甘えるのもワガママも1

「はあぁん!


 もっと早く言ってくださればぁ!」


 リンデランのパーティーにはタとケも招待された。

 グルゼイも助けに来てくれた人として招待され、一度は断ったのだけどタとケの大人の保護者が必要ということでパーティーに出席することになった。


 服は最悪金で何とかすればいいのだけど身なりを整えるのは自分でとはいかない。

 そこらについても気を回してくれたのがオロネアだった。


 タとケ、それにグルゼイも行くことを伝えると全員分の服や身の回りの準備をしてくれるスタッフを揃えてくれた。

 ジやグルゼイはそんなにすることもないがやっぱり女の子なタとケはちゃんとしなきゃいけない。


 事前に採寸して服のサイズを伝えておいたのでいくつか取り揃えてあったが実際に来てくれたスタイリストの人がタとケを見て興奮していた。

 原石!と叫びながら服を選び、メイクを施してくれたがこんな子が相手ならもっともっと服を用意してきたのにと嘆いていた。


 アゴの割れたメイクをした男性オネエ言葉スタイリストにタとケも最初は警戒していたが褒めが上手く腕も一流であっという間にその人を受け入れていた。


「ぼーやも素材は悪くないわよ。


 もっと磨けば輝くはずよ?」


「お世辞でも嬉しいです。


 ありがとうございます」


「んもう!


 私は下手なお世辞は言わないわよ?


 でもぉ……1番素敵なのはおじさまね」


「それ以上触ると毒を盛るぞ」


 無精髭を剃って髪を整えたグルゼイ。

 普段の無頓着な感じだと年を取って見えるが綺麗にするとだいぶ若々しく見える。


 スタイリストの好みドンピシャらしくちょっと接触が多い。


「あら、なら口移しでお願いするわ」


 殺気立つグルゼイにもスタイリストは一歩も引かない。

 なんだか猛者の雰囲気がある。


「口に剣を突き立ててやる」


「うふふ、怖いわね」


 かなり独特な人だけど腕は確か。

 もっと早くなんて言っていたが可愛らしく妖精のようになったタとケを見てグルゼイもスタイリストの腕は認めざるを得なかった。


「ふふっ、緊張して足を踏んではダメよ?」


「分かっていますよ、お母さん」


 なんだかダンスのレッスンを続けるうちにお母さんと呼ぶことにも違和感が完全に無くなってしまった。

 オロネアの作戦なのだろうけどしてやられたものである。


「これ、私の名刺よ。


 本当はあまり他の人の仕事は受けないんだけどあなたたちなら歓迎よ」


「ありがとうございます。


 えっと、レディーマルリルラ」


「ふふ、出来た子ね。


 私のことをレディーなんて呼んでくださるなんて」


 見た目男性だけど細かな仕草などは女性っぽい。

 どっちか迷ったけどなんかレディーって言った方がしっくりきたからそう言ったのだ。


「ユディット、悪いな」


「いえいえ、こうしたのも騎士っぽくないですか」


 馬車は当然フィオス商会のもの。

 青いちょっと潰れたようなフィオスを模した丸の絵が家紋代わりに描かれている。


 豪奢な馬車ではないが見る人が見ればどこの馬車か分かるだろう。

 そして御者台にはユディット。


 招待客ではなく馬車の御者としてユディットにもお仕事してもらう。

 馬車の御者もいつの間にか出来るようになっていて、仕事の幅が広くてこうしたことも出来るようになっておいた方がいいと練習していたらしい。


 護衛のために御者を騎士が担当することもあるのでユディットによるとこれも騎士らしくていい仕事のようだ。


「ほんとお前はすごいな」


「ならもうちょっと良い顔して褒めてくださいよ」


 今グルゼイは結構凶悪な目をしている。

 なぜかって?


 タとケが迷いなくジを挟むように座ったからだ。

 2人掛けの座席が対面するような配置の馬車は普通サイズで通常なら2人ずつで座る。


 しかしジもタもケも子供なので詰めれば3人で座れる。

 1人寂しく座ることになったグルゼイはジを睨んでいたのだ。


 ただやはり馬車の乗り心地はいい。

 日々弛まぬ鍛錬を重ねながらこんなものを作り上げたのは感嘆に値する。


「そっちは狭くないか……?」


 ただ1人ぐらい、タとケのどちらかはこちらでもいいのではとグルゼイは思う。

 いや、最悪ジがこちらでいい。


 そうすれば何もかも丸く収まる。


「狭くない」

 

「大丈夫」


 ジとしてはグルゼイの隣でなんら問題はない。

 だけどタとケに両腕をがっちりとホールドされてしまっているので動くに動けない。


 師匠の意思は汲めても行動に移せない。

 ジはそっと目を閉じてグルゼイの視線を遮断する。


 そうだ、ダンスの復習でもしよう。

 ヘギウス家まではそんなに遠くない。


 わずかな時間を耐え忍べばいいである。


「おっと……」


 馬車が止まった。


「すいません、パーティーへの招待客でありましたら招待状の確認と馬車の中の改めをお願いしております」


 着いたのかと思ったがその前に確認作業があるらしい。

 貴族の邸宅に人を呼ぶわけだし無警戒に誰でも入れてもいいわけじゃない。


 他の招待客を警戒することもそうだし、他の招待客を守る義務も同時にあるからだ。

 大変だなと思う。


「招待状はこれです」


 ジが馬車の扉を開けて対応する。


「こ、これは!


 失礼いたしました!


 どうぞお進みください」


「中の確認は……」


「もちろんいりません!


 ご同行者様の招待状の確認も要りませんのでお進みくださいませ!」


「はぁ……」


 首を傾げるジだが入っていいというならこちらから確認してくれなんて言わない。

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