イメージは一目惚れだった1

 欲しい人材は多い。

 身を守ってくれるほどの強い人、クモやファイヤーリザードやあるいは他に考えている魔獣と契約していて信頼できそうな人、職人、より効率的に技術を開発するための研究者。


 考え始めるとキリがない。

 あとは統括的に仕事の管理を任せられるような頭の回る人なんかがいてくれたらいいのになと空を眺める。


「なんかあったのか?」


「んー?


 いーや、なんもなーい。


 何もないから色々考えちゃうんだよ」


 アカデミーの中庭。

 こんなに落ち着いていていい場所なのに人気がなくて人も少ない。


 だから落ち着いているのだと言えるのだがもったいないとも思ってしまう。

 ユダリカとジは授業の合間にこうして中庭でだべっていた。


 普通は空いた教室なんかにいるもんだけど人がいない方が好きで中庭にいた。

 気温もだいぶ冷え込んできたのでより人が少なく、頬を撫でる風が冷たい。


「いいかユダリカ、俺以外にも友達作れよ?」


「なんで」


 ちょっと拗ねたような顔をするユダリカ。

 よくよく考えれば死にかけるほどの目にあってユダリカを助けた。


 つまりは少し変えるだけじゃ飽き足らずユダリカの運命に完全に介入して破壊したのだ。

 過去とは変わった人生を歩んでいたと思うけど大きな出来事にジが関わってユダリカの運命はある程度ユダリカが決められるようになったはずだ。


「お前はもう卵を抱えた役立たずなんかじゃない」


 魔獣が生まれてユダリカは魔力を得た。

 いつか魔力を持った時にと理論については欠かさず学んでいたユダリカは魔法の扱いについても頭角を表しつつあった。


「周りの見る目は変わった。


 アカデミーの中ではな」


 元々高い剣術の腕と真面目な授業態度で頭もいいので素質だけをみると最高峰の男だった。

 ゼスタリオンが生まれて卵という奇怪さが無くなった。


 その上で魔獣はワイバーンであり名実ともに文武両道だと言っていい。

 アカデミーの中でのユダリカの評価は一変した。


 貴族としての位もバカにできる人じゃなかったのでいまだに陰で言う人はいても表立ってバカにする人はいなくなった。

 ここで1つの可能性を考えた。


 ユダリカも家督相続争いにまだ勝てるのではないかと。

 過去では卵は孵化しないままこの後ユダリカは小国に婿として出されてしまうが今は全く状況が異なっている。


 家督を継ぐのにも十分な素質を備えている。

 さらにアカデミーには他との交流を持ちにくいためなのか北部系の貴族も多い。

 

 遠く離れた北部では情報が遅くユダリカの実態把握にも時間がかかる上に牽制もできない。

 まず同じ子供から落としていくのだ。


 信頼できる仲間を増やし北部での地位を盤石にする。

 過去自分の家門を滅ぼした男が今度は家督を継ぐ。


 面白い話ではないか。


「今はアカデミーがお前を守ってくれているがお前が変わったことが知れれば無事で済むかは分からない」


 アカデミーの中での襲撃に失敗した以上もうアカデミーの中で襲われることはないだろう。


「力をつけろ。


 お前個人の力だけでなくお前やお前の地位を脅かすことが出来ないように」


「ジ……」


「そしてさ、自信持って揺るがなくなったら呼んでくれよ。


 北部行ったことないんだ」


「……うん。


 うん!


 呼ぶよ。

 俺の家の最大の賓客としてジのことを呼ぶよ!」


「別にそこまではいいよ。


 友達だって堂々と言えるぐらいなら……」


「ダメだ。


 国王を迎える時ぐらいに迎えなきゃ俺の気が済まない」


「いやいや!


 俺がヘーキじゃないわ!」


 一貧民が国王クラスのもてなしを受けるなんてジの方が緊張してしまう。

 ユダリカの目が冗談を言っているのには見えないから尚更焦る。


「そっか……家を継ぐ…………これまで必死で生きてきたから考えなかったな。


 俺が家を継げば母さんも、穏やかに暮らせるかな?」


「お前にも母親いんだもんな」


「そりゃもちろん。


 母さんは優しくてとてもあったかいんだ。


 俺がこんなんだから離れに幽閉されるように暮らしてるからちょっとは楽させてやりたいな」


 お話以外のバックグラウンドまで考えを及ばせたことはなかった。

 ユダリカの母親について話の中で触れられた記憶がないので忘れていたがユダリカにも母親がいる。


 ユダリカの父親には妻が2人いてユダリカは第一夫人の子になり、弟は第二夫人の子になる。

 ユダリカの卵がなかなか孵らないので後継者争いに劣り、ユダリカの母親はその責を負うことになった。


 大きな屋敷にある離れで多くの時間をユダリカは母と共に過ごした。

 今もこうしてアカデミーにいる間も母は離れで息を殺して生きているのだと思うとやらねばならないことがより形になっていく。


 弟とその母親を追い出したいなどとは思わないけれど自分の母親をちゃんと本館で暮らせるようにはしてあげたい。


「でもどやったらいいんだ?」


 友達作りもしたことない。

 ジだって向こうから来てくれて、事件があってようやく仲良くなれた。


 方法が分からない。


「まあ、何も友達にならなくてもいい。


 北部の連中は特にお前のことを舐めてるはずだ。


 だから力を見せつけろ」


「力を?」


「誰が後継者にふさわしく、付くべき人は誰なのかをお前が態度で示すんだよ」


 弟も出来は悪くないが優秀ではなくユダリカには劣る。

 最後にはユダリカを見下してワガママになり、少ない才能を自ら潰して凡才と成り下がった。

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