甘えるのもワガママも3

 ヘギウスの騎士がちゃんと監視もしている。


「んん、どうしたペキヌードゥ」


「コダラッド?」


 それでも心配でハラハラしてみていたジ。

 フィオスの愉快な感情を感じているのでフィオスは自由にさせてもらって楽しいみたいだ。


 そしてタとケの妖精を従えるようにして跳ねて中庭を進む。

 そうしているといくつかの魔獣がフィオスに近づいて頭を下げるような仕草をする。


「なあ……前から気になってんだけどさ、あれなんだよ?


 みんな、じゃないけどああやってフィオスに挨拶するみたいなことあんじゃん?」


「それな、俺もわっかんないんだよ」


 こうしてみると何となくだけど一定程度の知恵がある魔物だけが挨拶に向かっているようにも見える。

 キーケックにも聞いてみたけどキーケックも首を傾げるばかりだった。


 強い魔物や格の高い魔物が魔獣となった時に他の魔獣から一目置かれることはあるらしい。

 ただあんな感じで敬意を払われるのはクトゥワすら知らない。


 そもそもフィオスはスライムだ。

 強い魔物でも格の高い魔物でもない。


 それに過去ではフィオスに頭を下げる魔獣なんていなかった。

 つまり何も分からないのだ。


 バカにされていないようなのでそれでいいのだ。

 いつかこのことについても分かればいいけど知るためには魔獣に聞くしかない。


 ほぼほぼ分からないということだけど悪いことじゃないから焦ることもない。


「あれだな、フィオスってスッゴイスライムなのかもな」


「……そうかもな」


 妖精2匹を従えているようにも見えるフィオス。

 直接的な戦闘能力では期待はできないがスライムの能力は侮れないものだと思う。


 生かすのは大変だけど生かせれば面白い相棒だ。

 フィオスがスッゴイのか、スライムがスッゴイのかちょっとそこらへんも難しいところだ。


 とりあえずフィオスはスッゴイ。


「みなさん、そろそろ始まりますよ」


「あっ、はい」


 意外とフィオスの周りに魔獣が集まって和気藹々としているのを横目にヘレンゼールに呼ばれて中に戻る。


「みなさま、本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます」


 中に戻るとちょうどリンデランが登場するところだった。

 登場の音頭はリンデランの大叔父に当たるウィランドが務める。


 さすが商人、腹から声が出ていて会場にしっかりと聞こえる。


「それでは本日の主役の登場です!」


 会場から声が漏れる。

 付き添いのパージヴェルの手を取り真っ白なドレスに身を包んで現れたリンデランは美しかった。


 やや緊張した面持ち。

 最初に出会った時よりも成長してより女性らしくなった。


 まだ子供らしさは残っているがこれからどんどんと垢抜けていくだろうし、今もうすでに大人たちから驚きの、ため息にも似た声が漏れるぐらいにはその容姿は優れている。

 過去このような子が命を落としてしまったことは本当に悔やまれることだ。


 生きていたらジの耳にも届く美姫になっていただろうと確信を持って言える。


「お、お姫様だぁ……」


「きれー……」


 タとケも目を輝かせている。

 氷を扱うリンデランだから雪の妖精のようだ。


「えっと……」


 全員の視線を浴びてより表情が固くなるリンデラン。

 見ていい場面だから見るけれど顔を赤くして呆けたように見てしまっている男の子も多い。


「み、皆様、私のためにお集まりいただいてありがとうございます。


 こうしてまたお誕生日を迎えることが出来ましたのはひとえに皆様おかげです。


 ささやかなパーティーですが本日はお楽しみください」


 リンデランがドレスの裾を掴んで礼をする。

 パージヴェルが拍手を始めて、続いてみんながリンデランを祝う拍手をする。


「それではジ様もご挨拶に」


「えっ?


 いや、早くない?」


 まずは入れ替わり立ち替わり招待客がリンデランに挨拶する時間になる。

 ジも招待を受けた感謝とプレゼントを渡すつもりではもちろんあったが貴族でもないジが挨拶するのはだいぶ後ろの順番であるはずだ。


「ジ様は最賓客でございますから」


「そんな……」


「このパーティーはリンデランお嬢様のパーティーでございます。


 確かにお家としてつながりのある所はありましょうがお命を救ってくださったジ様よりもただの付き合いが上に来るとお思いですか?」


「……それは」


 そう言われると反論のしようもない。

 けれどあの事件は表沙汰にはなっていない。


 周りの人からするとジが先に挨拶する理由は全く理解できないのだ。


「……それにです」


「それに?」


「こんなことぐらいでぐちぐちおっしゃるお家がこれからの付き合いに相応しいか見極められます」


「人を勝手に物差しにしないでくださいよ」


「勝手に評価されるような行動をするほうが悪いのです」


「……はぁ。


 分かりました、どの道挨拶はするので行きますよ」


「お持ちになられたプレゼントもこちらに用意してあります。


 私が持っていきましょう」


「そんなことまで」


「いえいえ、プレゼントをお持ちのままではご挨拶の妨げになってしまいます」


「やるならさっさと終わらせるぞ、弟子よ」


「そうですね」


 ゼレンティガム家に続いて前に出たのは見知らぬ少年。

 なぜなのか家主であるパージヴェルの右腕であるヘレンゼールが側についていて、さらに若い可愛らしい女の子2人と隻眼の男性が少年の後ろに控えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る