スカウトチャーンス!3

 その後にこう話になっていた。

 ユニダロスがもっとまともなところで研究をしていたら、あるいは商会がもっとユニダロスを大切にしていたら弱小魔物に当たっていた光は早く輝かしいものだっただろう。


 商会によるユニダロスの死のせいで弱小魔物の研究は10年遅れたとまで言われていた。

 ジはお前のスライムも調べてもらえば役立てたかもななんて酒の席で言われて大げんかになった。


 ボッコボコにされて酒代全部取られたけど気になってユニダロスのことをちょっとだけ他の人に聞いてみたことがある。

 確かにスライムについて調べてくれていたら商会なんかでスライムを生かしたもっといい仕事できたのかなとか思った。


 ていうか酒の記憶しかないな。

 貧乏で暇でやることが安酒かっくらうしかなかったから当然のことだけども。


「お父さんのこと知ってる人初めて!」


 嬉しそうなキーケック。

 違うんだとはもう言えない雰囲気。


「すごい、ジ、すごい!」


 両手を上げて喜ぶ。

 ほぼ無名の自分の父親のことを知っている人に今まで会ったことがない。


 時折ポロリと愚痴のように自分のやっていることは無駄じゃないかと呟くクトゥワになんの言葉もかけてあげられなかったキーケック。

 でも知っている人がいた。


 無駄じゃなかった。


「あっ……」


「えっ?」


 メガネの下に涙が流れた。

 たった1人でも認めてくれる人がいればいい。


 相手は子供で、クトゥワをよく知っているようには思えない。

 それでも知ってくれていることが重要で、父親の行いは無駄ではなかったとこれから胸を張って言えるような気がした。


「ごめん……ごめーん!」


 流れ出したら止まらない。

 すっかり泣き出したキーケック。


「うおーん!」


「何事ですか!」


「あっ、いえ、違うんです……」


 騒ぎを聞きつけて司書がやってきた。


「キーケック!?


 どうしたんですか!」


 人の良さそうなお爺さん司書がキーケックを見て驚く。


「あなたですか、この子を泣かせたのは?」


「えっ、いや……ちが…………くはないかぁ」


 どこにスイッチがあったかは知らないけど何かのスイッチを押してしまったのはジだ。

 だから泣かせたのはあなたかと聞かれると否定しきれない。


 さらっとウソでもつきゃいいんだけどそうできないのもジであった。


「違うー、コムさんー!」


 泣きながら否定しようとするキーケックだけど泣きながらじゃ何の説得力もない。

 長い袖で涙を拭うけど溢れ出て全然意味がない。


 司書のコムの冷たい視線が突き刺さる。

 泣かせたのはジかもしれないけど少なくとも悪意があって泣かせたのではない。


「ジ、良い子ォー!


 泣いてるボクが悪い子ォーーーー!」


 説明になってないからやめてくれ。

 今の状況で悪い子は明らかにジである。


「あなたがそういうなら……そうなんでしょう」


 いまだにやや冷ややかな目をしているがコムはすんなりとキーケックの言葉を信じた。


「今は他の人がいないので大丈夫ですが利用者が来られる前に泣き止んでくださいよ?」


「ごめんなさい、コムさぁーん!」


「珍しいこともあるものだ……」


 そう言ってコムはどこかに行ってしまった。


「早く泣き止むー!


 無理ー!」


 泣き止もうとすればするほど涙が出てくる。

 袖がビッチャビチャになっていく。


「うおっ……」


 涙を拭うのに邪魔になったのでメガネを上にずらした。

 そういえばくだらない話としてもう1つユニダロスについて聞いた。


 妙齢マダムがユニダロスの死を悼んでいたなんて話だった。

 以前よりユニダロスを支援したがっていて商会なんかよりも良い生活を条件に引き抜きをかけていたなんてチラリと聞いた。


 なぜマダムがそんなことをするのか疑問だったけど理由がわかった。

 可愛い顔してる。


 女の子とは違う、男の子の可愛い顔。

 大人になってもそう簡単に顔が崩れることはないのでこの顔のまま大人になることだろう。


 そうなるとマダムがご支援したくなる守りたい系男子になるのだな。


 ユダリカもそうだがお話にまでなるやつはかなりの確率で顔がいい。

 かの有名な傭兵王なんかは岩のような顔と言われていたけどやっぱり顔がいいと物語の花の1つになるのかもしれない。


 ブサイクが活躍してもその評価は低く見られがちになる。

 お話としてはブサイクな方が盛り上がる気もしないでもないけど。


「少しは落ち着いたかと思ったらまだまだのようですね」


「ごめんなさ〜い!」


「いいから落ち着きなさい」


 コムはトレーを持って戻ってきた。

 トレーの上にはポットやカップ。


「本来は本のある場所で飲み食いしてはいけないのですが……」


 コムはカップにお茶を淹れる。

 それをキーケックに差し出した。


「温かいものを飲めば少しは落ち着くでしょう」


「ありがとうぅ……」


「君もどうぞ。


 最近よく図書館に来る子だね?」


「あ、ありがとうございます」


 ジは魔物図鑑をしっかりお茶から離した場所に置いてお茶を受け取る。

 爽やかな香りがする。


 紅茶ではなさそうだ。


「ハーブで作ったお茶です。


 こう見えても知識を司る図書館の司書ですから知識はあるのですよ」


 飲んでみると口に良い香りが広がってほんのりと甘みがある。

 ジの作る苦いお茶とは大違いだ。

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