スカウトチャーンス!4
コムはお茶請けにお菓子まで出してくれた。
誰も話すこともなく静かにお茶を飲む。
温かいお茶を飲んでいるうちにキーケックも落ち着いてきた。
「司書さんはユニダロスさんと仲が良いのですか?」
頻繁に図書館に来ているようだし司書のコムと知り合いでも不思議ではない。
それにしては仲が良さそうな感じがある。
「コムで構いませんよ」
「キーケックでいい」
「う、うん……」
「この子はここで働いているのです」
「ここで?」
「はい。
アカデミーに通われているのは大体が貴族か裕福な平民ですが中には入れるだけ入れて後のことは考えていない人もいます。
寮があり、食堂があるから衣食住の食住は確保出来ますが生きていれば生活に必要なものもあります」
服なんかもある程度揃っていれば洗ってくれるサービスもあるので衣食住揃っていることも不可能ではない。
けれど例えば勉強に必要な紙やペン、インクなんかだとか消耗してしまうものはタダでは手に入らない。
魔法や剣の授業で使うものの整備も必要だ。
一切お金をかけずに生きていくことはどうしても無理だ。
アカデミーの中には実家からの仕送りが期待できないこともある。
それで学びが中断されることはアカデミーとしては本望ではない。
いくつか子供でも手伝えることを用意して仕事をしてもらう代わりに給金を払うシステムがアカデミーの中にある。
キーケックは図書館で司書の補佐として働いていたのだ。
図書館や本が好きだし、コムとキーケックは気が合った。
特に仕事がなければ図書館の管理と称して本も読んでいていいのでキーケックにとっては夢のような仕事だった。
「キーケックは偉いな」
「うおぉぉん……」
「こら、また泣くようなことを言いなさんな」
「ごめんなさい」
「ボクが悪いぃ……」
「これでも食べなさい」
「甘い……」
コムに渡された砂糖菓子を口に含んでお茶で溶かして甘さを楽しむ。
「そろそろ何があったかお聞きしてもよろしいですか?」
「うん……」
キーケックが事情を説明する。
と言ってもたまたま図書館で同じ本を読んでいたジを見かけて声をかけて、たまたま父親のクトゥワを知っていたことにひどく感動して涙してしまったのである。
「そうでしたか。
涙脆い子ではないのに。
明日は雪が降るかもしれませんね」
「雲の様子を見ると明日も晴れです」
「これは物の例えですよ」
コムは優しい目をしてキーケックを見ている。
ただの補佐ではなく孫を見ているみたいな目をしている。
「でも確かにその本は貸し出された記録もないですし内容は分かりやすく書いてありますが子供向けではないので読む子はほとんどいませんね」
キーケックを泣かせたのではないと分かってコムの態度は柔らかくなった。
物珍しいものを見るような視線を向けては来ているが敵意はない。
ジも軽く事情を説明した。
スライムについて調べていると。
「スライムですか……
私の記憶が正しければその本と」
「あと一冊ぐらいですか?」
「おや?
……キーケックですね」
フワリと笑うコム。
まだ幼いとも言えるのによく本を読み、そしてよく覚えてもいる。
「そういえば父親のことだけど今はどこにいるんだ?」
「知り合いのところに雇ってもらってる。
時々、仕送りくれる。
でも忙しいのか手紙も時々しか返さない」
「ふーん……なあ、ちょっと父親と顔を繋いでくれないか?」
「どうして?」
「仕事の話があるんだ」
「……仕事?」
これは機会だとジは思った。
未来の天才魔物研究者とここで出会った。
キーケックの研究もすごいけど全くのゼロベースからのスタートではないはず。
そこには父親であるクトゥワの研究があったと予想できる。
人を食い物にして潰れていった商会が先にキーケックを奪われたところでどうなろうと知ったこっちゃない。
悠々自適何もしないのんびり生活のためにはジが知らない魔物活用法も研究する必要がある。
今すでにやっていることだってより良い方法などもあるかもしれない。
素人の浅知恵だけじゃ限界があるので専門家が欲しいと思っていた。
最終的にはキーケックが欲しいけどクトゥワも十分戦力になる。
そしてクトゥワを手中に収めつつ後々アカデミーを卒業したキーケックも手に入れる。
「自己紹介が遅れたな。
俺はフィオス商会の商会長をやっているジだ」
ジはニヤリと笑う。
アカデミーには優秀な人材が多い。
未来のお方々には悪いがフィオス商会のより一層の発展を目論んでここは1つ先につばをつけておく。
「是非ともクトゥワ・ユニダロスさんとお話がしたい」
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