」


「ご招待に預かり光栄です」


「ありがとうございます」


「はぁ〜、まあ人多い方が楽しいもんな」


 リンデランの良い考えとはタとケの2人をお泊まりに呼ぶことである。

 自分のところの人にお願いしたはずだけどそこにヘレンゼールはいなかった。


 なのにいざタとケを連れてきたのはヘレンゼールだった。

 優秀でパージヴェルの補佐も巧みにこなしているが結構神出鬼没な人で考えが読めないところがある。


 どうやってタとケを呼んだことを知ったのか知らないけれども能力的にはむしろ安心だからリンデランも触れないでおく。

 まさか双子を呼んでくるとは思ってもなかったけど人が多い方が楽しい。


 リンデランが買ってきた食材の量からするとかなり多かったので人がいる方がいい。


「それでは失礼します。


 お帰りになる時にも私が送り届けますので早めにお声がけください」


 邪魔しちゃ悪いとヘレンゼールは退席する。


「あの人、ほんと変な人だよな」


「良い人なんですけどね……


 まあおじいさまの補佐をなさる人はあれぐらいでなければならないのかもしれないですね」


「今日はなんでお呼ばれしたんですか?」


「今日はですね……なんて言うか」


「あれだよ、パジャマパーティーだよ」


「パジャマ」


「パーティー?」


「そう。


 女の子だけができるお泊まり会だよ!」


「女の子だけの」


「お泊まり会……」


 この集まりの目的が何だと聞かれると正確にこれと答えるのも難しい。

 言うなればフィオスと遊びたい集まりみたいなものだけどタとケを呼んだのはただ一緒にワイワイしたかったからだ。


 そうなるとリンデランの目的とは違ってしまう。

 だからパーティーってことにしちゃえとウルシュナが言った。


 集まる理由なんてそんなものでいいのだ。

 お泊まり会やパーティーと聞いてタとケが目を輝かせる。


「でも」


「パジャマ持ってきてない……」


 しょんぼりとするタとケ。

 聞いていたなら寝る時に来ている服を持ってきたのにと思う。


「んーじゃあ私のお古でもいいか?


 まだ捨ててなかったからあるはず」


「本当?」


「いいの?」


「2人がいいなら是非もらってくれ。


 私には小さくて着られなくなったものだからな」


 ーーーーー


「かーわいー!」


「似合ってる〜!」


 ウルシュナのお古のパジャマに着替えたタとケ。

 意外とフリフリなものもあったりしてタとケもキャッキャッとしてパジャマを選んでいた。


 ついでにフィオスのも用意した。

 お古のパジャマを裁断してチクチクとお直ししてフィオスにマントみたいに巻き付けて付けてあげた。


 ピンクのフリルが付けられたフィオス。

 ジがいたら苦い顔していただろうけど今ここにはテンションの上がった女子しかいない。


「まだもうちょっと晩御飯まで時間ありますね。


 何かしたいことはある?」


「……したいこと」


 タとケが顔を見合わせる。


「あのね」


「なーに?


 何でも言って」


「文字……教えてほしいの」


「文字?」


「うん」


「あのね……」


 タとケは綺麗に文字を書けるようになりたかった。

 もっと正確に言えばとある言葉を書けるようになりたかった。


 それは名前だった。


「そうなんだ」


「んじゃあ紙とペン持ってくるか」


 タリシャとケミュイという名前を上手に、綺麗に描けるようになりたかった。

 タとケは文字を書けない。


 食堂で働くのでメニューぐらいは読めるけれど必要もなかったし文字を書く練習もしてこなかった。

 だけど2人は自分の名前を与えられた。


 まだ幼いことから周りとの体面などの兼ね合いはあるけれどジはタとケが母から与えられた名前を好きに名乗ればいいと言った。

 しかしタとケはすぐには名前を名乗らなかった。


 ただ名乗れればそれでいいのでもない。

 名前にふさわしい自分たちでありたいとタとケは思った。


 せめて名前が書けるようにはなりたい。

 本当は自分たちだけで生計が立てられるようになるぐらいが理想だけどそこまでは何年かかるか分からない。


 だからとりあえず綺麗に名前を書けるようになったら名前を名乗ろうと考えていたのである。


「タリシャはこう。


 ケミュイはこうだな」


「わー、綺麗!」


 ササッと紙に名前を書いてみせるウルシュナ。

 ウルシュナの字は綺麗だった。


 やや流して書いているが基本は出来ていて達筆な感じに見える。

 母親がこうしたことに厳しいのでウルシュナは文字もちゃんとしていた。


 一文字ずつしっかり書くタイプじゃないが読みやすい文字だった。


「タリシャ……ケミュイ」


「すごーい!」


 リンデランはより分かりやすいお手本となるように一文字ずつ綺麗に書いてあげた。

 リンデランとウルシュナ、どちらもまた違っているがそれぞれにそれぞれの良さがある。


「まずペンはこう持って……」


 リンデランがケの後ろに回って手を取って丁寧に教えてあげる。

 ウルシュナがタの方を担当する。


「ケミュイ、ですね」


「むむむ……」


 綺麗に文字を書くのは難しい。

 ペン先に程よくインクをつけて程よい力加減でインクの量を気にしながら書いていく。

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