イメージは一目惚れだった3

「これで本当に良かったんですか?」


 リンデランがジの隣に寄ってきてコソッと話しかける。

 ぶつかることは想定外だったけどユダリカとこの女の子を出会わせることは計画していたことだった。


「良かったはずなんだけどな」


「ん……リンデランさん、まさか……」


 ユダリカとやんややんやと言い争っていた女の子がリンデランがジに話しかけていることに気づいた。

 お友達と合流すると言ってリンデランはここに来た。


 チラリと見える中庭には他に人の姿はない。

 つまりはジあるいはユダリカ、または両方がリンデランのお友達なのだと気がついた。


「こちらがジ君です。


 私のお友達です」


「あっ……」


 せっかく出来たお友達。

 しかも高位貴族だし良い人だしで是非とも今後仲良くしていきたい。


 そんな人のお友達と思いっきり言い争いをしてしまった。


「えっと、そのぉ……」


「なんだよ急にしおらしくなって。


 な、なんなんだよ……」


 睨まれてユダリカがたじろぐ。

 割と体格的にもデカいユダリカに対して一歩も引くことがないこの少女にはジは実は初めて会った。


 名前は知っているけど顔は知らない。

 だからこんな性格だったなんてことも当然知らない。


「まあまあ、はじめまして。


 俺はジって言うんだ。


 こっちがユダリカ」


「ヒューカディナスです……その」


「いいって。


 話しながら歩いてたこっちが悪いんだ。


 許してくれるか?」


「あ、ああ、はい!


 私の方こそカッとなっちゃって……」


 舐められちゃダメだと祖母に言われていたのを思い出した。

 特に都会の男は相手が格下だと見るやいやらしく手を出してくるからなんて何回も言われてヒューカディナスはとっさに強く出てしまった。


 貴族の貧弱子息ならしっかりとした女の子に弱いのでそれでいいかもしれないがいささか当たりが強すぎた。


「おい、こっちに謝れよ」


「チッ……ごめんなさい」


「お、おいっ、今、えっ?」


「落ち着けユダリカ。


 こっちに来たばっかで勝手がわからないことも多いんだろ」


「あれ、お会いしたことありましたか?


 どうして来たばかりだと……」


「え、えっと、こいつだよ!」


 マズイ、とジは誤魔化すようにユダリカの肩に手を乗せた。


「こいつアカデミーでは有名人でさ、知らなかったってことは来たばっか……っていう予想だよ」


「な、なるほど」


 実は知ってましたなんて怪しすぎるだろう。

 ヒューカディナスは本当にこの人が有名人なのかと首を傾げた。


「リンデランさんとウルシュナさんの友達でしたら是非ともヒディとお呼びください」


「ヒディね、よろしく」


「自己紹介は済んだか?


 早く行かないと遅れちゃうぞ」


「そうですね、ウーちゃんの言う通りです。


 教室に行きがてら話しましょう」


「そうしようか」


 そんな急ぐ時間でもないけどあまりのんびりとしていてはあっという間に遅れる時間になってしまう。

 ジたちは授業のある教室に向かう。


「ジさんってその」


「固いな、リンデランみたいに君とか呼び捨てでもいいよ」


「ええと、ジ、君は貧民……なんですか?」


 そこを聞いちゃうあたりは子供だなと思う。

 大人なら察して聞かないようなものであるが気になって聞いちゃうのである。


 アカデミーに家名も持たない一文字名前の貧民の子供がいたら誰でも気になるだろう。

 その上リンデランの仲が良さそうなのは貴族であるユダリカではなくリンデラン自ら隣に立つジの方だ。


 貧民ならば貴族と関わる機会なんて多くなく仲が良いこともまず滅多にない。

 リンデランと仲良くなりたいヒディには気になってしょうがないのである。


 いや、仲が良いだけではない。

 距離が近い。


 リンデランの方からスススとジのそばに近寄っていっている。

 男はオオカミという祖母の言葉が頭をよぎる。


 人の良さそうな笑みを浮かべているけどその裏で何を考えているか分からない。

 ヒディの警戒心はマックスになった。


「そうだよ」


「そ、そうですか」


 なんで、とまでは流石に聞かない。

 最低限の分別は持ち合わせているし前例を聞いたことがなくてもアカデミーに貧民が入ってはいけないと聞いたこともない。


「まあ……私もそんなに変わらないですからね」


 今学長である人はとても変わっているとヒディは思う。

 隣の国とは言ってもこのアカデミーから見ると距離はあり、それほど力もない小国の貴族の末の娘にわざわざアカデミーへの入学招待を送ってくるほどだから。


 自分に才能があるかヒディ自身も不安に思うけど何かを見出してくれたのは感謝している。

 あのまま飼い殺しのように閉じ込められて年上の貴族に売られるように結婚するぐらいならアカデミーで学なり、将来の目標なりを見つける方が遥かにマシだ。


 ジももしかしたらそうした才能を見抜かれた人の1人なのかもしれないとヒディは思った。

 でもだからってリンデランに近づくのは違う。


 怖い目をして見てくるヒディになんで敵意を向けられているのかジは分かっていない。


「ヒディさん」


「なんですか!」


 ようやくリンデランからジに対しての助けの要請かと身構える。

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