殻を破れ6

「ふっ、ガキにしてはやるな。


 数年仕込めば使えそうだ」


「貴族のガキなんてやめておけ。


 面倒なだけだろ」


「それもそうか。


 さて……」


 剣の男と槍の男の視線がユダリカに向く。

 ユダリカは卵を大切そうに抱えたまま逃げることもできなくなっていた。


「その手に持ってる卵、渡してもらおうか」


「な……なんで」


「さあな。


 俺たちは目的までは知らねえがその卵ぐちゃぐちゃにすり潰すんだよ」


「大人しく渡せばお前とお前のお友達の命くらいは助けてやるよ」


 男たちの目的はユダリカの卵。

 けれどただ手に入れるのが目的なのではなくて手に入れて破壊するのが目的なのだと言う。


 ユダリカの返事も聞かずに卵に手を伸ばす槍の男。


「やめろ!」


 ジが起き上がり卵に手を伸ばす槍の男の元に走った。


「おい、来たぞ」


 剣の男はそんなジの様子を見て鼻で笑って特に止めもしない。


「チッ!


 お前!」


「そんなガキの攻撃ぐらい……」


「うわあぁぁぁ!」


 真っ直ぐに槍の男に接近したジは横に剣を振った。

 なんてことはない単純な攻撃。


 もう一度ぐらい殴ってやれば大人しくなるだろうとギリギリを回避した槍の男は目を押さえて苦痛の叫び声を上げた。

 横で見ていた剣の男も驚く。


 槍の男の見切りに間違いはなかった。

 槍の男はジの剣をかわしたはずなのに槍の男の左目はジの剣に切り裂かれていた。


 切られた理由も分からず悶絶する槍の男。

 ジの速度が速くなったのでも見切り損ったのでもない。


 ジの持つ剣はただの剣ではない。

 フィオスが変体して剣の形を取ったものである。


 変化速度はそんなに早くはないけど振っている間に多少伸びることぐらいのことが出来るのだ。

 振り始めと振り終わりでのジの持ったフィオスソードの長さが違っている。


 ギリギリを見切ったが故に伸びたフィオスをかわしきれなかったのだ。


「ユダリカ、戦え」


「えっ……」


「その子を守るんだろ。


 自分で守れよ。


 そして諦めるな」


「で、でも……」


 ユダリカは今剣も持っていない。

 剣を持ってたって大人に勝てるはずがない。


「たとえ素手だろうと戦うんだよ!


 卵を守れるのはお前だけだろ」


「…………」


「俺も手伝うからさ」


 ジはフィオスを剣から盾の形にした。

 倒そうと思って倒せる相手じゃない。


「テメェ……それ魔道具だったのか!」


 変化したフィオスを見て槍の男もなぜやられたのかを悟る。

 魔道具じゃないけど剣が盾に変形するのだ、剣の形が変化したことも気づいた。


「ぶっ殺してやる!」


 目を失って槍の男が激昂する。

 貴族の子供に手を出すと厄介なことになるが目の代償を払わせなければならない。


 ジを殺すつもりで槍の男は槍を突き出した。


「甘いな!」


 ジはそれを柔らかく受け流す。

 無理に攻めるよりも上手く受け流して時間を稼ぐ。


 殺すなら手っ取り早く。

 剣の男も加勢しようとする。


「う……うわああああ!」


 段々と状況も見れるようになってきたユダリカ。

 ここで剣の男まで加わったらジに勝ち目はない。


 今この場で戦えるのはユダリカしかいない。

 何もしなきゃ何もかも失う。


「ごっ……」


 槍の男の頭に何か固くて重たいものが当たった。

 潰された目の側から飛んできたから見えずに直撃したそれは卵だった。


 まさかの卵投擲攻撃。

 これぐらいじゃ壊れないと分かっているユダリカだからこその攻撃だけど一瞬ジもヒヤリとする攻撃であった。


「お、俺だってやるんだ!


 俺のゼスタリオンは俺が守るんだ!」


 ユダリカは剣の男に飛びかかる。

 なんのダメージにもならないようなタックルだけど服を掴み、離れまいとしがみつく。


「その意気だ!」


 その間にジは槍の男のこめかみを盾の縁で思い切り殴りつける。


「クソッ!


 このガキが!」


 剣の男がユダリカの服を乱雑に掴んで力任せに引き剥がして投げ捨てる。

 簡単な仕事のはずだったのになぜこんなことになったのか。


 全部このガキのせいだと血走った目をジに向ける。


「ふっ……」


「こ、コイツ!」


 これだけ必死にかかってきたのだからまたジがかかってくると思ったらむしろ距離を取っていた。

 ユダリカと卵が近いから戦っていたのだ。


 卵は転がりユダリカも投げられて距離が出来た。

 そこまで積極的に相手の懐に飛び込んでいく必要もない。

 

 バカにしたように笑うジの顔がシャクに触り、剣の男はジとの距離を詰めた。

 剣を振り上げ、頭から真っ二つにしてやろうと振り下ろした。


「はっ……?」


 しかし剣はなかった。

 剣だけじゃない。


 剣を持つ手も、手に繋がる腕もない。

 肘はある。


 肘から先がなくなっていた。


「アカデミーで何をしているのですか!」


 ようやく駆けつけてくれた。

 少年らの騒ぎのせいで先生たちが一斉に来て、一斉にはけてしまったので来るのに時間を取られた。


 ジは誰か先生を呼んでほしいと思ってエスタルの名前を叫んでいたのできっとエスタルが呼んでくれたのだろう。

 オロネアが怒りの表情を浮かべてそこにいた。


「手足が無くとも、口があれば何者かはいえますね」


 水を高速で噴射する。

 剣の男は防御をすることもできずに手と足を切断され地面に倒れる。

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