トリトリパニック1

「悪いな、付き合わせて」


「良いタイミングだったしいいってことよ」


 タとケは誕生日以降も変わらず明るかった。

 でも誕生日を悲しいものだと思うのはやめたのかみんなからもらったものを堂々と使っていた。


「しっかし問題だらけの家だな」


「返す言葉もないわ……」


 それから数日が経ってジは町の外に出ていた。

 メンバーはユダリカとグルゼイとユディット。


 ここ最近にしてはなんとも花のないメンツである。


 事の起こりはタとケの誕生日後だった。


 ーーーーー


「ジ!


 俺を雇ってくれ!」


 誕生日会が終わってちょっと腹ごなしにのんびりとしていた。

 なんかちょっとモジモジとしていたユダリカがジの周りに誰もいないことを確認して近寄ってきた。


 何を神妙な顔をしているかと思えばこの発言だった。


「なんでぇ?」


「えっと……その」


 理由も言えないのに雇えないぞ。

 別に商会の一員になりたいってなら歓迎だけどタイミングが謎だ。


「ちょっと前に問題起こしたじゃん?


 それが弟の母親の耳に入ったみたいで……


 仕送り止められちった」


「はぁ?


 だってあれはお前悪くないだろ?」


「そーなんだけど……その前があるから。


 しばらく大人しくしてろってことなんだと思うけど。


 こんな半端な時期じゃアカデミーの手伝いもないし俺を助けてくれる人もいないし……」


 あとはジの手伝いとかしたいしもうちょい一緒にいれたら嬉しい。

 だからダメ元でジにお願いしてみた。


 正直なところ自由の利かない貴族子息よりも貧民でも商会長のジの方が懐の暖かさは段違いだ。

 キーケックなんかよりも役に立ってみせる。


 そんなちょっとした対抗心もあった。


「うーん……」


「やっぱダメか?」


「いや雇うのはいいけど……メリッサ!」


「はい会長」


 すっかりやり手秘書みたいなメリッサ。

 いい人材を引き入れられたものだと日々思う。


「今のところお前に任せる仕事はない!


 けどとりあえず商会員になっとこうか」


 ユダリカが今後どうなるかは分からない。

 少なくとも他国に行くことは無くなったと思うけどもうちょい打算的な縁も繋いでおく。


「金に困っているのか?」


「師匠?」


 フィオス商会の一員になれる。

 それだけでもう9割方目的を達成したようなもの。


 ニコニコしているユダリカの後ろにいつの間にかグルゼイがいた。

 話を聞いていたようだ。


「何も持たないものが金を稼ぐ方法といえば冒険者だ。


 魔物の討伐が分かりやすい手段だろう」


「師匠何を?」


「お前もまた実践経験を積む必要があるだろう。


 少し魔力も増えて戦ってみないと分からないこともあるはずだ。


 友達がいるならちょうどよい機会だと思わないか?」


「まさか……」


「弟子よ、外に行くぞ」


 ーーーーー


 ということで金稼ぎついでに訓練として町の外に出て魔物を討伐しにきた。


「今日はキックコッコを倒そうと思う」


 キックコッコとは赤いトサカと肉垂を持つ鳥の魔物で割と人気がある魔物だ。

 食べてよし、羽毛は利用できる。


 その上危険度はそんなに高くない。

 魔物の討伐と表現するよりも狩猟に近い。


 ただ油断すると蹴られたりキックコッコの硬いクチバシでこちらの柔らかいところを徹底的に攻撃してきたりする。

 上級種の鳥系魔物を魔獣にしていると従えることが出来るので養鶏している人もいたりする。


「最近目撃情報が多いらしくてな。


 低い危険度の割に買取額は高いし、多く取れたら自分たちで持ち帰って食べてもいい」


 倒し方にこだわる魔物じゃないけどあんまりぼろぼろにされると羽毛の価値は大きく下がる。

 高く引き取ってもらうならスパッと綺麗に倒すことが求められる相手である。


 訓練としては動き回る相手をうまく狙う練習になる。

 多めに取れたらお肉を持ち帰ってタとケの料理に使ってもらってもいい。


「なんでコイツいるの?」


「あなたこそ」


 ユダリカも大概愛想のない人だけどユディットもあまり愛想のいい人でない。

 ユダリカのように警戒した態度は取らないけど打ち解けたような雰囲気はなくて壁があるような感じがある。


 人を信頼していないのではなくてちゃんと一線引いているってところなんだろう。

 どっちも打ち解けられると良いやつなんだけど簡単なことじゃない。


 特にこの2人はなぜなのかとてもジを高く評価してくれていて、謎の対抗心が互いにある。


「俺は会長の騎士ですからね。


 会長の側でお守りする義務があります」


「き、騎士ぃ!?


 ちょ……お前!」


 貴族のユダリカだって自分の騎士はいない。

 子供だからしょうがないけどジは自分の騎士がいるのに驚いた。


「こんなの騎士にしたのか?」


「こんなのとはなんだ!」


 なら俺がなんて思うユダリカ。

 そこは流石にジも受け入れられないけど。


「は……俺がジのことを守ってやるから引っ込んでろよ」


「あなたこそコソコソ魔物を倒していればいいんですよ」


 なんで守られること前提なのだ。

 ユディットはともかくユダリカがそこに張り合う必要はない。


「いいか、一歩外に出れば自分たちが無力であることを心にしかと刻んでおくんだ。


 いがみ合っていてケガをするのはお前たちじゃないのかもしれないんだぞ」


 そんな2人の態度をグルゼイがいさめる。

 いざ戦いになれば個人の技量がものを言うが少なくとも互いを邪魔しない程度の戦い方は必要となってくる。

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