君たちは祝福されている2
「なぜと言いましたね?
俺は誰も目を向けないからとそれに価値がないとは思いません。
例え誰も知らない種だとしても正しく育てれば必ず何かの実をつけます」
クトゥワのやっていることは弱い魔物の生態研究を主にした調査だった。
何を好み、どんなところに住み、何が出来て、どんなことにしているのかを調べていた。
強い魔物を倒すために研究するならともかく弱い魔物を調べても何も意味がない。
そう言われてきたクトゥワだった。
「俺はあなたがやっていることに価値があると思っています。
理由はお仲間になったら分かりますが決してあなたをやっていることやあなたを雇うことは無駄ではない」
例えゴミの処理だろうと、やっていて自分には価値のわからない仕事だろうと目的があってやってるなら何かのため、誰かのためになっている。
過去の経験からジはそう思っている。
「ふぉぉ……」
「だから言ったあぁぁ……」
この親にしてこの子あり。
落涙。
ダパァと涙を流し始めるキーケックとクトゥワ。
泣き方も全く同じである。
「私……自分が恥ずかしいです」
「……何がですか?」
「こうして実際にお考えを聞くまで真意を疑っておりました……
このようなお考えをお持ちの方でしたとは疑ってしまっていた自分自身を恥ずかしく思います!
給料がいくらだろうと構いません。
フィオス商会で働かせてください!」
「お父さん……」
「キーケック……」
「お父さーん!」
「キーケックー!」
抱き合うユニダロス親子。
感動的な光景……だろうか?
「もちろん給与はちゃんとお支払いしますよ。
細かい話は……メリッサ」
「はい、会長」
「こちらのメリッサが担当します。
仕事の中身なんかについてはちょっとまだ契約が必要だから後でね」
とりあえず商会で雇用する契約なんかはこの場でやってもらう。
「と、言うことで今日のメーンに行こうか」
「待ってましたー!」
チラチラと見ながらも邪魔しちゃいけないと気配を消していたみんなのところにジが向かう。
本来の目的はこっちの方だ。
「お願いしまーす!」
ジが声をかけると料理が運ばれてくる。
「やったー!」
「お腹空いたー!」
タとケの前に1番に運ばれる料理。
今日はタとケの誕生日なのである。
双子ちゃんも貧民の子ではあるがハッキリとした誕生日が分かっている。
というのもバリバリ貧民街で出産された子たちなのである。
貧民街の女性たちが手伝ってタとケが産まれてきたのだけどその際に母親は亡くなってしまった。
けれどいつ産まれたのかは教えられていたのだ。
貧民街に産まれた天使の日などと言っているおじいちゃんもいたりしてジもたまたま誕生日のことを耳にした。
そうなのだけどタとケは自分の誕生日が好きじゃなかった。
祝福される日でありみんなタとケをお祝いしようとするけれど自分たちの母親が亡くなった日でもある。
だからタとケは自分たちの誕生日をうとましく思っていたのだ。
でも本来は誕生日はお祝いで楽しく、嬉しくある日であるべきだ。
タとケはこれまで良い子に育ってきた。
貧民街という場所にありながらも周りの大人の保護を受けて善良で他者も思いやれる心を育んでいる。
誕生日が明確に分かっているというのであればタとケが心から自分たちの誕生をよかったものだと思えるようにしてやりたい。
そんな思いから双子誕生日パーティーをすることにしたのだ。
店の評判を聞いていて一度は来てみたいと言っていたお店を貸し切った。
ちょっと他のことにも利用したけどそれは許してほしい。
「食べるって楽しいからな。
好きに食べてくれ。
貸し切りだからマナーも気にしなくてよしだから」
タとケのために種類を出すようにお願いしてある。
「わーい!」
「キーケックとクトゥワさんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます。
私のことは呼び捨てでも構いません。
会長の下に雇われるのですし」
「分かりました」
始まる食事会。
「タ、ケ」
「はい、これ!」
リンデランが小さな包みを2人に手渡す。
今日はタとケの誕生日であることはみんなにも伝えてある。
ケとリンデランは共に誘拐されて恐怖の中で身を寄せ合って乗り切った絆がある。
その縁からリンデランはタとケのことを可愛がっていて、お姉さんのような存在である。
「ありがとう!」
「何かな?」
包み開けてみるとクシとブラシが入っていた。
風の妖精を魔獣とするタにはグリーン、水の妖精を魔獣とするケにはブルーのものをそれぞれプレゼント。
「女の子だから身だしなみにも気をつけなきゃね。
ジ君やグルゼイさんじゃ気付けないかもしれませんからね」
うふふと笑うリンデラン。
正直な話ジは女心に疎い。
人として必要なものは分かっても女の子として必要なものはジは意外と気づかない。
女心の機微に疎いところもまた可愛いのだけどこういった時のプレゼントにはやっぱり女の子としてのものも必要だ。
「も、貰っていいのかな……」
「ね、だって……」
嬉しいはずなのに顔にかげりが見える。
「嬉しくない?」
「う、嬉しい!」
「すごい嬉しい!」
なぜこんな子供が自分の誕生日にお祝いされることに遠慮を感じなきゃいけないのだ。
「これは私からだ」
今度はウルシュナ。
「いつもお世話になってるからな」
「ニックスと僕で選んだんだよ!」
ワとニックスもプレゼントを渡す。
隣の家で仕事してる2人もご飯はジの家でタとケが作ったものをよく食べていた。
お世話になっているのは同じだった。
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