知恵を絞り体液を絞り1

 何事も試行錯誤。

 知らないことは試してなんとかするしかない。


 ヒスを仲間に引き入れたジは日々色々と試していた。

 まずは採取。


 ファイヤーリザードの腹部から採れる体液を集めるところから始まった。

 といってもそんなに分泌されるものでもない。


 巣を作る時に使うもので常時出ていては移動した時に地面に跡もついてしまうので普段はあまり出さないものだった。

 とりあえずはこそげ取る。


 柔らかいヘラを使って仰向けになったミュシュタルのお腹を擦って少しずつ体液を採取する。

 幸いミュシュタルはお腹をヘラでカリカリされるのは気持ちがいいようで採取することそのものに苦痛はなかった。


 しかしそれで採れる量は微々たるものだった。

 毎日続けて何日もかけてようやく小瓶にいっぱいなるぐらいだった。


 原液そのままではなく薄めて使うことは知っていたので量的に少なくても何とかなるかなと思っていたけど想定より少なかった。

 このままじゃ足りない。


 過去でも初めてこれが出てから大衆の商品とされるのには時間がかかっていた。

 これは商品化にあたっての問題かと思っていたけどその前の問題だったのかもしれない。


「ギュッと絞りゃいいじゃん」


 これはリアーネのアイデア。

 1人じゃ限界はあるのでみんなのアイデアを借りる。


 リアーネの手の動きだとミュシュタルを雑巾のように絞ることになってしまうけどアイデアそのものはいい考えだ。

 別に拷問のように絞るつもりはない。


 そんなことしたら死んじゃうからね。

 出来るだけミュシュタルが嫌がらず、負担にもならない方法で長く続けていきたい。


 絞る、から着想を得てマッサージしてみることにした。

 手袋をつけてお腹周りを中心に揉みほぐす。


 効果としてはちょっとあった。

 少し出てくる体液が増えたのだ。


 2割ほどの増加。

 そもそもの量が少ないので2割増加も総量としてはあまり変わらない。


「運動ですよ。


 やっぱり動くと汗をかくから体液もそれで出てきませんかね?」


 次はユディットのアイデア。

 面白い考え。


 その考えも一理ある。


「ひ……ひぃ……はぁ……」


 と言うことでユディットが朝に行っている体力作りのランニングにミュシュタルとヒスも参加することになった。

 ゴミ処理の仕事がない暇な時にはジも参加していたもので貧民街の見回りも兼ねている。


 しかし一般の女の子。

 むしろ体力のない方のヒスはダメダメだった。


 ミュシュタルは楽しそうに一緒に走っていたので結構大丈夫そう。

 ヒスの体力問題はちょっとずつ改善するとしてミュシュタルは魔獣で人より体力があるので仕方なくおもりをつけて走らせることにした。


 結果、またちょっと体液は増えた。

 マッサージと合わせると4割増しぐらいになった。


「うーん……こんなもんなのかな?」


「ま、まさかの肉体労働……」


 死にそうになりながらも食らいついてくるヒス。

 子供であってもちゃんと給料をもらえている。


 まだ何も成し得てないのに給与を払ってくれるジの期待に応えたいとヒスもヒスなりに頑張っていた。


「どうにか探し出して数揃えるしかないのかな?」


「ジ兄!」


「どうした、ケ?」


「トカゲさんからなんか取るためにはねぇ、茹でるの!」


「んん?」


「女将さんが言ってた。


 美味しい出汁を取るには食材をちゃんと煮込むって!」


 タとケはタとケなりにジの力になろうと考えた。

 ただ考えているうちになんだか分からなくなってきてファイヤーリザードから何か取るって言うことだけが一人歩きした。


 そこで思いついたのが出汁を取ることだった。

 じっくり煮込んで美味しい出汁を取る。


 クズ野菜みたいなものでもうまく出汁を取れば美味しい料理になる。


「どう?」


 どうなのかと聞いているけど目は褒めてと言っている。


「うん、中々面白い……いや、結構面白いかもしれないな」


 撫でようとした伸ばした手が止まり、ケが不思議そうにジの手を見つめる。

 ちょっと背伸びをして自分から手を迎えに行く。


 グリグリ〜と頭をジの手に頭を擦り付ける。


「あとはミュシュタル次第……これから寒いし意外といいかも……」


「ケ!」


「ふえっ?」


「うん……いい考えだ!」


 考えがまとまったジはパッとケの顔を両手で挟んだ。

 ずいっとジの顔が近づいてケが顔を赤くする。


「いいぞー!」


「あうわうあう……」


 ムニムニとケの顔を揉むジ。

 ジだったらこんなこと思いつかなかっただろう。


 ケのほっぺたは柔らかくムニムニしてて気持ちがいい。

 顔を真っ赤にしたままされるがままのケ。


「えっ……ミュシュタル茹でるんですか!?」


 その横で怯えているヒスとミュシュタルであった。


 ーーーーー


「なんで石を焼いてるんだ?」


「生活の知恵ですよ」


 ジの家には小さい暖炉がある。

 煤けてて燃料もない時には使わないけど本当にヤバい時には火を焚く。


 今はそれなりにお金があるしタとケが寒さに震えているのは見たくないのでちゃんと暖炉を活用している。

 ただ金をケチったのか暖炉のサイズは小さい。


 家を広く見せようと部屋のサイズは広めなのに暖炉は小さいので暖まりが悪い。

 なので寒いと自然とみんな暖炉前に集まる形になる。

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