卵が孵るには3

「そうだな、場違い感があるな」


「ええっ!?」


 そこは否定してくれるものだと思って言ったのに普通に肯定されてしまった。

 場違い感で言えばオランゼらへんもあるから別にそんなに気にすることもない。


 というか貴族も貧民も平民もごちゃ混ぜなこんな場にふさわしい人なんてのも逆にいない。


 まあ打ち解けてない感があるから浮いて見えるのだろう。


「でもお前も友達だからな。


 これからこの場にいても場違い感がなくなるぐらい仲良くなりたいな」


「そ、そうか……」


 パッとユダリカの耳が赤くなり顔を逸らす。

 ユダリカにとっては恥ずかしいようなことをジはサラッと言ってのける。


 こんな時に気をきかせて俺も仲良くなりたいって言えればよかったけどそんなこと口にしたら恥ずかしくてまたジから逃げてしまう。


「ははっ仲良くしよー……ぜ」


「軽々しく人の肩に手ェ回してんなよ」


 流石に女性陣に混じれずライナスがジたちの方にきた。

 ジの友達なら自分も友達だぐらいの気持ちでユダリカの肩に手を回したのだけどユダリカは冷たい目をしてライナスの手を肩から外した。


 手を弾かなかっただけ丸くなったもんだとジは思うけど狂犬の顔を覗かせたユダリカにライナスはちょっと呆然とする。


「お、おいっ……恥ずかしいだろ……」


 なんかどうなるのか気になってジがユダリカの肩に手を回してみる。

 また耳を赤くしてユダリカは慌てた顔をする。


 手を払いのける様子もなく照れたように受け入れて、自分も手を回すべきか迷ってモジモジとしている。


「…………」


「おいっ、お前は許可した覚えはないぞ」


「ふっ……良い子だ」


「な、なんだよ。


 やめろよー」


「いや、態度違いすぎ!」


 再びユダリカの肩に手を回そうとしたがキッと睨まれる。

 勝ち誇った顔をしてジがユダリカの頭を撫でるがそれすらもユダリカは照れながらも拒否する様子はない。


 あまりにもジとライナスでは取る態度が違いすぎる。

 ここまでハッキリしていると不愉快に思うどころか面白い。


 爆笑するライナスをしかめっ面で睨みつけるユダリカ。

 仲良くなれそうでよかった。


「ほんと……羨ましいよ」


「何がだよ?


 お前貴族だろ?


 こっちからすりゃあ貴族の方が羨ましいよ」


「…………この人たちはあったかい。


 みんな笑ってて、仲が良くて、ちゃんと帰る場所がある」


「なんだ?


 お前帰るとこないのか?


 ならここにいればいいだろ?」


 ライナスはユダリカの事情なんて知らない。

 家がないのではないけどユダリカには帰るべき場所がない。


 家に居場所がないのだ。

 結局アカデミーには友達もいないし、寮に帰っても1人だった。


「だってここは俺の家じゃないし……」


「俺の家でもないけど俺の部屋はあるぜ。


 あっちのオッさ……グルゼイさんとかタとケの双子もここの家の持ち主でもないけどここに住んでんだよ」


 地獄耳。

 明らかにオッさんだろうにオッさんと言われてライナスを睨みつけるグルゼイ。


「えっと……?」


「ここはジの家なんだ。


 だけどなんだかみんな住んじゃうんだよな。


 それにジはデカい男だからみんなを受け入れちゃうんだ」


「みんなじゃないさ。


 小汚いジジイとかは入れるつもりはない……けどユダリカならオッケーだぞ」


 ただ現実的にはもう部屋はいっぱいだから両隣のどっちかの家になるかもしれない。


「もし、もしだけど、俺に居場所がなくて、家追い出されたら……ここに来てもいいのか?」


「そんときゃ迷わず来いよ?


 どっかでフラフラしてんじゃなくて……友達頼ってくれよ」


 ユダリカの顔がキューってなって目がウルウルとする。


「俺さ……弟がいるんだ。


 弟の方が出来るやつであんまみんな俺のこと期待してなくて、弟も嫌いじゃないんだけど最近ちょっと嫌なやつになってきてて……俺も良い兄貴になりたくてもなれなくて……


 だから家追い出されるかもしれない」


「だったらうち来いよ。


 今更1人ぐらい増えたって構いやしないよ。


 なんてたって俺が家主だからな」


「…………良い兄貴ってなんだか分かんなかったけど……良い兄貴ってジみたいなもんなのかな」


 いてもいい場所。

 帰ってもいい場所。


 どうしてだろうか、そういう場所があると思えるだけで心が軽くなる。

 いざという時に笑顔で迎えてくれる人たちがいるところがあると思えることがこんなにも嬉しいことだなんて。


「うっ!」


「ユダリカ!」


 胸を押さえて床に座り込むユダリカ。

 なんだか胸の奥が熱い。


「エ!」


「う、うん!」


 エが来てユダリカに治療魔法をかける。


「……ダメ。


 効果ないよ」


「ユダリカ、大丈夫なのか!」


「うぅ……だ、大丈夫……」


 苦しくて辛い。

 けどなぜだか嫌じゃない。


 胸の熱さが全身に広がり体が熱い。

 同時になぜだか嬉しくなる。


 鼓動が早くなりどこかに飛び出していきたくなるような抑圧された気持ちが不思議と胸に感じられる。

 体が熱くて手の感覚がなくなって卵がゆっくりと床を転がる。


 みんな心配そうにユダリカを見つめているがエの治療も全く効かない。

 苦しいんだけど苦しくない。


「卵が……」

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