殻を破れ7

 剣の男の切断されたところを水が包み込み死なないように止血する。


「あなたたち、大丈夫ですか!」


 ジによって殴られた槍の男は気絶していたけれどオロネアはちゃんと水の魔法で拘束していた。

 青い顔をしてジに駆け寄るオロネア。


 少年たちの件で頭を悩ませていたので少し動くのが遅れてしまった。

 アカデミーの中で襲撃事件が起こるなんてとんでもない事態である。


「俺は大丈夫……いてっ!」


 別に問題はないと思ってユダリカの方に行こうとしたら腹が痛んだ。


「見せなさい!」


 オロネアがジの服をまくる。


「大丈夫ではないじゃないですか!」


 容赦なく蹴り飛ばされたジの腹はひどく青くなっていた。

 戦いにおける興奮状態で痛みを忘れていただけで子供が大人に本気で蹴られて無事なはずはなかったのである。


 腹の大きなあざを見て自覚し始めるともうダメだった。

 ドンドンと痛みが強くなっていき、脂汗をかき始める。


「ジ!」


 ユダリカもジの方に走って来た。

 その手には無事だった卵を抱えている。


 投げ飛ばされて転がった時に多少の擦り傷はあったけれど上手く転がれたので他に大きな怪我もなかった。


「お、おう……無事でよかったな」


「ごめん……ごめん!


 俺のせいで!」


 卵を狙っていた。

 と言うことはあの男たちはユダリカを狙っていたことになる。


 単にジはユダリカといたから巻き込まれたのだ。

 泣きながらジに謝る。


「いいって……俺が守りたいから守ったんだ」


 こんな時にどうしたらいいのか頭が回らない。

 元年寄りの性だろうか、ジは優しく微笑むとユダリカの頭を撫でた。


 ジの方が身長も低いし、まだ幼く見える。

 なのにこの時ばかりはジの方がとても大人にユダリカには見えていた。


「こういう時はごめんじゃなくて……ありがとう…………」


 痛みがひどくてダメだった。

 痛みがひどくなればなるほどに痛みを自覚して、より痛くなっていく。


 頭の奥でズキンと痛みが走ったような気がして、ジは意識を失ってフラリと倒れた。


「ジ……ジ!」


 オロネアが倒れたジを受け止める。

 やったこと、そして背負っていることの重さに比べてジの体はとても軽いとオロネアは思った。


「先生!


 コイツは……大丈夫なんですか!」


「大丈夫……ではないけれど死にはしないわ」


 呼吸はしている。

 顔色が非常が悪いので油断はならないけれどおそらく命に別状はない。


「学長!」


「マーロン、この場は頼みましたよ!」


 走ってきたおばちゃん先生に後を任せてオロネアはジを抱き抱えて医務室に走った。


「え、ええっ!


 が、学長ー!」


 マーロンは戦闘系教員ではない。

 泣きそうな顔したユダリカと気絶した槍の男と手足を切断されて拘束された剣の男。


 どうしたらいいのかマーロンも分からなかった。

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