トリトリパニック3

 いきなり仲良くしろと言って仲良くできるようなスキルはジにもない。

 当たり障りなく接することはできるけれどそれだけである。


 時間はあるのだからゆっくりじっくりでいい。


 キックコッコの死体は木に吊るしてある程度血を抜く。

 それからギルドから貸し出されている袋の中に入れる。


 これは魔道具であって見た目の何倍もの容量がある優れもので一定程度ギルドの信頼を得ると貸してもらうことができる。

 無くしたらアホみたいな金額請求されるので大切に使わねばならない。


 当然この場合信頼して貸し出されているのはグルゼイなので無くしたらグルゼイに請求が行ってしまう。

 この魔道具を買い取って自分のものにするというのも1つ冒険者のステータスにもなっていたりする。


「そうだな5匹は捕まえたいところだな」


 とりあえず1人1匹分と晩飯用。

 最低それぐらいは倒しておきたい。


 森の中を探索する。

 普段はあまり他の冒険者に会わないのだけどキックコッコの目撃情報が多いためか他の冒険者も今日は見かける。


 そのためなのだろうかキックコッコは中々見つけられない。 

 グルゼイがいるので中級者レベルの魔物が出ても対応できるので少し森の奥に足を向けることにした。


「左、俺にやらせてくれ!」


「じゃあ右をやる!」


 2匹のキックコッコ。

 今度はしっかりと声を掛け合って狙う相手を決めて挑む。


 ジは控えてユダリカとユディットに任せる。

 冷静に戦えば2人ともキックコッコに負けるはずもない。


 ユダリカの方のキックコッコは抵抗を試みて蹴りを繰り出したけれどユダリカは華麗にかわしてキックコッコの首を切り落とした。

 ユディットは逃げようとしたキックコッコの前に素早く回り込んでスパッと切り裂いた。


「この調子なら数は簡単に揃うな」


 それどころか訓練にもならなさそうだ。

 もうちょっとぐらい苦戦するかと思っていたのに3人とも想像よりも遥かに優秀だった。


 ユダリカは実戦がほとんど初めてのはずなのに魔物を倒すことにためらいがなく、基礎的な剣術をしっかりと修めている。

 筋もかなりいい。


 真面目に鍛錬していることがよく分かる。


 ユディットも成長している。

 ドールハウスダンジョンでの経験は無駄ではない。


 人ではない魔物的な動きに対する反応はユダリカよりもいい。

 最後にはドラゴンに倒された悔しさもユディットの努力する原動力ともなっていた。

 

 我流の戦い方をするリアーネや割と手加減しないグルゼイに揉まれながらユディットなりの戦い方を作り上げていっている。


 そしてその2人が守ってくれるジ。

 盤石と言わずして何という。


 この分なら問題ないと森のもっと奥に踏み入れる。


「……大漁なのはいいがキックコッコしかいないな」


 森の奥に行くに連れてキックコッコとの遭遇率はグンと上がった。

 いやそこら中にキックコッコがいる。


 不意を突かれたユダリカがケツを蹴り飛ばされたり対処しきれずにユディットが脇腹を突かれたりした。

 いっぱい倒せるのはいいけれどいささか多すぎる感じはある。


 その上なんだか奥にいるキックコッコの方が好戦的で襲いかかってくる。

 まだまだ脅威とはいえないが血走った目で襲いかかってくる個体もいてちょっと怖い。


「確かにこんなにいっぱいいちゃ血抜きも大変ですしね」


 向こうのほうから見つけて襲ってくる奴もいる。

 臆病で戦いを避ける魔物だと聞いていたのに全然話と違う。


「実はキックコッコじゃないとか?」


「いや、そんなに強くもないしキックコッコなはずだ。


 ただなぜなのか凶暴だな」


 それなり数は倒した。

 十分な金にもなるし肉にもなる。


 雲行きが怪しい時は深入りしないでさっさと帰るに限る。

 危険に陥らないために必要なのは危険に近寄らず早めに危険を察知することだ。


「まだ日も高いが帰ろう。


 なんだか嫌な予感がする……」


「うおおおっ!」


「なんだ?」


 声が聞こえてきてグルゼイは剣に手をかける。


「あんたら!


 逃げろ!」


 森の奥から走ってくる冒険者パーティー。


「逃げるって……何から」


 話を聞く暇もなくジたちを通り過ぎていく。

 こういう時ジはグルゼイの弟子だと思う。


 逃げ足の速さはどこで習ったか師匠譲り。


「えっ……あれって……」


「いいから逃げろバカ!」

 

 冒険者たちを追いかけるように走ってくるキックコッコの大群が見えてユダリカは呆然としてしまった。

 どいつもこいつも目がイっている。


 ここに至って出てくるのは経験の差。

 グルゼイとジは早く、ユディットが続いて、ユダリカはちょっと遅れる。


「ま、待ってくれよ!」


 誰がこんな状況で待つかよ。

 相当数がいるのかキックコッコの足音が地鳴りのように聞こえる。


「おいっ!


 アレなんなんだ!」


 前を走る冒険者に追いついたグルゼイ。

 魔物に追いかけるられるのは勝手にしてくれればいいがこちらを巻き込まないでほしい。


「知るかよ!


 いきなり現れて追いかけて……」


「カイル!」


 冒険者パーティーの1人が木の根に足を引っ掛けて転ぶ。


「見捨てろ!


 まずは自分の命が大事だろう!」


「俺のことはいいから早く逃げろ!」


 泣きそうな顔をして走るユダリカにも追い抜かれた冒険者。

 キックコッコの波に飲まれていく。

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