甘えるのもワガママも2

「ようこそいらっしゃいました」


「あれ、ヘレンゼールさん」


 グルゼイとジが先に降りてタとケに手を差し出す。

 レディーに対するマナーである。


「くっ!」


 タもケもジの手を取って馬車から降りる。

 そして出迎えてくれたのはヘレンゼールであった。


 パージヴェル付きの補佐官のはずなのにどうしてヘレンゼールが来たのか疑問だった。

 いつもながら何を考えているのかわからない御仁である。


「どうしてヘレンゼールさんが?」


「大事なお客様ですから他の方にはお任せは出来ません」


「そこまでなさらなくてもいいのに」


「そういうわけにはまいりません」


 いつもよりもぴっちりした格好のヘレンゼールについてヘギウス邸に入る。

 何回かきたことがあるのにこうして案内されて入るのはなんか雰囲気が違う。


「あっ、ジ!」


「ウルシュナ」


 リンデランのお誕生日パーティーなら当然いると思った。

 必要がなかったのでこれまでくることがなかった宴会用のメインのホールに通されるとすでに集まっている人もいた。


 その中にはウルシュナ、というかルシウスとサーシャもいる。

 ゼレンティガム家もご招待いただいていたのだ。


 ウルシュナもドレスに着飾っている。

 シュッとした体型なのでタイトめなドレスがよく似合っている。


「なんか……いいな」


「いいってなんだ?」


「あんまそんな格好してんの見たことないから……」


「ウルシュナも似合ってるぞ」


「ほ、ほんと?


 へへへっ……」


 恥ずかしそうに頬をかくウルシュナ。

 主役はあくまでもリンデランなので過度に派手な格好はしていないが褒められると嬉しいものである。


「久しぶりですね、ジ君」


「お久しぶりね。


 お試しの馬車、調子が良くってよ」


「お久しぶりでございます、ゼレンティガム夫妻。


 何か商品についてありましたらいつでもどうぞ」


 うやうやしく礼をするジ。

 こうしたところもちゃんとオロネアは教えていた。


「タです」


「ケです」


「「よろしくお願いします」」


 ドレスの裾を掴んでおしとやかにお辞儀するタとケ。

 オロネアにサッと教えてもらった割には形になっている。


「あらぁ、可愛いわね」


 知らない子供がゼレンティガム家に真っ先に挨拶している。

 むしろウルシュナの方から話しかけているぐらいだった。


 ジは自然と注目を浴びていた。

 顔見知りでもなく貧民身分なのでジから行くこともなく、他の貴族からすると正体不明の子供なので貴族の方からも行かない。


 何者かと聞きたいところだけど貴族たちの余計なプライドとジの正体が謎すぎて誰も近寄れないでいた。


「他と交流しなくてもいいのか?」


「みんながみんなウルシュナみたいならそれもいいんだけど貴族ってやつは苦手でな……」


 貴族であるウルシュナにそんなこと言うのは失礼かもしれないがウルシュナやリンデランなんかは比較的異端な方である。

 大抵の貴族ってやつはいまだに身分に囚われていて鼻持ちならない奴も大勢いる。


 アカデミーなんかが出来たり平民の台頭もあるので昔よりマシになったみたいだし、これから戦争が激化するようになるとさらに身分の差による差別なんかは少なくなる。

 ただ今はまだ偏見は多い。


「んじゃさ、魔獣だけでも交流させてみたら?」


「魔獣の交流?」


「うん。


 中庭では私たちみたいな子供の魔獣限定で魔獣出しておいてもオッケーなんだ。


 そっちの方でも魔獣用にご飯なんか出してるみたいだよ」


「ほーん、ちょっと行ってみるか」


 ジは基本的にフィオスは出しっぱなしにしている。

 移動の時は割と抱えていたりもするし家にいる時は家の中で自由だ。


 こんなところで魔獣を出しておくわけにいかないので今は出していないが出しておくとフィオスは嬉しいらしくその感情が伝わってくる。

 出しておける場所があるなら出しておいてやりたい。


「んじゃ行こうぜ!


 ヴェラインも出してやりたいしさ」


「私たちも行くー」


「行くー!」


 ウルシュナに連れられて中庭に向かう。


「へぇ……フィオスで実験ね……」


「ああ、キーケックと協力して色々してるんだ。


 フィオスだけじゃなく魔獣としての発見もあるんだ」


 歩きながら近況報告する。

 ウルシュナは相変わらず武芸の道を邁進しているようでジのことも倒してやると息巻いている。


 対してジも鍛錬は怠らないが最近も色々とやっている。

 ちょうど魔獣を出しに行くので魔獣の話になった。


 学者とか科学者的な実験や予想を立てたりすることはジにとって楽しい。

 若い頃から環境が整っていて学があったならそのような道も面白かったかもしれないとは今更思う。


 とりあえず今はフィオスの能力や出来ることを色々試してみている。

 ジも知らなかったことが分かったりして楽しく、フィオスもジが理解してくれるのが楽しいらしい。


「ほら、ここだよ」


 中には貴族の子供たちとその魔獣がいた。

 魔獣は小さいサイズになっていて広々とした中庭で魔獣同士が交流している。


 この場に限っては契約者の身分の関係もなく気の合う魔獣が寄り集まっている。


「行っといで」


「なんか食べといでー」


「ケンカしないでねー」


「イジメられんなよ」


 それぞれ魔獣を中庭に放つ。

 ちょっとフィオスのことは心配だけど誰のか分からない魔獣に手を出して問題になれば困るのでよほどでなければ手を出すことはないはずだ。

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