お試しいかがですか?2

「ただこの商品はまだ発売の目処は立っていません」


「期待させておいてなんだ。


 まだ売るかもわからない物の話をしたのか?」


「売るのは確定です。


 でも揺れない馬車の時もあったじゃないですか」


 ニヤリと笑ってジは2人にウインクする。


「なるほどな」


 パージヴェルもこちらの方はすぐに分かった。


「そういうことなら喜んで引き受けるぞ?」


「あら、どう言うことかしら?」


「やっぱりいきなり商品化するのは難しいと思うんです。


 馬車の時もそうでしたけど誰かが試して、ご意見いただければなと思いまして」


「もしかして……」


「引き受けてくださるなら無償で馬車を加工して新商品の先行体験が出来ます。


 気づいたことや意見があったらまとめて教えてもらう必要はありますけど」


「今日来たのは正解だったわね」


 新進気鋭のフィオス商会の新商品を試すことができる。

 今話で聞いただけでも是非加工してもらいたいぐらいのものをただで利用できるのだから断るわけがない。


 ウルシュナのことがなくても仲良くしておきたい少年。

 サーシャはウルシュナのことを褒めてあげたい気分になっていた。


 パージヴェルは受けるつもり満々だしサーシャも引き受けてもらえることになった。

 2家の馬車ぐらいならすぐに加工できるし期待してるのはパージヴェルよりもやはりウィランドにだ。


 商品としての価値や利用、それに賢いのですぐに向こうから連絡が来るに違いない。

 フェッツの方にも行っとかなきゃなと思いながらジは今回のお試しについての契約書を取り出す。


「それと1つ重要なことを聞きたいわ」


「なんですか?」


「レディーフレマンのケーキのことよ」


 持ち帰り厳禁のレディーフレマンのケーキ。

 ジが何かしらの方法でケーキの品質を保って持ってきたことは分かった。


 そうなると今後も同じことが可能になるのか、サーシャには気になった。

 馬車もそうだがレディーフレマンのケーキを持ち帰ることができるとなると貴族の女性が目を変えることは確実だ。


 正直な話甘いものに執着するつもりなんてなかったサーシャもまた食べたいとそう思わされた。

 もしかしたらレディーフレマンの動向をよくチェックしておく必要があるかもしれないと思った。


「言ったでしょう?


 まだ商品化には早いって。


 でも今回はみんなのため特別にケーキを作ってくれましたし……今後レディーフレマンのお店は変わるかもしれないですね」


 ケーキのために冷えたお店は長居できるものじゃなかった。

 本当ならケーキを楽しみ、ゆっくりとお茶でも飲んでもらいたいのだけどそうもいかない。


 そうでなくなったとしたら。

 今でさえ予約の取れない人気店であるレディーフレマンのお店がジのおかげでより人気のお店になったとしたら。


 この世界は残酷だ。

 いかに優れた武力を持とうともそれだけでは生き残ることはできない時がある。


 金貨を投げつけても人は殺せないけど金貨を上手く使えば人をどうとでもできる。

 ジは自身が金貨のように価値がありながらも、金貨の使い方も知っている。


 すでに騎士もいる。

 武力は金で買うこともできる。


 貴族子息のボンボンなど金貨を投げつけるぐらいの使い方しか知らないものが多いがジは違うのだ。


 やっぱり娘とくっついてもらいたい。

 契約書を持ち帰ってすぐにルシウスにサインさせようと思ったサーシャだった。

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