トリトリパニック2

 もちろん互いを助け合えるなら言うことはないけど個人の戦闘スタイルが合わないことだってある。

 無理して助け合わなくても変な対抗心で相手の邪魔になる行動だけは避けなきゃならないのだ。


「あっちが晩飯になるか、こっちが晩飯になるかの戦いでくだらんプライドなんて捨てろ」


「……分かりました」


「……すいませんでした」


 ジたちは町からほど近い森に来ていた。

 奥まで行ってもせいぜい中級者レベルのところでそんなに深くいかなきゃ子供でも危険は少ない。


 ゴブリンなんかの低級の魔物も出てくるが目的はキックコッコである。

 ジたちはとりあえず見つけた魔物から倒していく。


 ゴブリンだと価値は低いが野生の魔物は害獣のようなものなので倒して損はない。


「うええ……」


 討伐の証として耳を切るのはこの場で1番下っ端になるユダリカ。

 ゴブリンを倒すのに切るのと倒した後のゴブリンの耳をナイフで切るのとはどうしてこうも違うのか。


 他の魔物でもこんな風になることはまずない。

 やっぱりゴブリンは何か特別なのかもしれない。


「ふん、筋は悪くないな」


 ユダリカの剣の腕は今のアカデミーの中でもトップクラス。

 魔力も扱えるようになってさらにユダリカは強くなった。


 エスタルが次に呼ぶ候補にもユダリカも入っているようで、そのうちダンジョンに挑むことになるかもしれない。

 難易度は調整されているらしいけど是非頑張ってもらいたい。


「あれじゃないですか?」


 森の中に3羽の鳥が見えた。

 頭に赤いトサカがあることは同じだけど白だったり黒っぽい色のものもいる。


 大きさは大人の膝丈ぐらいまである。

 鳥種は小型なものから大型なものまで幅広く、小さい方ではあるサイズ感。


「1人1匹だな」


 ちょうどいい数がいる。

 戦うよりも先に逃げることを選びがちなキックコッコは素早く倒すことも必要。


 複数を同時に相手にするよりもしっかり1体1体仕留めていくことが大事だ。


「ほら、気づかれる前にさっさと行け」


「じゃあ俺は左のやつ狙うぞ」


「分かりました」


「任せた」


 その返事じゃダメ。


「行け」


 どうやら分かっててやっているグルゼイにケツを蹴られてジは走り出す。

 このままウダウダしていて気づかれれば逃げられてしまう。


 ジの持つ魔力はみんなから少しずつもらって過去では考えられないほどの魔力を持っている。

 なんとフィオス6匹分。


 通常の6倍である。

 多分グルゼイのちっちゃいヘビにも勝てない。


 ではあるが少ない魔力だったものが6倍になるという変化はジにとって大きい。

 元々グルゼイの戦い方は魔力が少ない人でも出来るようにと考えられたものなのでジとの相性がいい。


 魔力も増えれば増えただけ反映させられるので無駄じゃない。

 6倍の力を得たジは素早くキックコッコに近づいて剣を振った。


 キックコッコの首が飛び、血が噴き出す。


「な、おわっ!」


「う、おおっ!」


 一方で問題はユディットとユダリカだった。

 狙いが被ってしまった。


 被っただけならまだしも互いの位置が見えておらずぶつかった。

 良いところを見せようと勢い込んでいた2人は結構な強さでぶつかって尻もちをついた。


 もちろんキックコッコは逃げる。


「逃すか!」


 ジの反応は早い。

 2人がぶつかった時にはもう逃げ出したキックコッコに迫っていた。


「クッ!」


 一太刀、もう1匹のキックコッコを倒す。

 二太刀、しかし刃は届かない。


 もう少し手足が長ければと思う。

 森の奥に走っていくキックコッコ。


 長距離を飛べないので猛ダッシュで逃げていってしまい、もう姿が見えなくなった。

 1匹逃してしまった。


「何すんだよ!」


「お前こそ邪魔を!」


 言い争うユディットとユダリカ。


 どっちが悪いと言われたらどっちも悪い。


「でっ!」


「いっ!」


「バカもん。


 だからさっき言っただろうが」


「そ、そんなんで殴らなくても……」


 ユディットとユダリカの頭を鞘付きの剣で殴るグルゼイ。

 ジは思う。


 これは師匠も悪い。

 ジがどれを狙うか言った時に2人もサッと狙いを言うべきだった。


 それだけで防げた事故だった。

 しかしジがそれを指摘する前にグルゼイはジを行かせた。


 あえて言わせなかったのだ。

 事故が起きないならそれでいいし起きたらこうなる。


 グルゼイの狙い通りに事故ってしまった2人はまんまとグルゼイに怒られることになった。

 かったい剣で殴られた2人は涙目で頭を押さえる。


「お前らのせいでジが2匹も仕留めることになった。


 3匹いけていたはずなのにな。


 これがもっと厳しい戦いだったらどうする?

 お前らがいがみ合っている間にジは一人で戦うことになっていたんだぞ」


「うっ……」


「それは……」


 グルゼイの意地の悪さはあったとはいえ、確かにほんのちょっと気を使えば避けられる事故だったのは確かなことだ。

 ジに負担がかかったことは間違いないのでユディットとユダリカはシュンとする。


 切磋琢磨することはいいけれどこうして正しい判断ができなくなるのはよろしくないことだ。


「ごめん、ジ……」


「申し訳ありません」


「いいってことよー。


 大切なのは次どうするかだ。


 期待してるぞ」


「さすが会長……お心が広い!」


「うんうん、ジは良い奴だな」


 グルゼイがカッコよく指導する感じだったのにジが心の広い男になった。

 この弟子最後に良いところを持って行きやがるとグルゼイは思った。

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