スカウトチャーンス!1
ジの記憶通りに日々は平和に過ぎていた。
そんなに平和を揺るがす事件など起きるはずもない。
お金も出来てきたし想定ではのんびり暮らしているはずだったのだけど思いの外忙しい。
アカデミーに行ったり朝のゴミ処理をしたり商会に関してちょっと仕事したりとやることは多かった。
「魔物図鑑……」
アカデミーには大きな図書館がある。
元は研究機関だったこともあるので子供には難しい蔵書の複写も置いてある。
ジは過去では複写の複写みたいなぼろぼろの本しか読まなかった。
それでも読めただけありがたい話だけど紙とインクの匂いがする図書館にいると胸がドキドキする。
授業に関しては特にテストとか受けることはないのでかなり自由に受けたり受けなかったりしている。
時々ジは図書館に来て本を読んだりもしていた。
忙しい中にある穏やかな時間。
適当に棚を見て気になったタイトルのものを取って読むのが楽しいのだけど最近はちょっと目的も持っている。
スライムについて何かに書かれていないかと探してみたりしているのだ。
おそらく世界で1番スライムのことを知っているのはジだと思う。
だけど一般に接して知っていることと研究や逸話を集めて通した目で見たスライムはまた違う姿や能力を見せてくれるかもしれない。
よりフィオスについて知るために本の中に何かの話はないかと色々魔物関連本を見ていた。
今日見つけたのは魔物図鑑なる分厚くて大きな本。
抱えるようにして図書館の読書スペースに持っていく。
「ほほぅ……これはなかなか……」
良い本を見つけたと思った。
記述内容は子供よりも大人向けといったところだけど詳細な絵もあり、その魔物に関する話なども収集して書いてあった。
読んでいて面白い。
弱点や特性なども書いていて、将来の技術活用の基礎にもなりそうだ。
流し見しながら目的のスライムを探す。
「あった!」
青でシンプルに描かれたスライムの絵。
パッと見たページの中の記述量は他の魔物よりも少ない。
「子供の拳大ほどの核の周りに魔力で出来た体を持つ魔物。
体は液体のようにも見えながら非常に柔らかいが弾力がある。
何でも体内に取り込みとかしているが食事と定義できるのかも不明である」
基本的に書かれていることはジも知っている。
あれも謎、それも謎と書かれていて結局謎というのがスライムである。
ただ取り込んで溶かすのは食事だとジは思っている。
「ただ知能がないと言われているが知能はあると私は思っている……」
この本の著者はスライムについても研究していたようだ。
後述にはスライムについて調べたことが書いてあった。
まずはスライムを捕まえて連れてきた。
逃げないように部屋に閉じ込めていたのだけどどうやってか逃げ出した。
体はかなり柔軟なのでドアの隙間から逃げてしまったようだ。
ただ足は遅いようでまだ家の中にはいたので捕まえた。
今度は箱の中に入れた。
なんたる事だと思うけどスライムを調べるためにはしょうがないし本の記述に怒ってもしょうがない。
しかしある時見ると箱の中にスライムはいない。
箱の一部を溶かして脱出していたのである。
この時点でこの場所は嫌だとか外に逃げるという知性を感じたらしい。
「他の魔物も調べつつスライムのことも調べてたのか……
面白いな」
基本的にスライムを痛めつけるような事はしていないが色々なことを試している。
食べ物を与えてみたり軽く刺激を与えてみたりと試行錯誤しているのが見てとれる。
ジの知らないような記述もあった。
是非とも試してみたいものまであってこの本を手に取って正解だったと思った。
しかしスライムの調査は最後まで行われなかった。
家族の病気のためにその国を離れることになり、著者はスライムを自然に帰した。
自分の魔獣ではないし仕方のない選択だった。
『スライムは知られていないだけで一般に言われているような能力が皆無である魔物ではない。
スライムは一度とて私に襲いかかる事はなかった。
他のものに興味がないのか、それとも知能があってとても優しい魔物なのかは分からないが私の考えは言うまでもない。
私の感謝を実験に付き合ってくれたスライムに捧げよう』
「……変人だな。
だけど会ってみたいな」
この世界にもスライムに好意的な目を向けてくれていた人がいたのだ。
それだけでちょっといい気分になる。
同じ時代に生きて会うことがあったなら協力は惜しまなかったのに。
もしくは共にスライムについて語らうことができたらどれほど良かったことだろう。
これ以上調べたことがある人はいないと断言できてしまいそうだと思う。
他にもまだ本は山ほどあるので探してみるつもりだけど期待はできない。
自己の実験記録の後はスライムに関する逸話などがまとめてある。
かつてスライムが進化を遂げて暴食の化け物になって国が1つ滅んだなんてお話も書いてある。
「スライム、か?」
「ん?
おわっ!」
「おお、驚かせてすまない」
本に集中していて気づかなかった。
本を読むジを真横で覗き込んでいる子がいた。
驚いてイスから落ちてしまった。
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