知恵を絞り体液を絞り2

 ジはどこからか石を持ってきて火の中に突っ込んだ。

 流石に石は燃えないので燃料にはならないがそんなことが分からないほどジもガキじゃないとグルゼイが首を傾げた。


 ほどほどに石が火で熱されたと思ったら火の中から石を取り出す。

 そのままじゃ熱すぎるので少し冷ましてからジはそれを布で厚めに包んだ。


「ほれ、あんまり握ったり布が解けると危ないから気をつけろよ」


 ちょっと揉んだりしてから横にいたタとケに布の塊を渡す。

 

「あったかーい!」


「ホカホカ!」


 布が中の石で熱されて温かくなっていた。

 タとケように厚めに布を巻いたのでじんわりと温かく、頬に当てたりして温かさを楽しんでいる。


「弟子よ」


「どうぞ、師匠」


「うむ、用意がいいな」


 欲しがるだろうと思ってグルゼイの分も用意してある。


「あんまりずっと同じ場所に当て続けると良くないから時々場所は変えてくださいね」


「分かった」


 前に指先が冷えると言っていたグルゼイは両手で包み込むように布を持っている。

 この石を温めて使う方法は過去で学んだものだ。


 過去で貧民街は戦争により焼けてしまった。

 住む場所はあれど土地しかないような状況で雪がちらつくぐらいに寒くなってしまった年だった。


 家もなく雨風を凌げない貧民たちは身を寄せ合ってなんとか生き延びていた。

 鉄屑を集めて枠を作り、燃やせるものを持ち寄って火を焚いて寒さに耐えていた。


 そんな時に1人の男が焚き火に石を入れたのだ。

 一悶着あったけれど入れてしまったものはしょうがない。


 怒るだけエネルギーの無駄だと諦めていると男は石を焚き火の中から取り出して布に包んだ。

 何をしているのか聞いてみるとこれで暖を取るのだと言う。


 その場にいる全員が近づいては火の恩恵を受けられないので少し距離をとって暖まっている。

 そうすると火に正対していない背中などはどうしても寒い。


 かと言って背中を向ければ腹が寒い。

 と言うことで男は火で熱した石を包んだ布を抱えるようにお腹に当てて火に背を向けて座った。


 少し触らせてもらったら布は温かく、ただ背中を向けて暖を取るよりもよほど賢く見えた。

 ジも真似し始めて、他の人たちもいつの間にかやるようになった。


 石の取り合いでケンカなんか起こることもあった。

 自分の石が分からなくならないように管理する石守りなんてことをやって小金を稼いでいたのも懐かしい思い出だ。


「あちち」


 ジは火からさらに石を取り出して袋に入れる。

 当然ながら暖を取るためにもやっているのだけど本当の目的は他にあった。


 あっつあつの石を持って向かいの家に行く。

 なんとこちらの家も買い取って作業場としていたのだ。


 入ってすぐわきのところにミュシュタルとヒス。

 2人の横には四角い背の低い木の箱があってその中には水が張ってある。


「お待たせ。


 おいしょ、はいこれ」


「これなんですか?


 わっ、あったかい……」


 ヒスにも熱した石を布で包んだものを渡す。

 何気なく受け取ったけれどその温かさに驚いて落としそうになる。


「あったかいだろ?」


「はい、気持ちいい温かさですね。


 ミュシュタルもえいっ」


 ヒスがミュシュタルの首に布を当てる。

 ミュシュタルが驚いてカッと目を見開いて、じんわりと伝わってくる温かさに気持ちよさそうに目を細める。


 温かいのは嫌いじゃなさそうだとその様子を見てジは思う。


「あっち!」


 そしてジは気をつけながら水の入った箱の中に袋の石を入れる。

 熱を持った石が水に触れてブクブクと音を立てる。


 これも生活の知恵だ。

 過去、若い時はそうでもないけど年を取ると妙に風呂につかりたくなる時があった。


 一度そうした気持ちよさを知ってしまうとまた体験したくなるのはしょうがないことである。

 老年のジは貧しかった。


 ずっと貧しかったんだけど年寄りになった時には諦めたように身の回りにあるもので満足して暮らしていた。

 風呂付きの家なんて貴族ぐらいしか持っておらず、街から外れた古い家では衛生のために設けられた大衆の浴場に行くのも楽なことではなかった。


 だから少しでもお風呂気分、かつ温かいお湯で体を拭こうと思った。

 少し大きめの木桶に水を入れ、火で熱した石を入れる。


 すると石の熱で水が温められてお湯になる。

 よくそれに足を突っ込んで体を温めた。


 その経験を活かしてミニ風呂を作る。


「んー……これぐらいでいいかな?」


 ケのアイデアはミュシュタルを茹でることだったけど発想としては悪くない。

 茹でちゃ可哀想だけど水に浸かるのはどうかと考えた。


 どの道水で薄めて使う体液。

 最初から水に溶かして採取してしまうのはどうだろうと思い付いたのだ。


 ただしミュシュタルはあんまり水が好きではないみたいだった。

 普通に水を張っただけではその中に入ってはくれなかった。


 そこでジはお風呂を思いついた。

 ヒスの話からも温かいのは好きだと聞いていた。


 特にこの頃寒くなってきたので出しているとどこかで暖を取りたがるのだという。

 お湯に手を突っ込んで温度を確かめるジ。

 

 いきなり熱くしては調整が面倒なのでまずはぬるめから様子見である。

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