母の愛3

「だから娘だけでも手に入れようと思った。


 思ったのに……クソ野郎どもどっかに逃しやがった……


 そのガキは俺のもんだ!」


 かじってるもんのせいじゃなくて元々イカれてんなと思った。

 血走った目で見られてタとケがジの背中に隠れようとする。


「そうか。


 だけどこの2人は諦めてくれ。


 お前ごときが手を出していい子たちじゃない」


「だから……お前は何なんだよ!」


「俺はこの子たちの家族だ」


「はっ、家族ぅ?」


 今一度ジを上から下まで見る。

 相応しくない。


 タとケは将来美人となる。

 こんなみずぼらしいガキとは到底釣り合わない。


「じゃあこうしよう。


 お前らが俺のところに来たらこれをくれてやる」


「それはなんだ?」


 男が取り出したのはロケットペンダントだった。

 けれど手のひらほどのサイズがあってかなりデカいものだ。


「お前らの母親の顔、知りたくはないか?」


「まさか……」


「どっかの物好きが金かけてこんなもの作ったみたいだな。


 いい絵だ。

 俺にゃ向けたことない顔してやがる。


 裏の宝石は売っちまったがそんなものより中身の絵がお前らに取っては大事だろう?」


「なぜそんなものをお前が……」


「知らなかったんだよ。


 あの女が、出産中だったなんて」


「えっ?」


「危ないと思ったんだろうな……これを持たせて医者を呼びに行かせてたみたいだ。


 俺はそれを知らずにあの女のもんが欲しくて、医者を呼びにいってた奴をぶっ殺して、これを奪った。


 後悔してる……俺がこれを奪ったばかりに医者も来ず、女は死んだ……

 もうちょい早く何のためにこれを持っているのか言やよかったのに」


「テメェ……」


 ジの頭に血が上り、目の前がチカチカするほどの怒りを覚える。

 しかしジよりも早く怒りを爆発させた人がいた。


 グルゼイの拳が坊主頭男の顔面にめり込んだ。


「俺もそこそこ長いこと生きてきたがお前のようなクズは見たことがないな」


 グルゼイがやらねばジが殴っていた。


「あいつのせいで……」


「お母さんが……」


 タとケはショックを受けている。

 なぜ母親が死ぬことになったのか、その本当の理由を知った。


 出産の時に母親は死んでしまうことになったけれど産まれてくる時にようやくお腹にいるのが双子だと分かった。

 タとケの母親は産気づいて医者を呼んでこようとしたのだけど坊主頭男が邪魔をした。


「ふひょ!


 ひゃ、ひゃが……」


 坊主頭男の前歯が折れてポロポロと地面に落ちた。


「こ、こいつ!


 いきなりなんひゃ!」


「弟子は息子で弟子の家族なら俺の家族でもある。


 つまりタとケは俺の守るべき家族、娘だ」


「いきなり出てきてわけわかんないこと……」


「おい、ビスカス……」


 何となくだけど悪そうな大人たちが周りを取り囲んでいることは分かっていた。

 坊主頭男とのいさかいを見物にしに来たにしてはちょっとばかり柄が悪すぎる。


 同じような坊主頭をしているがビスカスよりもはるかにガタイのいい男が前に出てきた。


「い、いふぁいです……」


 ビスカスの肩に置かれた手には力が入り、指先が食い込んで痛みに顔を歪める。


「お前が金を払う目処がたちそうだっていうから来てやったけど……何だこれは?」


「あ、あのガキたちでひゅ!」


「ガキを働かせたってお前の飯代ぐらいにしかならないだろ」


「み、見てくだひゃいよ!


 きき、綺麗な顔してるでひょ。

 ちゃんと身なりを整えて貴族かなんかの相手させれば……」


「おい」


 男の手に力が入って肩が悲鳴をあげる。


「こんな白昼堂々とガキを売る話すんじゃねえよ」


「ご、ごめんなひゃい……」


「まあでも確かに……お前の借金も返せそうな顔してるな。


 ……そうだな、お前ら、俺たちの仲間に手を出したツケを払ってもらおうか?」


 ニタニタと男が笑い、周りにいた柄の悪い連中が逃げられないようにジたちを囲む。


「ふん、お友達には見えないがな」


「お友達さ。


 かわいそうに前歯も折れちまってる。


 こりゃ治療費も必要だな」


 男の目的は分かりきっている。

 ただ子供に手を出すのは良くない行いで貧民街であっても咎められる。


 だから相手から差し出させたい。

 自らの意思でタとケが来るか、保護者っぽいジやグルゼイがどうぞというのを望んでいる。

 

 ビスカスの考えに乗りつつも逃げ道は残そうという卑怯なやり方。

 確かにビスカスに先に手を出したのはこちらである。


「金は持っていなさそうだから……別のもので賠償してもらわなきゃいけないなぁ」

 

「金だろうと、タとケだろうと貴様にくれてやるものなど微塵もないわ……」


 けれどジもグルゼイもユディットもそんな見え透いた提案に乗るつもりなんてない。


「なら多少痛い目見てもらうことも必要になってくるぞ?」


「お前らの方がその代償を払うことになるだけだ。


 そのペンダントをこちらに寄越せば命だけは助けてやるぞ?」


「いけすかねえクソオヤジだな……お前ら、少し口の聞き方ってもんを教えてやれ!」


 待ってましたと柄の悪い連中が武器を持ち上げる。

 剣を持っている奴もいるが木の棒だったり素手のやつもいる。


 人数はそれなりにいるが実は悪いのがミエミエだ。


「ユディット、タとケは俺が守るから……暴れろ」


「初めてそのようなご命令いただけて嬉しいですね」


「2人は任せたぞ。


 俺は少し手加減が出来ないかもしれないからユディットも気をつけろ」


「やれ!」


 柄の悪い男たちがワッと押し寄せる。

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