母の愛7
「おばあちゃん大丈夫?」
タとケはわけも分からず2人にとっては突如として年配女性がふらついて膝をついたように見えていた。
「ファフナさんですか?」
ジもファフナに寄って膝をついて視線を合わせる。
「はい、そうですが……これは一体……」
「まあちょっといくつか話すべきことがあるのでどこか落ち着いてお話しできるところはありませんか?
道端で膝をついて話すのは少し大変ですしね」
ファフナは足が悪い。
このままここで膝をついたままでは良くなかろう。
という事でファフナの家に場所を移した。
膝をついていた場所から2、3軒のところなので本当に直ぐだった。
他の家と見た目も変わらないあばら屋。
中には物も少なく、ジは過去の自分の最後らへんの生活を思い出した。
「何のおもてなしもできませんが……」
「いえいえ、お構いなく。
俺はジです。
この2人はタとケ」
「私はファフナと申します」
ジたちが入るともう家いっぱい。
そんな狭い家だけど中は綺麗に掃除されていた。
「まずはこの2人のことから話しましょうか」
これから話さないとファフナの方が落ち着かない。
「まさか……本当に」
「そのまさかです。
先ほどアレナ……と言いましたか?
この貧民街にいて双子を出産して亡くなった女性のその時の子供たちがこの子たちです」
「ああ!
この世に神などいないと思いながらも日々祈っていました……
無事でよかった…………」
「よければ2人のこと、その母親のことをお聞かせ願ってもよろしいですか?」
「私が知る限りでよければ話しましょう」
ファフナはタとケの母親であるアレナについて話し始めた。
とは言っても元々知り合いでもなく、この貧民街に来てからの知り合いらしかった。
当時から足の悪かったファフナは小さい石につまずいて転びかけた。
そんなファフナをサッと支えて助けてくれたのがアレナであった。
見るともうお腹は大きく身重であることがすでに分かる段階だった。
それなのに倒れかけたファフナを助けてくれたアレナ。
顔は美しく一度見たら絶対に覚えているはずなのにこの辺りでは見たことがない。
そのような人がいると噂も聞いたことがない。
きっと貧民街に来たばかりだとピンと来た。
こんな綺麗なお嬢さんが身重の体でこんなところに来てはいけないと諭したがアレナは寂しそうに笑うばかりだった。
だからファフナは自分の家に招いた。
狭い家だが物もないので1人でいるには余らせていた。
「双子だと分かっていれば無理にでも医者に早めに見せていたんだけどね」
アレナは医者などに行くことを極端に嫌がった。
どうにもお腹が大きいような気はしていたけれど無理に医者に見せることもできないしこんな状況で出ていかれてしまっても嫌だったのでファフナも見守ることにした。
昔たまたま産婆の経験があったファフナは多少のことなら対処できるだろうと高をくくっていたのもあった。
「たとえ嫌われようとも呼んでおくべきだったよ……」
ファフナは涙を流した。
いざ産気づいて産んでみると子は2人だった。
貧民街で環境も良くない上に母体が十分な体力を蓄えられるほどの食事なんかも取れていなかった。
アレナは自分の物を持たせて急いで医者を呼びに行かせたけど医者はいつまで経ってもこず、そのまま双子と僅かな時間を過ごしてアレナは先に旅立ってしまった。
力及ばなかったとさめざめと泣くファフナ。
「おばあちゃん……」
「泣かないで……」
そんなファフナの手を取り、ハンカチを使って涙を拭ってあげるタとケ。
「あなたたちがアレナの子なのは一目見て分かったわ。
その優しさまで似ているなんて不思議ね……」
天使のような双子は周りからの注目を集めた。
ファフナも周りと協力して守りながら育てていたけれど良からぬ連中が目をつけたのを知ってタとケを逃すことにした。
足の悪いファフナで出来ることには限界があって人に任せることになってその後の消息は分からなかった。
子どもの保護に特に厚い大婆が勢力圏の貧民街に逃したとは聞いたけれど双子がどうなったのか知るのが怖くて調べようともしなかった。
結局のところ送ったのは貧民街。
現実的な問題としてそこに耐えられない子どもだって存在はしているのだ。
けれどタとケは生きていた。
なんだかんだ周りの愛を受け、可愛がられてジという素敵な保護者の元で暮らしていた。
「待っててね。
よいっ、しょっと……」
ファフナは立ち上がって部屋の隅にある箱を開けた。
中身を取り出してさらに箱の奥に手を突っ込む。
かこんと音がして箱の底から板を取る。
二重底になっている箱だった。
「アレナの持ち物は彼女が死にかけた騒ぎの時に持って行ってしまった不届き者がいたの。
でもそれでもいくつか残っていたもの、残していたものがあるの」
いつか渡さねばならない。
そう思ってファフナは捨てることもできずにアレナの遺品を大切に保管していた。
「服と……扇?」
「アレナの商売道具よ。
いつか子どもにも自分の仕事の姿を見せるのだと言っていたわ」
出産が落ち着いて余裕ができたら再び踊り子としてお金を稼ぎ子育てするつもりだったアレナ。
親の姿を見せ、稼ぐ手段とするために衣装と踊りの道具である扇は手放さなかった。
ややタイトめな服。
それを見ればスタイルの良さもわかる。
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