イメージは一目惚れだった4
「お願いがあるんです」
「なんでも言ってください!」
リンデランはバレないようにとヒディに小声で話しかけてるのにヒディの声は大きい。
半分会話がバレてしまっている。
「じゃあ……」
「ええっ!?」
リンデランのお願いに驚くヒディ。
お願いされては嫌ですとも言えない。
「えっ!
なんでだよ!」
「ジ君教科書持ってませんので」
「いや、俺が見せるし……あっ、おい!」
「ええっ!?
ウルシュナさんは聞いてない……!」
「ヒディもまだ教科書を持っていないようなのでお願いします」
「ジぃ……」
教室の空いている席は意外とあった。
どこに座るかと教室を見回しているとリンデランがジの腕を引いて空いているところに座らせた。
そしてサッとその隣に座ってしまった。
当然ジの隣に座るつもりだったユダリカがビックリして、リンデランの積極性にヒディが困惑する。
驚いている間にジの逆隣にウルシュナが座る。
ちょうど3人が座る位置は5人が横一列には座ることができない。
前の席か、後ろの席なら空いてて座れる。
リンデランからのお願い、それはジの隣に座りたいというものだった。
この授業には教科書が必要で教科書を見せることを口実にすれば隣に座れるので協力お願いしますと言われた。
だからウルシュナからは見せてもらえると思っていたのにウルシュナの方は逆側が端になるので席がない。
そんなの聞いてないと焦る。
ユダリカの方も助けを求めるような目でジを見る。
ジの友達の友達なので教科書を見せることもやぶさかではないけどいきなり食ってかかってきたヒディでは話が違う。
「……ほら、隣座れよ。
教科書見せてやるからさ」
ジに頼むとジェスチャーされてユダリカも友人の恋路を応援してやろうと腹を決める。
「……ありがとう」
納得はいかないが友達のためだとユダリカもヒディも我慢する。
「助かるよ」
「ジ君のお願いですからね」
「でもどうしてあの2人を仲良くさせようとしてるんだ?」
どう見たって初対面のユダリカとヒディ。
ジですらヒディの方とは初対面のようだったのにいきなり2人を仲良くさせたいなんて奇妙すぎる。
口には出さないけどリンデランも不思議に思っていた。
ジが仲良くなりたいのでないなら喜んで協力したけど理由は謎だ。
「ちょっとした罪滅ぼしみたいなものさ」
ユダリカとヒディを仲良くさせたい本当のところは誰にも話せない。
実はヒディがアカデミーに呼ばれるようになったのもこうしてリンデランたちがヒディと友達になったのもジがお願いしたことだった。
オロネアに頼み込んでヒディの家へアカデミーの入学招待を送ってもらった。
権威あるアカデミーに入学できるのであればほとんどの人が入学を望むだろう。
ヒディは家ではあまりスポットライトの当たる存在ではなかった。
お家を盤石にする政略結婚の道具程度の扱いだったのだけどアカデミーからわざわざ招待が来るなら行かせてみようとなったのだ。
そこでいい貴族の1人でも捕まえてくれば万々歳、縁を繋いでくれればそれでよいぐらいの感じだった。
過去ではヒディがどうだったのかはほとんど知らない。
恋愛物語として語られていたものではなかったのでヒディに関しての言及は少なかった。
ただユダリカは卵が孵ってかなり力を持つことになった。
ヒディもきっと重宝されたことだろう。
「罪滅ぼし……ですか?」
「うん、ちょっとね」
何にしたって1つ言えるのはユダリカとヒディは愛し合っていた。
最初は政略結婚だったのかもしれないが最後には妻の死のために特攻を仕掛けるほどユダリカはヒディを愛していたのだ。
幸せな結末にはならなかったけど何もなかったらきっと幸せになっていたに違いない。
ジが関わったことでユダリカの運命は変わったと思われる。
強力な運命なら最後にはどうにかしてユダリカとヒディは会うかもしれないけど過去にあったはずの幸せが無くなるのはどうにも許せなかった。
余計なお節介かもしれないけど2人が結ばれることはなくてもヒディにとって損なことはない。
「あっ、おいっ!
俺の教科書なんだからちゃんと半分ずつ見せろよ!」
「うっさい!
女の子に差し出すぐらいの男気見せなさいよ!」
「うーん……これでよかったのかな?」
流石に不安になってきた。
「ま、あれだろ、喧嘩するほど仲が良いっていうだろ?」
「そっか」
本気で嫌いだったら口も聞かない。
こうして言い争いをしている間は悪い関係でもないのかもしれない。
「みなさんお集まりですね。
では授業を始めます。
知らない人もいるかもしれませんが急きょドラム先生がご退職なされることになったので私がこの授業を担当します。
ビダーデと言います」
ほんの少しだけオロネアが来るんじゃないかと思っていたけど入ってきたのは若い女性の教員だった。
深い緑色の髪を揺らして教壇に立ったビダーデはゆっくりと教室を見回した。
キレイな顔をしているのに非常に威圧感がある。
魔物と戦う術を教えてくれるのだから戦いの経験が豊富な人、つまりは冒険者だろうとジはみている。
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