君たちは祝福されている1

「わざわざすいません。


 色々と忙しくてこちらからお伺いできずにお呼びたてする形になりまして」


「い、いえ……まさかこんないいお店にご招待いただけますなんて光栄でありまして……」


「お、お父さん!


 どこ見てる!」


 キーケックに繋いでもらってクトゥワに手紙を送った。

 雇いたいことと会いたいことを伝えると前向きな返事が来た。


 そこで日時を決めてレストラン貸し切りで会うことになった。

 ここは平民街にあるレストランで料理の才能を認められて貴族から支援を受けている平民の男性がやっている結構繁盛しているお店となっている。

 ジの過去でもこのお店は長いこと続いていた。


 貧乏だったジは行ったことがないけれど潰れることなく繁盛していたこのレストランは平民憧れのお店だった。

 今ではまだ歴史の浅いお店だけど評判は相変わらずだ。


 いるのはもちろんジとクトゥワだけじゃない。


 久々に父親に会うキーケックも一緒だ。

 他には商会のみんなもいる。


 ついでにいいお店の料理を食べてみたいと言っていたタとケやグルゼイ、なぜなのかユダリカとかリンデラン、ウルシュナやヒディもいた。

 誰が金出すと思ってるんだ。


 新しい友達と一緒にいるところをユダリカに見られてしまった。

 別にちょっと仲良くなったからすぐ次に、なんて言わないよ。


 ユダリカはバレバレの尾行をしてジとキーケックの関係を明かそうとした。

 聞こえるはずのない距離での会話だったと思うのだけどユダリカはこのレストランにキーケックを招待したことを聞いていた。


 犬並みの聴覚である。

 卵が孵った少年と変な格好の変わり者と高位貴族と仲良くしている謎の少年。


 目立たないわけがない。

 ユダリカからリンデランたちにも情報がバレて、なぜキーケックをいいお店に招待するのか詰められた。


 実は店の予約そのものは以前からやっていた。

 だからそれに合わせる形でキーケックとクトゥワを招待したのだけどユダリカが悲しそうな顔して俺は?なんて言うものだから誘うことになった。


 非情になりきれない自分が悪いのだとジは諦めた。

 貧民が店にいては他の客に良い顔されない可能性があるので貸し切りにしててよかった。


 結局何時ぞや見たようなメンバーが揃っていた。

 今度はちゃんとした平民街のお店だし親同伴ではないけど。


 実は表にヘギウスの騎士やなんかが護衛していたりもする。


「それで契約の話ですが……」


「ままま、待ってください」


「なんですか?」


「どうして……私なんかを雇いたいと?


 やり取りの中で私の研究成果は見ていただきましたが皆が口を揃えて役に立たない研究だと言います。


 一方でフィオス商会につきましては私も耳にしました。

 新しい技術を生み出して新進気鋭のすごい商会だと。


 私の研究、あるいは私がお役に立てることなんて……」


 不安げに視線をさまよわせるクトゥワ。

 息子の前で弱音を吐くのは嫌だけど不相応な扱いを受けて舞い上がってもそんなものが長く続かないことは知っている。


 息子の友達に雇われて役に立たないから首にされましたでは息子に向ける顔も無くなる。

 誰もがクトゥワの研究をなんの役に立つのだと罵った。


 身を寄せていた友人も言葉には出さないが困った顔をして肯定的なことを述べたりはしなかった。

 改めて並んでいる姿を見るとよく似ている。


 ボサボサとした髪、分厚いメガネでクトゥワの方が大人だからかポツポツっと髭が生えている。

 クトゥワの服装はマトモな服を着ているように見えるがよく見るとだいぶ着古されている。

 

 大きなキーケック、あるいは小さなクトゥワと表現したらいいかもしれない。

 キーケックがクトゥワのマネしているのかもしれない。


「人は実を欲しがります」


「は、はい?」


「どんな育成環境が良くて、どう育てるのが良くて、どんな葉っぱをつけるのか、なぜなのかみんな興味を持たず実だけを気にします。


 しかも大抵の場合実がなると大体分かっているものにしか興味を示さない」


 ジが何を言いたいのか理解できない。

 だけど質問に対する答えを述べていることは分かるのでクトゥワはジの言葉に耳を傾ける。


「そして実を食べてこう言うのです。

『不味くて食えたものじゃない』ってね。


 でもそれは本当に実が不味いでしょうか?


 育て方が悪かった、本来の実力じゃない、もしかしたら調理をしたら美味しいのかもしれません。


 なのにみんな望みの実でなければそれを捨てて後は見向きもしなくなる」


 クトゥワはジが何を言いたいのか分かってきた。


「あなたの研究は無駄じゃない」


 グサリと胸に刺さる言葉。

 しかしそれによって感じるのは痛みじゃない。


「魔物を研究観察して生態や好みなどを明らかにしてより魔物の思考や適した環境を探り、人が目を向けないような能力にも目を向ける。


 あなたがやっていることは魔物の基本を明らかにすることで多くの人にとって役に立たないように見えるかもしれない。


 だけどそれが役に立たないなど誰が決めましたか?


 根を張り立派な幹をあなたは育てています。

 その先には立派な実がなることでしょう。


 どんな実も使い方次第、どのようにそれを見るか次第なんです」


 もっとずっと先のことだけど弱小魔物でも役に立つことが分かる。

 何事も使いよう。


 そしてその時になって一から研究を始めたのでは遅い。

 今のクトゥワは黄金の果実になる可能性を秘めている。

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