母の愛8
「すべすべ〜」
「気持ちいい〜」
「こりゃ良いものだな」
服を受け取ったタとケが驚く。
羽のように軽いのに手触りがとても良い。
グルゼイも軽く触れたがずっと触っていたく思えるような滑らかで柔らかな手触りだった。
「こちらの扇も……魔道具ですね」
扇からほんのりと魔力を感じる。
こちらもまた持っていることを忘れるような重さ。
開いてみると薄紫の大きな羽で出来ている。
どちらもただの踊り子に手が届く代物ではない。
それどころか多少のお金持ちでも買うのは厳しそうだ。
魔道具とは魔物の素材を使ったり卓越した技術を持った人が作る魔力のこもった道具を指していた。
基本的には武器や防具のようなものが多いが今では例えば火を起こせる魔道具などの技術的なグレードを少し落とした生活に使える魔道具なんてものもある。
この扇も魔力がこもっている魔道具だけれどあまり武器にもしないし日常的に使うこともないので扇は必要といえるものでもない。
つまりは魔道具にするものじゃない。
ということはかなり特殊な魔道具であり、価値を考えるとかなり高いものである。
「私はよく分からないんだけどアレナが一度説明してくれたのは風を操ることができるらしいよ」
「風を操る魔道具ですか?」
「そうさね。
なんでも踊る時に衣装が綺麗に舞うようにアレナは使っていたらしいね。
でも使いようによっては武器にもなる優れたものだって言っていたよ」
「むしろ舞の演出のために使うのにはもったいない代物だろうな」
「使うかどうかは別としてこれらはあなたたちのものよ。
そしてこれ」
「お手紙……ですか」
「子を産む少し前に書いたものよ。
……もしかしたら予感がしていたのかもしれないわね」
「ジ兄……」
「読んで……」
「俺で良いのか?」
「うん」
「ジお兄ちゃんだから」
タとケは字が読めない。
貴族の子供ならもうとっくに習得していてもおかしくないが貧民の子供で文字がちゃんと読める子供の方が少ない。
ジは過去で習ったので読み書きができるがタとケはそうではない。
そのうち教えてやろうと思うけど中々ジの方も時間が取れない。
「……じゃあ読むぞ」
このことをきっかけにしてタとケは読み書きを習い始める。
けれどまだそれは先の話である。
『この手紙を読んでいるということは私はあなたの隣にいないということでしょう。
ごめんなさい。
私が隣にいてあげることができなくて。
でもこの手紙を読んでいるということは生きていて、少なくともこの手紙を理解できるほどには大きくなっているのだと思います。
ありがとう、産まれてきてくれて。
大きくなったあなたはどのような子に育っているでしょうか。
大人しい子かな、お転婆な子かな、わがままな子かな。
どんな子でも良いです。
元気で育ってくれれば。
もしかしたらこんなところにあなたを産み落とした私を恨んでいるでしょうか。
世の中には大変なことがたくさんあります。
時には何もかもが嫌になったり、恨みに思ったりすることもあるでしょう。
そうすることは悪いことではありません。
そんなことしちゃダメだと言うつもりはありませんから。
でも嫌になっても恨んでも時間は経つし前に進まねばなりません。
どれほど嫌でも大変でも辛くても前に進むことを諦めない強い子になってください。
あなたの成長を側で見守ることができないのは心残りではあります。
子を産まなければ、などと言う人もいます。
でも私は産みたかったのです。
忘れないでください。
私はあなたを愛していて、この素晴らしい世界に産まれてきて欲しかったのです。
どれほど辛くても前を向けたのはあなたがいたからです。
男の子ならルシャかスミーク。
女の子ならタリシャかケミュイ。
古代の物語に出てくる優しいお星様の名前から取りました。
どこにいても、いつまでも私の愛は変わりません。
例えあなたが私を恨んでいても、憎んでいたとしても私はあなたのことを愛しています。
最後に少しワガママを。
素敵な人を見つけてください。
あなたのことを愛してくれる、あなたが愛していたいと思える素敵な人を探してください。
私も素敵な人を見つけてあなたを授かりました。
変わらぬ愛を込めて。
あなたの成長を願っています。
あなたの母、アレナより』
まだお腹にいるのが双子だと分かっていなかったアレナが書いたので2人にと言うよりも1人に対して書いた、しかし母としての愛の込められた手紙。
「ふっ……うっ……」
「何泣いて……いるのだ」
「師匠だってぇ……」
「2人とも泣かないでよぅ」
「我慢してたのにぃ」
手紙を読み上げながら号泣してしまったジ。
これまでも結構危なかったけど流石に手紙を読み上げたらダメだった。
グルゼイも泣いている。
そして泣かないようにと耐えていたタとケも2人が泣いているので泣いてしまった。
双子ちゃん今日一日何度泣くのだ。
「まさか会いに来てくれるなんて思わなかったわ。
今はあなたが保護者なのね」
ファフナはジの方を見て優しく微笑む。
子供だからと偏見の目では見ないでタとケが頼りにしているのはジだとしっかり見ていた。
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