イメージは一目惚れだった2

 兄であるユダリカがいなくなったのに父親が生きている間に家督も譲ってもらえなかったのを見ればどのような能力だったかは分かりきっている。


「お前を家から遠ざけたくてアカデミーに入れたのかもしれないがこれは大きなチャンスだ」


 北部は何よりの実力主義。

 長子が家督を継ぐことがいまだに一般的な貴族の世界でたとえ年が下だろうと母親の身分が下だろうと実力のあるものが家督を継げる。


 アカデミーに送るべきはワガママな弟の方だった。

 ユダリカが圧倒的な力を北部領主の子供達に見せつけて認められれば逆転が起こる。


「それを出来ると俺は信じてるよ」


「……一々俺を感動させてどうするつもりだ?」


 望むのは国にいて大きな戦力となってほしい。

 もっと言えば商会とジとジの大切な人をユダリカの無理のない範囲で守ってほしい。


「友達が大物になったら俺も鼻が高いだろ?」


 でも別に国を出て行ってもいいさ。

 友達になってユダリカが良いやつだって知ったから、少しでも幸せであってくれるならなんだっていい。


「じゃあジは商会をもっとでかくしてさ、大商会にしてくれよ。


 そしたら俺もあの大商会のジですって言えるだろ?」


「そうだな……任せとけよ。


 国王級のもてなしされる商会は難しいけどそれなりに大きくしたいからな」


 こちらも望むのは悠々自適な生活。

 寝てりゃお金が舞い込んできて何もしなくても生きていけるぐらいの生活が目標である。


 死ぬまで働いてたんだ、今度は死ぬ時にゃフッカフカのベッドで逝ってやる。


「ま、お前をいじめてた奴はいないしな」


「それはかなり楽になったよな」


 ユダリカをいじめててジに向かって剣を抜いた少年は退学になった。

 表向きには父親の体調が悪くて領地に戻ることになった自主退学という形をとっているけれど休学もできるアカデミーを辞めていったことを考えると体裁のみを整えたのと同じだ。


 こうしておけば辞めさせられたとは言わせないし父親の方も体調が悪いからとしばらく表に出なくてもよい。

 オロネアとしては停学処分で済ませるつもりだったけれど変なプライドがあったのだろう。


 取り巻きは親まで出てきてユダリカに頭を下げた。

 ユダリカの父親がユダリカに全てを一任したためにそうなったのだけどユダリカは寛大に許すことにしたのだ。


 取り巻きは剣を抜いたわけではないし罪としては重くない。

 しばらくは朝早く起きて中庭の掃き掃除でも手伝えば他に課せられることもない。


「いい気味だよ。


 しかし先生も関わってたのはなぁ……」


 いじめっこ少年に肩入れしていたのはドラムという先生だった。

 小さい領地を持つ貴族の領主の弟で横にあるそれより大きな領地がいじめっこ少年の父親の領地だった。


 お家を盾にと言われると少し同情の余地もあったけどお金まで受け取って便宜を図っていたので問答無用でクビになった。

 別に好きな先生でもないので全然良かったけど。


「今回の件で先生たちも厳しく言われたみたいだししばらくはこんなことも起きないだろうな」


「人の手紙盗み見るとか勘弁だよな」


「さてと、そろそろ次の授業の教室行こうぜ」


「そうだな。


 次は魔物戦闘論だっけ?」


「うん、ドラム先生が担当だったけど先生どうなるんだろうな」


「行ってみればわかんだろ」


 ベンチから立って移動する。

 2人は会話に出さないが暗殺者についてもオロネアから話はあった。


 あの2人は兄弟でフリーの殺し屋をやっている者たちだった。

 懸賞金もかかっているような奴らだがせいぜい二流。


 子供の暗殺で油断してやられるようなレベルだ。

 だが殺し屋としての矜持はあったのか依頼主の情報も吐くことがなくある日牢屋の中で死んでいたそうだ。


 他殺か自殺かは不明。

 事件の真相は闇に葬られた。


 ユダリカもジも口にしないけど犯人の予想は出来ていた。

 確証がない以上は誰も責任の追及もできないので予想すら口に出すことはないけれども。


「教室どこだっけ?」


「教室はえっと……でっ!」


 中庭から校舎に入ったところでユダリカが人とぶつかった。


「いったぁ〜!」


 ぶつかったのは女の子だった。

 暗めの金髪の少しそばかすのある女の子はユダリカとぶつかって尻餅をついていた。


 その隣にはリンデランとウルシュナ。

 予想外の展開にジは2人と顔を見合わせた。


「す、すいませ……」


「どこに目ぇつけて歩いてんのよ!」


 他人に厳しくてもぶつかった相手に失礼な態度は取らない。

 謝罪して差し出された手を無視して女の子はキッとユダリカを睨みつけた。


 予想外の出来事ではあるがもうちょい良い場面になると思っていたのになんだか不穏。


「は、はぁ?」


「こんな華奢でか弱い女の子にぶつかるだなんて何考えてるのよ!」


「な……悪かったって言ってるだろ!


 お前こそちゃんと前見て歩いてないからぶつかったくせになんだよそれ!」


「見てたわよ。


 あんたが角から飛び出してきたんでしょ」


「こっちからすればお前が飛び出してきたんだ。


 見てたなら止まるなりしてかわせるだろ?

 謝ることも知らないのか?」


「なんですって!」


 もっと……素敵な出会いになると思ってたのにな。

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